第70話親子喧嘩
対峙する父と子。
最初に動き出したのは、父であった。
音速を越えているであろうその速度で、父の剣が俺の体を斜めに斬り裂こうとする。
――が、俺は間一髪で攻撃を受け止め、その時に父が持っていた剣を叩き落とした。
剣は地面を転がり、父は手元を抑える。
まるで反発が効いていない……?
「一体何をした?」
「父さんが一番分かってるだろ」
俺は地面に拳を振り下ろし、舞い上がる瓦礫を使って姿を消した。
父の背後が見えた隙を狙い、瓦礫を抜けて背後に短剣を突き立てる。
一瞬で察知した父は、俺の手首を掴み片手で簡単に受け止めた。
!!
次の瞬間、父の拳が顔面にめり込んだ。
視界が白く弾け、俺の体は城壁へと叩きつけられる。
「ガハッ……!」
壁から剥がれ落ち、地面に倒れて立ち上がろうとする俺を見ながら父は言う。
「効かないのは貪食の力のおかげか」
「そうだ。その反発とやらは毒と同じ、理論が分かれば喰らって弱らせられる」
「そんなことしたところで意味はないだろう。今の俺には俺自身に力が加わっている」
「自分が上だって思ってんのか?まだボケるには早いぞ、父さん」
俺は再び走り出し、父が迎え撃つ。
父は俺の短剣の攻撃を避けながら、落ちた剣を拾いすぐに剣を振り上げ反撃に出た。
剣先は俺の胸を掠め、服が破れる。
父の隙が出来たところに短剣を持ち変えて振り下ろし、父は剣で防御をした。
金属の衝突音が鳴り響き、俺は短剣を手放して父の懐に潜り込み横腹に左拳を叩き込んだ。
「ごはっぁ!!!」
父は思わず倒れそうになり、踏ん張った瞬間、俺は父の顔面に拳を振り下ろし、叩き込むと父は後方へフラフラと下がる。
父の表情が歪む。
貪食の力を察したのか、父の目が細くなる。
そして追撃として距離を縮めると、父はカウンターとして拳を突き出すが、俺は屈んで避け、父の鳩尾に拳を突き刺した。
「ッ!!!」
父は衝撃で吹き飛び、城の入り口に激突して瓦礫に埋もれる。
「父さん」
父は瓦礫を押し退け、何もなかったかのように立ち上がる。
「俺は諦めてない。まだ、父さんの中に、昔の父さんがいるって……俺は信じてる」
もう一度、この男を父さんと呼びたい。
それに父は即答を返した。
「幻想は諦めろ」
その言葉は、敵ではなく父として言っているようだった。
もう、昔の父は"あの村"で死んだ。
そう言っているようだった。
父の魔力が膨れ上がる。
地面が割れる。
その時、兄であるザビエクが言っていた言葉が浮かび上がる。
「均せ」
「奪え」
「力は巡り、力は傾く」
「調和と反発――」
スキルの詠唱か……?
父から溢れ出る魔力は、兄を彷彿とさせていた。
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ニコ達は城内に入った後、数々の敵と鉢合わせながらも城内を進んでいた。
「ニコ、これで全部か」
アルヴェリウスは自分か敵のか分からない程の血溜まり上に立っており、背後にいるニコに話し掛けた。
「知らね。俺、人殺さねぇし」
「後悔しても知らんぞ」
アルヴェリウスは辺りを見渡し、異変に気が付いた。
「ルシアンは何処だ」
「あんなヤツ知らね。まあでも探さなくちゃな、人手は多い方がいいし」
アルヴェリウスは気絶している者達にトドメを刺し続け、ニコはそれに対して嫌悪感を抱きながらも止めはしない。
……なんで止めねぇんだ、俺。
それはニコ本人にも分からない感情だった。
そして2人は階段を上がり、木が軋む音が静かに鳴り響く。
その瞬間、ニコは突然浮遊感に襲われた。
「!?」
階段は罠となっており、ニコは落とし穴に落ちたみたいに階段に吸い込まれ、消え去った。
「これは……奴らの手の平のようだな」
ニコが落ちる寸前、微かに魔力を感じた。
ただの罠ではなく、スキルで強制的に離されたか。
アルヴェリウスは周囲を警戒する。
