第79話逃走
「アルベルトさん!こちらです!!」
法廷に大穴が開き、そこから素性を隠した人々が俺を囲う。
視界と聴覚は魔法の煙と音によって、何処に連れ去られているのかわからない。
やがて、俺は馬車に乗せられているのがわかった。
「お前ら、自殺行為だぞ」
中に乗っている輩に言い、その中の一人がこう呟く。
「あなたの為に死ねるなら光栄です」
人は簡単に人の為に死ねるとは言わない。
コイツら、俺に何かするつもりか?
馬車は荒れた路地を駆け抜ける。
外からは怒号と足音――追っ手だ。
騎士団か、それとも……
「予定より早いな」
誰かが小さく呟く。
その声に、俺は違和感を覚えた。
早い?
まるで――来るのがわかっていたみたいな言い方だ。
仕組まれている――そんな感覚が離れない。
次の瞬間、馬車が大きく揺れた。
衝撃と共に、外壁が吹き飛ぶ。
「ッ……!?」
煙の中から現れたのは――この国の騎士団。
「見つけたぞ、罪人カイ」
逃げ道は、最初から用意されていなかった。
「……退け」
俺は低く呟く。
だが、体が重い。
さっきの煙か――それとも最初から仕込まれていたか。
魔力の巡りが鈍い。
まともに戦えば――勝てない。
「抵抗するな。これ以上罪を重ねるな」
……笑えるな。
最初から、選択肢なんてなかったくせに。
俺は一人の騎士に体当たりし、拳を振り下ろして殴った。
グシャッと鎧が潰れ、振り返り様に拳を振るう。
拳は男の腹を貫き、残るは五人。
一人、また一人と倒れる。
勝てる――そう錯覚した瞬間だった。
突如として鎖が放たれ、俺は拘束された。
魔力を封じる拘束具――逃げ場はない。
「チッ……」
振り払おうとした瞬間、膝が崩れる。
力が、入らない。
「確保」
視界が歪み、そのまま、意識が落ちた。
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――目を覚ますと、冷たい石の床の上だった。
薄暗い牢、湿った空気。
鉄格子の向こうには、無機質な廊下が続いている。
「……ここは」
「目が覚めたか」
低い声が響く。
振り向くと、看守が立っていた。
「特別房だ。――お前みたいなのを閉じ込めるためのな」
手には枷。
首には封魔の首輪。
完全に、終わっている状態だ。
「……ずいぶん手厚いな」
「当然だ。魔法帝殺しの罪人だからな」
その言葉に、俺は小さく息を吐いた。
数年振りの監獄だな。
ここからが、本当の地獄だ。
やがて牢獄全体を震わせるような重い音が鳴り響く。
外の世界では祈りの合図なのだろう。
だが、ここでは違う。
囚人を縛り付ける、逃れられない一日の始まりだった。
「はあ~あ」
「あ?なんだお前、新人か?」
「ああ」
眠りを貪っていた囚人はあくびと共に目を覚ます。
誰もがその音を憎んでいるが抗えず、鐘の音が日々を刻む。
そして鐘の余韻が消えないうちに、看守達の怒号が響き渡った。
「さっさと起きろ!」
鉄格子が次々に解き放たれ、囚人達は中庭へと引きずり出された。
冷たい朝の空気の中、囚人達の白い息が揺れていた。
看守長が壇上に立ち、中庭に集められた総五百人の囚人を睨み付ける。
「番号を呼ばれたら返事をしろ!!」
一人、また一人、番号が呼ばれる度、声が冷たい空に響く。
俺も他の囚人と同じく並び返事をした。
名前でざわめき、看守からは睨まれ、ある看守からは明らかに優しく態度が違う。
変わってねぇな。
そしてそのまま、俺達囚人は監獄へと戻された。
時間は経ち、昼の自由時間となった。
俺は同部屋の太った優しい中年に連れられ、食堂へと訪れた。
そこでは一般的な曜日で変わる食事や、ポーカーで殴り合いをしているヤツら。
いじめられっ子がボールを拾わされている光景が目に映り、その度に周囲の目線が刺さる。
ここでもやることは変わんねぇんだな。
「おじさん。なんで俺を連れてきた?」
中年はドロッとしたシチューをバクバク食いながら言う。
「お前、魔法帝殺しだろ?ラジオで聞いたぜ。お前に殺されるくらいなら、他に売る方がマシだろ?」
その笑顔からは裏が取れる表情をしていた。
辺りを見渡すと自分の周りだけ異様に人が少ない。
すると室内にも関わらず、俺に覆い被さるように大きな影が現れた。
