第71話器の儀式
「で、でも、アイツらヴァンパイアが魔法帝に会う理由は!魔法帝に復讐するためだろ!?」
ニコは玄道に近づき、胸ぐらを掴んだ。
「もっと大きな目的があるのかもな」
その言い方にニコは疑問を抱く。
「大きな目的……?」
ニコは玄道から手を離し、玄道は畳に座り込んだ。
「あいつの目的、復讐だけだと思うか?」
「俺ならこうする――」
「"魔法帝を乗っ取り、人間ごと支配する"」
「とかか?」
「そ、そんなの……!」
ヤツなら、やるかもしれない。
「玄道!そんなことなんで俺に話すんだよ!」
「俺は馬鹿で弱くて!!力も男に敵わねぇのに!」
ニコは玄道に馬乗りになり、拳を振り下ろそうとした。
「そりゃ、お前に話すさ」
「え……?」
「だって魔法帝と戦うなら、他でもねぇ……」
「お前だ」
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高い壁に覆われた城の外。
父はスキルを最大限発動させ、父の姿勢が低くなった瞬間――
俺と父の間に巨大な雷が落ちた。
「な、なんだ!?」
俺は上を見上げ、赤い雷が渦巻く黒い雲を見つめる。
それは何かを吸い上げ、吸収しているようだった。
「……始まった」
父は魔力を弱め、戦闘態勢を解いた。
城の頂上から今まで感じたこともない気持ちの悪さを感じる。
「まさか器の儀式が始まったのか?」
頂上から感じる魔力は、大勢の人を大釜で煮詰めているような嫌悪感。
ふと、側にある兵の死体を見ると、体から青白い霧のような物が抜け出し、荒々しい雲に飲み込まれている。
「時間だ。直に俺もああなる」
「わかんねぇだろ」
俺は父に近づき、初めて"父"の眼を見つめた。
そこにあったのは、昔の父だった。
「魔法帝は予め、儀式を発動させる前にこの国全土を自分の魔術結界で覆った。そこの範囲内にいた者達は全員儀式の生け贄の対象となる」
「こんな膨大な魔力を使う程だ。器はさぞかし強いんだろうな」
「父さん、今からでも範囲外に逃げろ」
「それは無駄だ。既に俺は器の一部になっている」
父は淡々と言った。
さっきまで俺を殺そうとしていた時と、同じ目のまま。
「なんとか出来ないのかよ」
「出来ない」
父は即答し、その冷たさに言葉を失う。
ここで父を失うわけにはいかない。
父をここで失えば、俺は1人になってしまう。
そんな様子の俺を、父は俺の肩に手を置いた。
「そんな顔するな、"カイ"」
その声だけが、昔の父だった。
「お前は1人じゃないだろ?兄貴がいる」
「兄とはもう――」
父は俺の言葉を遮って言う。
「兄弟なら仲直りすればいい」
そして俺の後ろに回った父は、俺の背中を押して前に進ませた。
「やることがあるんだろ」
「………父さん。絶対、母さんや村のみんなの仇を取る」
そして俺は城の入り口へと歩き出した。
父は俺に背中を見せたまま、無表情で独り言のように呟いた。
「復讐なんか忘れろ、カイ」
その言葉に俺は唖然とした。
驚いたんだ。
そして何も言い返せず、城の入り口まで辿り着いた。
「"父さん"――!」
思わず振り返る。
だが――
そこにいたはずの父の体は、既に崩れ始めていた。
腕が、砂のように崩れ、青白い霧となって空へと吸い上げられていく。
手を伸ばす。
届くはずだった距離なのに。
指先は、何も掴めなかった。
「……カイ」
「生きろ」
掠れた声だった。
だがそれは、確かに父の声だった。
次の瞬間、そこにはもう――何もなかった。
"復讐なんか忘れろ"
その言葉が煙のように頭の中にしつこく残り、俺はその場を後にした。
一方、アルヴェリウスは突如消えていく敵に混乱していた。
「一体、何が起こっている?」
目の前にいたメリウスは、頭からボロボロと魔力の粉末と化しながら、剣をまだ握っていた。
「私は……まだ、魔法帝様の器に届かないのか……?」
「器…?まさか、儀式が始まったのか!」
アルヴェリウスは崩れていく敵達を退かしながら、メリウスに近づき肩を揺さぶった。
「おい!器は誰だ!なんの種族だ!」
「答えろッ!」
「………」
「吸血鬼の男だ……」
メリウスはフラッと全身の力が抜け、木の床に倒れた。
「吸血鬼の…男?」
そこでアルヴェリウスはすべての点が繋がった。
突如消えたルシアン。
そして昔、アルヴェリウスは瀕死の際、何処からか現れたルシアンに不気味な予感を感じていた。
そして、アルヴェリウスは血を飲まないルシアンを不気味がっていた。
「憑依などの儀式では…不純物を除く為に、排泄物や食べ物――」
「"血"を抜いて行う……」
ここまでヒントが隠されていたのに…俺は気が付かなかったのか?
