第74話脅威
昼は悪魔崇拝者が蔓延り、夜は魔物が徘徊している魔大陸である砂漠。
ザイトライヒ――
彼は、全国民が崇拝者である王国を見渡せる上空にいた。
冷たい風が頬を裂く。
夜の王国は灯りだらけで、人の位置が手に取るように分かる。
そしてザイトライヒは耳の穴にある魔道具を指を当て、指揮官と連絡を取る。
「んで、どうすりゃいいんだ」
「作戦はとりあえずその国の軍は無視して、弱いから。最高戦力だけ潰して国を破壊する」
「その国にいる悪魔崇拝の代表者二人の男がいるの、名はハイビスとダルヌス。その二人が召喚する魔物には十分気を付けて」
「わかった。そういや指揮官ちゃん」
「……なに?」
「その作戦、適当で最悪過ぎない?」
「別にあなただからいいでしょ、好きに暴れててちょうだい」
「ああ」
「それにしても、夜だから外は魔物だらけだし、そのおかげで人間は国の中に籠り始める」
「ここまで最高な条件ってあるか?」
「そうねー」
指揮官はめんどくさそうに返事を返しながら、その国全土を覆う結界魔術を調べる。
「ザイトライヒ、この国を覆う結界魔術があるから、私達が壊すまで待っててちょうだい」
「そんな事しなくていい。それより、娘のヴァイオリンの稽古があるから送ってやっててくれ」
ザイトライヒは空中で体勢を変え、頭を大陸に空に脚を向けて、飛行体勢に入ると衝撃波を発生させながら猛スピードで国へ突撃した。
「ちょ、ちょっとザイトライヒ――!!」
空気が歪み国中に砕けた音が鳴り響いた。
結界は破られ、それと同時に侵入者の警報が鳴り響いた。
だが、それを認知したのはザイトライヒが国に到着してからだった。
砲撃が放たれ直撃する――だが煙の中から、無傷のまま歩いてくる。
目の前にいる邪魔を意図も簡単に皆殺しにする。
それが伝説の英雄ザイトライヒであった。
崇拝者の祭壇に着地したザイトライヒは、地面に頭を下げて拝む崇拝者の横を通り過ぎて行き、代表者二人に近づく。
二人は赤のローブを着ており、ハイビスは若き青年、ダルヌスは賢者のように髭を伸ばした中年だった。
そしてその二人はまるで最初からザイトライヒがここに来るのを知っていたようだった。
「よくぞ来た、狂人」
「初対面でそれか?礼儀がなってないな」
すると周りにいた崇拝者は突如押し潰された。
肉が潰れる鈍い音が遅れて響き、視界の端で、人だったものが液体に変わっていく。
儀式の生け贄になった崇拝者は声を出す暇もなく、何も音を立てずに血だけとなる。
「………」
「………」
二人は何かの呪文を唱え始め、ザイトライヒは好奇心も興奮で心拍が上がり始める。
「ザイトライヒ!今すぐ儀式を阻止して!」
「邪魔すんじゃねえぞ!!」
「感じてみてぇんだ!ソイツの強さをォ!」
指揮官は耳にある魔道具から指示を出すが、ザイトライヒは阻止しようとする雰囲気を微塵も出さない。
口元が歪み、足が無意識に一歩前に出ていた。
「ゼル・アークス!!」
全身真っ黒な獣毛に山羊頭。
忌々しいその角と風貌は、正に悪魔であり、そして左手には大量の人骨で生成された禍々しい剣を持っていた。
あの剣…魔剣の類いか。
「ザイトライヒ、アイツが持ってるあの剣はすべてを斬れる魔剣よ。斬られば傷口が蝕まれる」
「戦場で喰らえればその場での治癒は不可能よ」
ゼルアークスが動き出す前に、ダルヌスがザイトライヒに攻撃を仕掛ける。
「水の閃光よ!穿て!」
「水光線弾!」
光のスピードで迫る水の弾丸をザイトライヒは避け、その隙にハイビスが間を詰めて拳を掲げる。
その瞬間、ハイビスが掲げた拳が変形し獣のように獣毛が生え巨大な腕となった。
「オラッ!!」
ハイビスはそれを振り下ろし、ザイトライヒは受け止める。
「獣スキルか!珍しい!」
両手が封じられているザイトライヒに対し、ダルヌスは再び水の攻撃を出そうと詠唱と構えを取る。
ザイトライヒはニヤりと笑顔を浮かべた。
その瞬間、祭壇やその他の建物を巻き込んだ大爆発が起こった。
「ダルヌスさん!大丈夫ですか!?」
「ああ…!」
