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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第四章贄の儀式
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第78話魔法帝殺し

目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。

起き上がるとジャラジャラと鎖の音が響き、手錠は血塗れで、自分を閉じ込める壁は落としきれない血で染まっていた。


「化け物だ……!」

「魔法帝を喰ったらしいぞ!」

「近づくな!」


唯一外に繋がる扉からは、魔法帝殺しだの、貪食者だの、色々騒がれている。


目が覚めて数十秒、俺は事態を把握した。


「……ああ、そうか」


脳裏に焼き付いたのは、崩れ落ちるルシアンの姿だった。


別に後悔はない。


ただ、自分がすべきことをしただけだ。


俺は――魔法帝を殺した。


そして落ち着く暇もなく、扉を激しく叩かれた。


「カイ・アルベルト。ご同行を願う」


法廷は、異様な熱気に包まれていた。


傍聴席は人で埋まり、ざわめきは抑えきれず、まるで処刑を見に来た観衆のようだった。


その中で、静やニコは静かに見守っており、一際目立つフードを被った二人に目を奪われた。


あの二人……何処かで……


確かめる暇もなく、中央、拘束具を付けられたままの俺は立たされる。

両手首には重い枷。だが、その視線は一切揺れていない。


正面、高台に座る裁判官が静かに口を開いた。


「被告人、カイ・アルベルト」


「貴様は魔法帝の殺害、およびそれに伴う多数の被害について問われている」


一拍の間。


「……弁明はあるか」


ざわめきが一瞬で静まる。

全員が、俺の口を待っていた。


「ねぇよ」


その一言で、再び法廷が揺れる。


「ふざけるな!」


「英雄気取りか!?」


「ただの殺人鬼だろ!」


怒号が飛び交う。

裁判官が槌を打ち鳴らす。


「静粛に!」


音が響き、無理やり空気を押さえつける。


「被告人。状況は理解しているな?」


「魔法帝はこの国の象徴だ。その命を奪った意味がわからぬわけではあるまい」


俺は少しだけ視線を上げる。


「理解してる」


「だから言ってる。弁明はねぇ」


検察官が一歩前に出る。


「では確認する。被告人は魔法帝ルシアンを殺害した事実を認めるのだな?」


「認める」


「動機は?」


一瞬だけ、沈黙。

だが迷いはない。


「必要だったからだ」


その言葉に、空気が変わる。

怒りではなく、拒絶。


「必要、だと……?」


「何様だお前……」


検察官の声が鋭くなる。


「貴様一人の判断で、この国の象徴を殺したと?」


「それを“必要”と呼ぶのか?」


俺は、ゆっくりと答える。


「他にやるやつがいなかった」


ざわめきが、止まる。

ほんの一瞬だけ。


「……ッ!」


検察官が言葉を詰まらせる。


「責任を負う覚悟はあるのか?」


「ある」


「死刑になってもか?」


間を置かず、俺は即答した。


「構わねぇ」


その答えに、今度は誰も声を出せなかった。

軽い覚悟じゃないと、誰でもわかる。

だがそれでも――納得はできない。


裁判官が低く言う。


「では聞く」


「もし時間を戻せるとしても、同じことをするか?」


カイは、少しだけ目を閉じる。

脳裏に浮かぶのは――崩れ落ちるルシアン。

そして、その奥にある無数の犠牲。

ゆっくりと目を開ける。


「……する」


「何度でもだ」


その瞬間、空気が完全に変わった。

恐怖でも怒りでもない。

“こいつは止まらない”という確信。

傍聴席の誰かが、ぽつりと呟く。


「……化け物だ」


俺はそれを否定しない。


ただ、前を見る。

そして裁判官が静かに宣言する。


「審議を続行する」


だが、その場にいる全員が理解していた。

この裁判は――

判決を下すためのものではない。

“カイ・アルベルト”という存在を、どう扱うか決める場だ。


そのまま裁判所から立ち去り、向かう場所は面会室。


「アルベルト。お前に会いたいヤツがいるらしい」


「行動はすべて見ている。妙な真似はするな」


そうして俺は面会室に入り、魔法が施されたガラスの前に座った。

そして、俺と話したいヤツが入ってきた。


「!!」


前に現れたのは、アルダであった。


「久しぶりだな。カイ」


アルダは椅子に座り、俺の顔を見る。


「この裁判に勝つ為に、超優秀な弁護士を雇った」


「わざわざなんで」


「そう思うだろ?それがな、お前を支持する輩が沢山いるからだ」


「例えば、今まで帝達に酷いことされても権力で捩じ伏せられていた人、その他にも奴隷とか、色々だ」


「逆に言えば、7、3でお前の支持の方が圧倒的に多い。だから弁護士を雇ってお前を救いたい」