「生きていたか。"化け物"」
後ろを振り返らずとも誰かなのか、一瞬で理解した。
「力帝、見ない間に痩せちまったか?クソ野郎」
相変わらず巨体で、二人の護衛がいた。
周りいる食堂に座っている輩は、手に尖った歯磨きや金属を握り締めながら俺を見つめている。
「何しに俺の所に来た」
力帝は俺の肩に手を置き、ニヤりと口角を上げて話し始めた。
「お前は本当に運が良い」
「今夜、この監獄は終わる」
俺は力帝の腕を掴む。
「ハッタリか?」
「いいや違う。看守や外部の人間を買収している。今頃、爆弾がそこら辺に巡り巡らされているだろうな」
「それで協力しよう。私と貴様が組めば、誰も止められない」
「忘れたか?俺は一生テメェを外に出さないと言った」
「殺されないように可愛い部下達に守られておくんだな」
力帝の手を払い退け、一人食堂を去っていった。
そうして夜。
目を瞑り、寝ていた時だった。
突如監獄に地響きと爆発音が至る方向から鳴り響いた。
「うおっ」
天井にある光は点滅し始め、やがて揺れによってパリンと音を立て落ちた。
「緊急!!緊急!!直ちに囚人を確保せよ!」
監獄中に落雷のように鳴り響く放送が鳴り、爆発によって頭に何かをぶつけた俺は、箇所を抑えながら廊下へと出る。
「マジかよ」
外は地獄と化していた。
ここは大悪党が収監される場所、緊急要請で専門の団員達が現れるが、全員手も足も出ない。
炎やマグマを撒き散らし、死体がゴロゴロ転がっている。
そして足元には、上半身だけのあの中年がいた。
俺は身動きとスキルを封じる枷と首輪を破壊する。
何もかもチャンス過ぎる。
一刻も早くここを出たいが、まずは―――
俺は廊下から見渡せる監獄全体を見渡す。
この区域にはもう俺以外はいない。
全員、ここから出るために場所を移したのか。
ここの区域を抜け出し、死体と瓦礫を退かしながら進む。
そして看守が最も集まる区域では、目から離したくなる程、人々が惨殺されていた。
「酷いな」
「た、たすけて……」
すると右腕が斬られている囚人が、俺の足に腕を巻き付いてきた。
「力帝は何処にいる。言ったら助けてやる」
「り、力帝様は、この監獄の大広場にいる。今更追いかけても遅いかもな……」
大広場……か。
俺は軽く止血させてから大広場へ駆け足で向かった。
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「おい!馬車はまだか!」
力帝は部下の首を掴み、持ち上げる。
「ば、爆発の影響で通信出来なくて……!で、でも必ず来ます!」
「クソが……追手が来たら終わりだぞ」
「全員聞け!……何処に行きやがった」
力帝の周りにいた部下達数十人は、音もなく消え去っていた。
「まさかッ!」
俺は力帝の背後から首に目掛けて短剣を振るい、力帝は振り向き様に俺を掴み、地面に叩きつけ抑え込んだ。
「また私の邪魔をするのか、カイ!!」
「俺がお前を外に出すとでも?」
手に持っている短剣を力帝の手の甲に突き刺そうとするが、全く刃が通らず真っ二つに折れてしまった。
コイツ…昔の力の出力を取り戻したのか!?
素早く短剣を手放し、力帝の目玉目掛けて拳を突き出す。
拳は力帝な顔面にめり込み、目玉に直撃した。
「ヌグァァア!!!!」
力帝が怯んだ瞬間、俺は立ち上がり、思いっきり力帝の膝を蹴る。
あまりの衝撃に力帝の脚の骨は外へと剥き出しになり、力帝は膝から崩れる。
「こんなモノ……!」
力帝は治癒スキルで治そうとするが、顔面を殴打し、集中を途切れさせる。
「なんだ。昔の強さに戻ったと思ったが、所詮、俺に敗北した男」
「誰にも信頼されず、俺に負けた男と世界は認めた」
「今度こそ、心をズタズタに折ってやるよ」
右、左――
拳を交互に振るい、力帝は顔面や口から流血し続ける。
「お前を!どれだけ憎んだかッ!」
「お前が外に逃げる?させるかよ!」
「お前は一生惨めで、糞みたいな人生を歩む!!俺に負けたと、後悔しながらな!!」
力帝を殴っている内に、段々と忘れさせていた怒りが、噴火のように込み上げて来た。
殺してやる。
「外に出たいか?」
「無理だな。お前は――ここがお似合いだ」
顔や拳は力帝の血にまみれていた。




