第73話迫る予兆
天暁の港に止めていた船を出し、静の屋敷へと帰っていた。
敗北を噛み締めた仲間は、自責の念に襲われ、無力感に苛まれる。
だが俺は知っている。
一度ドン底に落ちたとしても、諦めなければ這い上がれる。
「カイだったよな?話があるんだ」
船内から外の景色を眺めていると、前から歩いてきた玄道が話しかけてきた。
ニコが言うには信頼してもいい人物。
しかし、元は守護騎士団――信頼はしても、安心はできない相手だ。
「そう警戒するな。魔法帝を打ち負かしたい気持ちは同じだろ」
無視をする俺に玄道は隣に来るために近くの椅子を引っ張る。
嫌悪感を覚える引っ掻き音が鳴り響き、俺の隣まで運んで玄道は座った。
「カイ、魔法帝…ルシアンとは、どうやり合うつもりだ?」
「ヤツのスキルは異常なのは知ってるだろ?炎、水、風……様々な力を使える。弱点なんかないみたいなもんだ」
俺は少し考え、間を置いて玄道に言う。
「正面から勝てる相手じゃねぇ」
「だから――殺す瞬間だけ奪う」
「言うのは簡単だ。てか、それ作戦って言わねぇだろ」
玄道は指に挟んだニコの札を見せて言った。
「ここはニコに任せてみねぇか?」
「は?」
「考えてみろよ。ニコは内功も使えて、弱点付与できるスキルに加えて強力な魔道具も兼ね備えてる」
「作戦は至って簡単だ」
玄道は埃が被った船内の窓に指を当て、描き始めた。
「ニコが前に出る。弱点付与は一瞬で入る」
「静が張り付いて、反撃の隙を潰す」
「分離した瞬間――カイ、お前を落とす」
「ただし、一回しかチャンスはねぇ」
「短期戦は不可能、長期戦なら――全員死ぬ」
「お前の仕事は?」
「俺のスキルは空間を自由自在に生み出せる。だからいつでもニコ達の側に出現できるってわけだ」
無茶苦茶だ。
でも、それしかない。
「……で、その作戦」
俺は玄道を見る。
「どこで失敗すると思ってる?」
玄道は一瞬だけ黙り、笑いながら口元を歪めた。
「全部だな」
無茶苦茶作戦……だが、悪くねぇ。
魔法帝も、ルシアンも――狙いは俺だ。
「ここで急いで作戦を決めても仕方がない。色んな話は屋敷に着いてからだ」
俺がそう言うと玄道はそうだと言わんばかりに鼻で笑い、椅子を元の位置に戻し始めた。
「それに、お前から聞きたいのは作戦よりも――」
「魔法帝は何処に移動した?」
「ん?」
俺は玄道に詰め寄る。
「言ってたよな。魔法帝は場所を移したと」
「何か知ってんならさっさと言うんだ」
「疑うな。俺がそう言ったのは、魔法帝が儀式で民間人を巻き込んだ時、俺達は常に魔法帝の位置がわかるようになってた」
「だから場所を移したと言ったんだ」
「なら何処にいる」
「ここからそんな離れてねぇ、なんなら近づいてる」
安堵したはずなのに、胸の奥がざわついた。
「好都合じゃねえか。アイツがわざわざ敵地に向かって来てるなんてよ」
しかし、わざわざ敵地に向かう理由がわからない。
……必ず"裏がある"。
そして船は静の屋敷が付近にある港に辿り着いた。
桟橋を歩く時、俺は玄道に話しかける。
「ルシアンは今何処だ?」
「通り過ぎたみたいだ。安心しろ、ヤツは必ずここを通る」
静の屋敷に到着すると、静は消えるように屋敷に入っていった。
作戦について話したいが今は一人にしてやろう。
玄道は前回襲撃したせいか気まずそうにしており、身を隠すように移動している。
そして屋敷の庭には俺とニコだけとなり、俺は作戦をニコに話した。
「……それ、俺がミスったら終わりってことだろ」
「それだけ期待…というか、素質がある」
「そんなにか?」
「考えてみろ。無数の強力な札が狙われてはいけない弱点箇所をしつこく狙ってくる――」
「想像しただけでも鬱陶しい」
「でもその作戦、最悪だな」
風が吹く。
涼しくもなく、湿っていて温かくもない。
人肌みたいな風が吹き、俺とニコは猛烈な違和感を覚えた。
「なあカイ」
「これ、来てるんじゃねえのか」