「他にも色々話したいけど、そうしたら私まで捕まるからな。んじゃ面会終わり」


言うことだけ言ってアルダはその場から立ち去ろうとした。


「待て」


俺がそう言うと、アルダは立ち止まり、耳を傾けた。


「……ハンとの服屋は続いてるか?」


「おうよ!」


元気な返事だけを残して、アルダは去っていった。


しばらくの時間が経ち、俺は再び裁かれる場へと導かれた。


裁判官が口を開く。


「それでは、弁護側の意見を聞こう」


静まり返った法廷に、一人の男がゆっくりと歩み出た。


黒い外套に身を包み、無駄のない動きで被告席の横に立つ。


「弁護人、レグルス・ヴァインです」


軽く一礼し、顔を上げる。

その目は、まっすぐに裁判官ではなく――観衆を見ていた。


「まず、前提を確認させていただきたい」


「被告カイ・アルベルトは、魔法帝を殺害した」


「……これは事実です」


ざわめきが走る。

だが弁護士は構わず続けた。


「ですが、その“事実”だけで裁けるほど、この件は単純ではない」


「問題は一つです」


一拍、間を置く。


「――魔法帝は、本当に“守られるべき存在だったのか”」


空気が凍る。

検察官が即座に反応する。


「異議あり!魔法帝は国家の象徴――」


「その“象徴”が、民間人を儀式に巻き込んでいた場合でもですか?」


言葉を遮る。

一切の迷いなく。


「証拠は既に提出済みです」


「儀式により犠牲となった人数、記録、証言」


「それらすべてが示しているのは――」


「魔法帝が“守護者ではなく加害者だった”という事実です」


ざわめきが一段と大きくなる。

裁判官が槌を打つ。


「静粛に!」


弁護士はゆっくりとカイに視線を向ける。


「では、被告に確認します」


「あなたは、彼を“悪”だと判断したのですね?」


俺は即答する。


「した」


「そして、止める手段が“殺害”しかなかった?」


「……ああ」


弁護士は小さく頷き、再び前を向く。


「ここで重要なのは、“選択肢”です」


「国家は止められなかった」


「騎士団も機能しなかった」


「誰も止められなかった」


「――だから、彼がやった」


静まり返る法廷。

検察官が声を荒げる。


「それでも殺人は殺人だ!秩序を壊していい理由にはならん!」


弁護士は即座に返す。


「では聞きます」


「秩序とは何ですか?」


「人を守れない秩序に、何の価値がある?」


言葉が刺さる。

観衆の一部が黙り込む。


「被告は英雄ではない」


「正義でもない」


「ですが――」


「“誰もやらなかったことをやった”」


弁護士は最後に言う。


「この裁判で問うべきは、“殺したかどうか”ではない」


「その行為を、この国がどう受け止めるかです」


「処刑するのか」


「利用するのか」


「それとも――」


一瞬だけ、カイを見る。


「認めるのか」


法廷は静まり返っていた。

弁護士が一歩前に出る。


「被告カイは極めて危険な存在です。常人の倫理観を逸脱しており、更生の見込みはありません」


「よって――生涯にわたる精神病棟への収容が妥当と判断します」


ざわめきが広がる。

誰もが俺を見ていた。

狂人を見る目。

化け物を見る目。


――だが。


俺はただ静かに口を開いた。


「……なるほどな」


一歩、前に出て、拘束具が鳴る。


「俺を閉じ込めるか」


「正しい判断だと思う」


一瞬、空気が止まる。


「俺は確かに人を殺した」


「これからも、必要なら殺す」


「だから社会に戻すなってのも、間違っちゃいねぇ」


弁護士がわずかに息を呑む。


「けどな」


その目はまっすぐだった。


「お前らが裁いてるのは、“俺のやり方”だろ」


「俺が何をしたかじゃねぇ」


「魔法帝を止めたのは誰だ?」


「民間人を巻き込む儀式、止めたのは誰だ?」


「……お前らか?」


誰も答えない。


「違うよな」


「全部、俺だ」


一歩、また一歩と踏み出す。


「法も秩序も守れなかったから、俺がやった」


「それだけの話だ」


視線が突き刺さる。

それでも俺は逸らさない。


「俺は正義じゃねぇ」


「英雄でもない」


「ただの加害者だ」


一瞬、間を置いて言った。


「でもな」


低く、吐き出すように言う。


「必要だったんだろ?」


「俺みたいな存在が」


空気が凍る。


「違うって言うなら――」


「次は、お前らがやれ」


誰も動かない。

誰も答えない。

俺は小さく笑った。


「できねぇくせに」


そして最後に、静かに言い放つ。


「閉じ込めるなら閉じ込めろ」


「だが覚えとけ」


「檻の中にいるのは、怪物じゃねぇ」


「お前らが目を逸らした“結果”だ」


そう言い、法廷が静まり返った瞬間。


法廷にとてつもなく大きな爆発音と、砂埃が舞い上がった。

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