ゼルアークスが二人を庇い、爆破からは逃れたがザイトライヒの一発の攻撃で直径10メートル程の範囲は消し飛んでいた。
そして爆発が起きた中心にザイトライヒは傷もなく平然と立っている。
圧倒的な存在感。圧倒的な恐怖。
ダルヌスは生きてきて156年。
初めて本物の強者というものに出会った。
「行くぞ!ハイビス!」
「はい!」
ゼルアークスは雄叫びを上げ、ザイトライヒに猪突猛進する。
「耐えられるかな?」
ザイトライヒは走ってくるゼルアークスに向けて、何発も爆撃を打ち込む。
火薬と煙の匂いが周囲に漂い、なにより爆風が凄まじくハイビスとダルヌスは容易に近づけない。
そんな中ゼルアークスは進み続け、次第にゼルアークスは左手に持っていた剣で、爆発が生まれる瞬間の火を斬り始め、ザイトライヒの爆破を無効化し始めた。
「初めてだ。爆破を斬ろうとして無効化されたのは」
そして距離を詰められたザイトライヒに魔剣が振られ、魔剣の剣先がザイトライヒの首に触れかけた。
「ならこれはどうだ?」
ザイトライヒはゼルアークスの横腹を殴り、怯んだ所にザイトライヒは跳び上がり、ゼルアークスの頭に蹴りをいれて吹き飛ばす。
「ウゴォォォ……」
立ち上がったゼルアークスの背後に爆破を仕掛け、ゼルアークスは振り向き様に剣を振り下ろし不発に終わらせた――
と、思いきや、振り向いたゼルアークスの背後と目の前に合計4発の爆破が仕込まれ、ゼルアークスは爆発によって後方へ吹き飛ばされた。
「次は二人の出番だぞ」
「かかってこい」
ダルヌスは構えを取り、龍の形をした水の流れを体の周りに纏わせ、拳を握る。
ザイトライヒに対しては中距離や遠距離攻撃は無意味と判断した。
ならば、正面から殴り合うのみ!!
「行くぞ!ザイトライヒ!」
ダルヌスはザイトライヒに向けて何発も拳を振るうが、ザイトライヒには掠りもしない。
「お前、相当強いな。まあ俺には及ばないがな」
すると右からハイビスが両腕を獣化させた状態で攻撃を繰り出し、ザイトライヒは小さな爆発を起こしてハイビスとダルヌスを自分から離した。
「ダルヌスさん!厄介ですよ、こいつ!」
「攻め続けるしかないぞ!」
そしてザイトライヒは煙の中からハイビスに手の平を向け、ハイビスは咄嗟に防御姿勢をした。
……来ない?
ザイトライヒは距離を詰め、ハイビスの懐に潜り込んだ。
「まずは一人」
ザイトライヒの拳はハイビスの腹に風穴を空け、ハイビスは大量に血を吐く。
「ごばぁっ!!」
戻ってきたゼルアークスが横から剣を振るい、ザイトライヒは回避して距離を置いた。
「あと二人…どっちからでもかかって……」
ハイビスは若くして治癒スキルを使い、困難な致命傷を治した。
激痛のあまりハイビスはフラフラとしていて、ザイトライヒから見ても魔力を大量に消費している。
だが、それを見たザイトライヒは感動のあまり、言葉を失ってしまっていた。
「戦いならそうこなくてはな!!」
「アガアァァァ!!!!」
ゼルアークスは雄叫びを上げながら走り、それに合わせてダルヌスとハイビスも動き出した。
ハイビスは高く跳び上がり、巨大な獣の腕と手を振り下ろし、ザイトライヒは後方に下がって避ける。
ザイトライヒが地面が着く前に、ダルヌスとゼルアークスが攻撃をするが、ゼルアークスの剣は避けられ、弱い爆破の煙幕によってダルヌスとゼルアークスは視界を遮られたままザイトライヒに殴られ続ける。
「硬てぇなお前ら、マジで殴ってんだけどな」
ザイトライヒの打撃から逃れたダルヌスとゼルアークスは呼吸を整え、その間にハイビスが一人で相手をし始めた。
「よせ!ハイビス、死ぬぞ!」
ハイビスは獣化した拳を突き出し、ザイトライヒを殴り飛ばした。
「水の癒しを苦しみへと変えろ!」
「水束縛!」
ダルヌスはスキルを唱え、ザイトライヒは水の拘束で身動きが取れなくなってしまった。
基本的な水スキルの応用……全く解けない、流石熟練者!
身動きが取れないザイトライヒにハイビスは殴り続け、地面に一滴の血が垂れた。
「よし、そろそろやるか」
ザイトライヒは口から流れた血を舐め取り、心底楽しそうな笑顔を浮かべた。