自分の背後に数人、そして階段を上がった先にまた数人。
前回会った守護騎士団の一員もいるな……ということは、ニコを襲ったのは副団長か。
とにかく――
アルヴェリウスの背後にある気配が動いた瞬間、アルヴェリウスは壁や床に飛び散った血を操り、隠れていた男を刺し殺す。
「1対多数だぞ。何を恐れてるんだ」
アルヴェリウスの挑発に乗った敵は、刀や槍を取り出してアルヴェリウスを挟み撃ちにする。
「だあっ!」
背後から迫る男が槍を突き出すと、アルヴェリウスは躱して手を血で覆い、槍の刃を掴んだ。
そして階段の上から斬りかかる男の攻撃も、アルヴェリウスの足元から飛び出した血が刀を覆い、逆に男の頭を突き刺した。
一瞬の静寂が続き、男の声に皆は動き始めた。
「ぜ、全員でかかれいィ!!」
アルヴェリウスを挟み撃ちにした敵達は一斉にかかるが、アルヴェリウスの周りを渦巻く血は敵をあしらい適切に急所を狙う。
アルヴェリウスは一歩も動かない。
ただ立っているだけで、血が勝手に敵を殺していく。
「はあ~ぁ」
アルヴェリウスはあくびをしながら、その戦闘を見続け、静まった頃には誰も生きてはいなかった。
妙だ。何故ここまで弱い?
「さてと……」
アルヴェリウスはベチャベチャと血溜まりを踏みつける音を立てながら階段を上がり、廊下を渡って障子を開けた。
道場――その先には正座している数十の敵と、それに対している守護騎士団幹部の1人がいた。
「貴様、メリウスだったな」
魔法帝の選別のために大人しく正座をしているメリウスは、ハッと息を吐いた。
「皆の衆、魔法帝様からの試練だ」
正座していたメリウスの部下達は立ち上がり、刀を掴んで引き抜く。
「"あの老いぼれを殺せ"」
「すれば、"器となりゆるだろう"」
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「ここ一体何処だよ……」
ニコは謎の空間にいた。
広い畳部屋があるだけの空間。
そして開かない障子。
アルヴェリウスは何やってんだ?
そんなことを考えているのも束の間、障子に人影が現れた。
「その背格好……玄道だっけか」
ニコは咄嗟に構えを取った。
「そうだ」
玄道は障子を開け、広い畳部屋に入る。
玄道からふんわりとタバコの匂いがし、表情が明らかに暗い。
「殺し合う…雰囲気じゃなさそうだな」
ニコは玄道を見つめる。
この表情は油断させるための嘘じゃない。
玄道は怒りを露にしながら言った。
「娘も嫁も死んで、戦えっかよ」
「魔法帝は俺達国民を巻き込んで、器の儀式を始めやがった。教えてくれてりゃ、雪もあつ子も……」
玄道は見上げて涙を堪えた。
「お前、知ってるか」
「何が?」
玄道は腰に携えた刀を鞘から引き抜いた。
「俺さ、気づいちまったんだよ。魔法帝は器をどんなヤツにすると思う?」
「そりゃ……強いヤツじゃないのか?」
「正解、強いヤツだ。"若くて"、"歳を取りづらくて"、"何百年"も寿命があるヤツ」
急にどうしたこいつ、含みのある言い方しやがっ…て……
ニコは青ざめ、冷や汗が出てくる。
ニコは脳裏にある人物が浮かび上がっていた。
言葉を失った。
こいつの言ってることが、本当なら――
「お前も気づいたよな?俺もお前らも、ずっとずっと前から利用されてたんだよ」
「なら玄道、俺らはなんのために戦ってんだよ」
玄道は笑いながら答えた。
それは歓喜ではなく、諦めから来ていた。
「お仲間のヴァンパイアに聞けば分かるんじゃねぇのか?」
一方ルシアンは、天暁の城の最上階にある薄暗い部屋に辿り着いていた。
外は雷が鳴り響き続けていて、ルシアンのニヤついた表情が不気味に写る。
「魔法帝様、到着致しました」
すると障子の向こうから、魔法帝の声が聞こえた。
「よくぞ来た、我が器――」
「"ルシアン"」
雷が落ち、絶望の予感をさせていた。




