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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第四章贄の儀式
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第76話既に始まっている

ニコは様々なバフが二重三重へと重ねられている魔法陣の上に乗っており、静と玄道が詠唱を唱えてニコに力を与えていた。


魔法陣は赤、緑、青など色々な色に輝き、その度にニコの魔力に異変が起きている。


「札は?」


ニコは静に確認する。


「私の部下や君が作ったのを合わせて、大体100万枚」


「これは礼儀や騎士道精神なんてもの、関係ない戦いだ」


「そりゃあな?俺達をずっと利用してたヤツに騎士道もクソもないだろ」


すべてのバフを掛け終わり、ニコは自分の本来以上のポテンシャルに驚く。


「ニコ、魔力を上に流すイメージで操作してみろ」


「ん?」


玄道の言われた通りにすると、ニコは空に浮かび始めた。


「あまり長時間使いすぎるなよ?精々飛べるのは30秒だけだ。魔法帝の力を手にしたルシアンの飛行能力とじゃ、天と地ほどの差がある」


「オーケーオーケー。それで、もうルシアンはここにいるのか?」


「ああ、上空にいる」


同時刻――


ここは…あの屋敷の近くの街か。


ルシアンは力を最大限扱う為、儀式に巻き込まれた観光客を殺し回っていた。


目の先には船に乗っている生け贄がおり、血に濡れた拳を握り締め、ルシアンは上空からスキルを放とうと腕を突き出した。


「あともう少しだ……!我が力の源!」


ルシアンの手の平が青白く光った瞬間、背後からとてつもない魔力を感じ、咄嗟に振り向き彗星のように走る水を放った。


「おっと!」


ニコは空中で回転して攻撃を躱し、腕を振っておびただしい程の数の札を放った。

それはまるで蜂の大群のようで、ルシアンは一気に加速して横へ移動しながら札の大群を回避した。


「なんだ?」


いくら飛べるとはいえ、雲と見間違える程のあまりの多さの札を避けることは出来ず、ルシアンの頬に切り傷が走っていた。


「カイ!どのような――」


ルシアンが顔を上げると、そこにはカイではなく女性がいた。


「一体何考えてんだ?足手纏いがどうこうできる話じゃないぞ」


ルシアンは右手に風、左手に炎を出現させ、すぐにでも放てるように構える。


「俺もそう思うよ。でも、適任なんだってよ」


ルシアンの左胸に赤黒い刻印が現れ、赤く光っている。


「これは…?何をした」


「さあな、体感してみたらわかるだろ」


ニコは後ろに待機させていた札を放出し、奔流の如く流れ、ルシアンはそれを待っていたかのように風と炎を合わせた技を放った。


「吹き荒べ、焼き尽くせ――風炎一体、蹂躙せよ」


「炎嵐」


ルシアンが放った火山のように吹き荒れる炎は札を飲み込む。


「ハッ!馬鹿野郎!対策せずに来たと思ってんのかよ!」


札は全く傷付いておらず、逆に炎を纏いながらルシアンへ攻めて来た。


"内功"


ルシアンは状況を瞬時に理解し、内功で肉体を強化し硬める。

札は金属に当たるように跳ね退けられていくが、1枚の札がルシアンの弱点の刻印へ触れる。


「!!?」


その瞬間、内功はすべて崩れ、ルシアンの肉体を少しだけ切り付け、ルシアンはとある不快感を覚える。


なんだ?


飛行して移動しようとするが、肉体が遅れている。

まるで、"自分と魔法帝"が無理矢理離されているような不快感。


「そういうことか……」


ルシアンは左手に水、右手に土の力を宿らせ、急速に加速しニコへ接近する。


マズいッ!そろそろ浮遊の効果が切れる!


ニコは操り人形の糸が切れたかのように落下し、森の中の地面に思いっきり着地した。


「イッ……!」


脚の骨がジンッと痛み、僅かな時間動けなくなった。


動けねぇ……!!