それとも――
俺は、ヤツを仲間として意識していたのか?
急がなくては……!!
アルヴェリウスは誰もいなくなった場を出て、廊下を走り出す。
ひたすら城の上へと上がり、道中敵はおらず、無人の城へと変貌していた。
ここに強大な魔力を感じる!
アルヴェリウスは薄暗い空間に辿り着き、気配を消して今にも吐きそうな薄暗い部屋に繋がる障子に手を掛ける。
開けた先には、無数の人の魂――
すなわち、人の魔力に満たされた大釜に浸かっているルシアンがいた。
そしてその側には、倒れている東洋人の老人がいる。
「ルシアン!!」
「分をわきまえろ、老いぼれ」
ルシアンからは想像できない低く冷たい声。
姿はヤツだが、もう知っている男ではない、
もうヤツはルシアンではない!
魔法帝――!
アルヴェリウスは爆発的な風に吹き飛ばされ、障子を破り一番奥の部屋の壁にめり込んだ。
意識は朦朧とし、全身が痛くて痛くて仕方がない。
まるで骨が生きたまますべて砕かれているようだった。
魔法帝は大釜から上がり、倒れていれているアルヴェリウスに手の平を向けた。
「……ルシアンを…返すんだ…!」
「アルヴェリウス。お前、意外と仲間想いだったんだな」
アルヴェリウスはその時、果てしない絶望に叩きつけられた。
この男は魔法帝でもない。
"ルシアン"だと。
「なぜ……!!?」
「俺達は同胞だろうが……!」
ルシアンは顎に手を当て、考える仕草をした。
「むしろ邪魔なんだよ――感情で動く同族は」
「僕の理想に、君みたいなのは必要ない」
「僕は、人間達に殺される種族を守るために、多少の犠牲は仕方ないと思う方なんだ」
そしてルシアンは自然の力である火を生み出す。
「……ふざけんな」
「俺達は、生き延びるために戦ってきたんだろ……」
「それを……支配だと……?」
アルヴェリウスは笑った。
「やっぱりお前は――王の器じゃねぇよ」
ルシアンはスキルの詠唱を唱える。
「燃えろ」
「今から行うのは殺戮じゃない――統治だ」
「弱き人間は、ここで淘汰される」
炎がアルヴェリウスを包み込んだ。
手を伸ばしたまま、アルヴェリウスの体は微かな隙間風で崩れ散っていった。
「人間は、僕達を狩り続けた」
「だから今度は、僕が"選ぶ側"になる」
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ニコは玄道に拳を掲げたまま、固まっていた。
「儀式が始まった」
「な、ならさっさと俺をここから出せ!」
「ダメだ」
「なんで!!」
玄道はニコを殴り、咄嗟にニコは反撃に出るが、玄道の体術に圧倒されて体勢は逆転された。
「俺はな、お前のそのスキルに希望を見出だしてる。死なせるわけにはいかねぇんだ」
「それに、今出ようとすると俺は必ず死ぬ」
「どうして!」
「今頃、魔法帝が儀式のために国民の魔力を奪って殺している。安心しろ……あいつらは、まだ巻き込まれてねぇ」
「んじゃその儀式が止めに今からでも行かねぇと!」
「黙れ!ガキ!!」
ニコは突如の大声に驚き、玄道は涙を溢した。
「嫁や娘が死んでもな……俺はやっぱ生きてぇんだよ……死にたくねぇんだ…」
「もう……これ以上死人を増やしたくねぇんだよ……」




