第81話凍てつく城の来訪者
イーネェヴィア大陸、凍てつく大地で名無しの帝が住む城―――
その城の大広間にて、仮面舞踏会が開かれていた。
シャンデリアの光が大広間を照らす。
貴族たちは笑い、踊り、杯を交わす。
だが、その目は笑っていない。
玉座に座るゼルヴァインが、ゆっくりと視線を動かす。
それだけで、空気が張り詰める。
「——お前だ」
名を呼ばれた男は、震える足で前に出た。
歓声も、悲鳴もない。
ただ静かに、その姿が奥へと消えていく。
そして——戻ってくることはなかった。
音楽は止まらない。
踊りも止まらない。
何事もなかったかのように、夜は続いていく。
玉座に座るゼルヴァインだけが、静かにそれを見下ろしていた。
そして音楽が流れ続ける中——
「……つまらない」
その一言で、空気が歪んだ。
誰もが動きを止める。
入口に、仮面も付けずに立つ男がいた。
雪を纏ったまま、ゆっくりと中へ踏み込んでくる。
「強い奴はいないのか?」
衛兵が一斉に動こうとする——が。
「やめろ」
ゼルヴァインの一言で、全てが止まった。
その男は視線を巡らせる。
貴族でも、騎士でもない。
——“強さ”だけを探している目。
「……ああ」
そして、玉座を見上げる。
「いるではないか」
その瞬間、大広間の空気が完全に変わった。
「皆、舞踏会は続けたまえ」
ゼルヴァインは仮面を着けている者にそう告げ、その男は舞踏会を避けて通ることなく、突っ切ってゼルヴァインがいる階へと向かう。
その男の腕に、踊っている女性の背中が当たろうとする。
踊りに夢中になっているのにも関わらず、舞踏会に参加している者は、全員あの男に触れなかった。
誰も、触れようとしない。
いや——触れられない。
その男は、何も気にせず進み続ける。
「弱者ばかりだ」
——だからこそ、壊し甲斐がない。
……父上は、これを楽しめたのか?
男は興味を失ったように、視線が離れる。
男はゼルヴァインがいる階へ上がり、ゼルヴァインと対面する。
ゼルヴァインを守る騎士は前に出るが、冷や汗や震えが止まらない。
男はゼルヴァインへと歩み、そのまま騎士達を避けることなく通り過ぎていく。
その巨大な体と、圧倒的な存在感に、騎士達は自然と剣を下ろしてしまっていた。
そして二人の間に、沈黙が落ちる。
音楽だけが、遠くで鳴っていた。
「………何を求めている」
「退屈しのぎか?」
「―――"ザイトライヒの息子よ"」
その夜、凍てつく城で——
二つの“異質”が、初めて向き合った。
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ソリで雪原を走っていると、大きい町が見えてきた。
至る所に灯りがあり、遠くからでも賑わっているのがわかる。
「あそこが目指してた場所か」
「そう。もうすぐ雪が降り始めるから、着いたらすぐ適当な場所に行くよ」
「よく分かるな、そんなこと」
「あー、それはね……」
アルダはポケットから何も描かれていない新聞紙程のサイズの紙を広げた。
すると、半透明だが地図が浮き出てきた。
「凄いな、魔道具か?」
「正解!持ち主の直径50キロ範囲なら、高度や気温、気象とか予測不可能なこういう吹雪も見れちゃうのよ」
浮かび上がる地図の右端に、読めない文字と数字が書かれていた。
「こりゃ……すげぇ高かっただろ」
「まあね。でも、カイを助ける為なら安いよ」
そうして俺達はイーネェヴィア大陸で一番大きな町、スコデアラに到着した。
自然の匂いがするだけで、都会の香辛料や香水の臭い匂いはせず、かつての故郷を思い出す。
厚着で雪玉を投げる子供達や、なんなら老人までいる。
「過酷な環境でも生活できるんだな」
「そろそろ雪が降るからほとんどの人は帰ってると思うし、これでもかなり少ない方だよ」
適当に見つけた飲食店に入り、看板娘が席に案内する。
室内はかなり暖かく、顔色が悪い今でもここにいればすぐに治りそうだ。
「お水です」
三人文のコップが置かれ、同時に水が入った器を渡された。
木造建築の西の地に近い構造物。
天井には、大きく描かれた魔法陣があった。
「あれが雪からこの家を守っているんだな」
「そうそう、他にも――」
「ところでカイ」
アルダが何か言う前にハンが遮り、話し続けた。
「本題に入りたくないか?どうやってこの経緯になったか、ニコさん達が今何処にいるのか……」
「聞くだろ?」
「ああ」
「その前に注文していい?私、お腹空いた」
「いいぞ、俺が払うからカイも何か好きなの頼め」
「ありがとう」
しばらくして注文が終わり、来る間に本題へと入った。
俺が知りたいのは二つだ。
なぜ俺は裁かれたのか。
——そして、ニコ達はどこにいる。
「……ニコ達の安否を確認したい」
そう言うとハンはコップに入った水を飲み、一息ついて話し始めた。
「まずはそうだな……とりあえずニコさんは無事だ」
俺はホッと溜め息を吐き、奇妙なことに物凄く落ち着いた。
「静さんや玄道さんも無事だ。表向きは、まだ魔法帝側の人間として動いてる」
「静は表向きだと魔法帝の仲間なのか?」
「静さん、カイに特殊なんたら部隊って言ってたろ?」
「そういうことか。ならニコも、静と行動を共にしていたし、大丈夫だな」
「その他の矛盾点は静さんの権力と金でなんとか書き換え、身は安全らしい」
「そうか……」
「なら、次の質問をしてもいいか」
「ああ」
俺がこうして監獄まで入れられた理由――
「俺が法廷にて罪を受けるに至るまでの話をしてほしい」
「ああ、わかった、カイ」
「お前が魔法帝を絞殺した後、重傷のお前を騒ぎを聞き付けた警備隊によって拘束され、回復した後、意識を失ったまま法廷に連れられた」
「それからお前の支持者と自称する魔法帝側――すなわち、"名無しの帝"がお前を病棟に入れる前に監獄へと投獄させた」
「その感じだと、その帝が裏を引いてまるで俺が自分の意思でその場から逃げようとしたってことになるのか」
「そうだ。だから、意思損失とか関係なく、お前を病棟ではなく特別な監獄に投獄させたってことだ」
「なるほど」
「そこで俺達とニコは協力をした」
「カイは名無しの帝の罠にかけさせられた。その証拠は、ニコ達が持っている」
「だからやる」
「この証拠で名無しの帝を帝の座から引き摺り落とし、帝達を本格的な犯罪者にさせる」