ニコの背後では、もうルシアンが拳を振りかざしていた。


地面が裂けた。

その裂け目から、刃が走る。


「ニコ!大丈夫か!?」


静はルシアンの攻撃を受け止める。


「ああ!」


再びニコは空へと跳び上がり、戦闘体勢に切り替える。

しかし静はルシアンの右拳に纏われていた土によって刀と自分を覆われてしまい、身動きが取れず、ルシアンはその隙を狙って左手に溜めていた水の力を――


「抉れろ!!」


水が“槍”のように圧縮され、静の腹へと放たれる。


「させるかよ!」


ニコは上空から札の雨を降らせ、ルシアンは体を切り裂かれながら後退する。

静の腹から血が少し垂れ、刀を強く握り締める。


「すまない、ニコ」


「いいって」


ルシアンは治癒スキルで傷を癒す。


「やり方を変えよう」


ルシアンは左手に水と火、右手に土を出す。大幅に魔力を消費する治癒スキルを使ったが、一向に底尽きる気配がない。


マジかよあの野郎!……俺は治癒スキルなんて高度なもん使えねぇし……


ニコの視線は自然と静の傷を見た。


内功を教えてくれた静も、治癒スキルを会得していない。


……これ、消耗戦は論外として長期戦は不可能だ。


ルシアンの魔力は段々と異様を増していく。

瞬きをする間もなく、ルシアンがいた地面は爆発したように舞い上がり、下にいた静は消えていってしまった。


「ああっ!!?」


ルシアンはニコと静を確実に分断し、この場で最も近接戦が得意な静を標的とした。


「くっ……!!」


静はルシアンの猛攻を受け止め、刀で流し続けるが反撃の隙間がなく、一方的に攻められ窮地の場面に差し掛かっていた。


刃を持つ手は震え、腕の骨が段々と痛くなっていく。

そして一瞬の隙、静の頬に切り傷が走った。


いつ拘束されるかわからない土。

いつ放たれるかわからない火と水。


彼女の精神は着実に崩されていっていた。


もう…!やるしかない!!


静は焦り、攻撃を受け流した隙を見て反撃へと出た。


「その程度で、僕を斬れると思ってたのかい?」


それが仇となり、ルシアンは静の刀を躱すと右手の土を飛ばして静の背中に重りを乗せ、左手の水と火で泥を固めた。


「なに!?」


静は一瞬で身動きが取れなくなり、続いてルシアンは地面に手を当てて地面から木の根っこを生やし、静を更に拘束する。


「静!」


ニコが上空から大量の札を降り落とそうとすると、ルシアンは両手に風を生み出し、強力な嵐をニコに向けて放った。


「うあぁっ!!」


ニコは爆風で更に上空に吹き飛ばされ、衝撃で息が出来なく、空では酸素が足りない。

徐々にニコの意識は朦朧としていく。


瞼が落ちる寸前、自分の手の中に札を握り締めているのがわかり、上がってきたルシアンがニコの首を締める。


……チャンス――?


ニコは札をルシアンの刻印に突き刺す。


「!!!」


ルシアンは苦しむ表情を浮かべ、ニコを掴んだまま下へと真っ逆さまに落ちていく。


「はっ……はっ……」


息が……もう……


その瞬間、誰かに捕まえられ、意識が戻ってきた。


「静?」


「ああ、私だ」


「拘束されてたんじゃ?」


「君が弱点の刻印に触れたからだろう。よくやってくれた」


「……早く降ろせよ。ルシアンを倒さなくちゃいけねぇ」


「そうだな」


静は抱き抱えていたニコを降ろし、ニコは再び上空へ。

ルシアンが落下して出来たであろう大きな砂埃を見つけ、ニコが飛ぶ方向に静も木々を蹴りながら着いていく。


そこには小さな村一つ分入りそうな程の大きなクレーターが出来ていた。

そしてそこに、ルシアンはいる……はずだった。


「アイツ…一体何処に――」


気付かなかった。

斬られていることにすら。

一拍遅れて、胸が裂けた。


「ごばっ!!!」


炎の刃で胸を大きく斬り付けられ、いくらバフを掛けていても傷は深い。


息が、入らない。

視界が赤く滲み、体が言うことを聞かない。


「私はカイにしか眼中がないんだ」


「無駄な情報を入れないでほしい」


ルシアンの落下の際に頭部や胸を切り、流血しているのが分かる。


ダメージを負っていても尚、届かない。


ルシアンは下にいる静を見つめ、火、水、風の力を一点集中させ、技とは呼べないただの力の放出をした。


眩しく、威圧的で、喰らえば死ぬと本能で理解できる。


静は咄嗟にクレーターへ飛び移るが逃げ切れず、それが地面に当たると大爆発を起こし、水蒸気がモクモクと立ち昇る。


風で周りの森林は綺麗に斬られ、火で辺りを燃やし、水が鉄の玉の如く物体を貫く。


辺りは静まり返り、ルシアンは治癒スキルで頭部の傷だけを癒した。


「さあカイ!出て来るんだ!」


「もうお前しかいないぞ」


ルシアンはふと、何故こんなに弱い女を前線に――とニコを哀れみの目で見つめる。


ニコは胸から血を流しながら浮遊しており、ルシアンはある疑問を抱いた。


「貴様ッ!!」


ルシアンがスキルを発動させる前に、竜巻のように荒々しい札がルシアンの全身を切り刻み刻印を攻撃する。


「ガハッ……!!!!」


なんだ、この恐怖……!?

僕がニコに抱いているものじゃない……!


魔法帝が抱く、かつての"ヤツ"への恐怖か……!?


ルシアンの目には、血塗れのニコが貪食者と重なる。



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