第68話背負うもの
ガリカルの尋問を終えた後、俺は静に言われて武器庫へ向かっていた。
もうゆっくりしている時間はない。
"天暁"、そこは魔法帝が東の地に訪れた最初の場所でもあり、最初の支配下。
そして、魔法帝は新たな器を得るために守護騎士団を利用して強い肉体を手にしようとしている。
そこに、俺の父親も含まれている。
一刻を争う状況に、静は渡したい物があると言い俺を武器庫を連れていっていた。
「静、一体何を渡したいんだ?」
「見た方が早い」
静はそう言うだけで、何も話してくれず時間だけが過ぎ、武器庫へと辿り着いた。
武器庫に繋がる木の大扉には、魔術が施されている鎖で封鎖されており、静は刀を引き抜いて鎖を断ち切った。
「そんなんで壊れるんだったら意味ねぇだろ」
「鎖は中にある武器の魔力を封じ込める物、それ以外は大した意味はない」
静は刀を鞘に収め、大扉を押し開いた。
武器庫は禍々しい雰囲気に満ち溢れ、壁に掛けられてある魔道具の灯りを付けて、辺りを照らした。
「着いて来い」
黙って静の後を追い、武器庫の奥へと入って行く。
札で覆われている縄や、鎖で巻き付けにされている大剣など、様々な異質な武器がある。
そしてそこに1つだけ、周りの武器とは隔離されている奇妙な武器があった。
台に置かれている、見た目はただの剣――しかし、刀身はまだ熱を帯びている炭のように赤く光っている。
「これは?」
静はその剣をまるで憎むべき敵のように見つめた。
「私の大切な人の形見でもあり、敵の遺品でもある」
「何があった」
「聞いても楽しくはない話だ。でも、これを差し出す以上、話した方がいいのだろうな」
静は少し恐怖と嫌悪を感じながら話す。
「私には、弟がいた。私より優れており、次期当主でもあった」
静は剣を見つめながら言う。
「この剣は弟が愛用していた剣、名は炎神。膨大な魔力と人格を蝕む、いわゆる魔の剣だ」
「これを俺に使えと」
「使えるだろう?貪食を扱えているのだから」
静は剣に手をかざし、魔力を流した。
すると剣の封印は解かれ、刀身からパチパチと火花が散っている。
俺は剣を握り、持ち上げた。
「何か違和感は?」
「魔力をかなり消費するぐらいだな」
使うなら精々5分程度……最終手段となると、1分も持たないかもしれない。
「強さと引き換えに代償は付く……それでも使うか?」
「魔法帝を殺さなければいけない。結局、使う羽目になる」
静は鼻で笑い、微笑んだ。
「やはり、お前に託して正解だったな」
「魔が施された剣の収納のやり方は知っているか?魔力を流し、自分の内に込めるように集中しろ」
魔力を炎神に流し、貪食で喰らう時のように扱うと、剣はスッと炎を残しながら消えた。
「そうすれば手札を見られることはない。便利なものだろう?」
「ああ」
「では、ここを出るとするか」
薄気味悪い武器庫から出て行き、静は天暁への準備へ。
俺は自室のベッドに座り込んでいた。
ただボーッとするだけ。
その中でただ同じ言葉が頭を巡る。
魔法帝、父親。
頭の中でその言葉だけが何度も繰り返される。
「……父さん」
守護騎士団にいる父。
俺がこの地に来て、最初に戦った相手。
俺が知っている父なのか、もう別の何かになっているのかも分からない。
ザイトライヒに殺されたはずなのに、生きていた。
そして、魔法帝に利用されている。
その無力感が、俺の胸の奥底まで襲いかかった。
拳を強く握りしめ、自分に腹が立つ。
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別大陸。
そこは、すべて砂漠で覆われており、荒れ果てた村で黒い衣装を着た悪魔崇拝者達が拝んでいた。
地面には黒い魔法陣。
それを囲うように崇拝者が祈っている。
「偉大なる悪魔よ――」
「我らをお救いくだされ」
魔法陣がどす黒く光った瞬間、空から何かが勢いよく降りてきた。
耳が張り裂けるような轟音を立て、大きな砂埃を舞い上がらせながら、男は崇拝者に言う。
「蛆のように湧くな、貴様らは」
目の前にいた崇拝者達が最後に感じたのは、ツンと来る火薬の匂い。
降りてきた男は崇拝者達を巻き込みながら、大爆発を巻き起こし、魔法陣諸共消し炭にした。
「一応止めれたな。次の目標は?」
男は耳に指を当て、指示を待つ。
「あなたから見てここから数百キロ前に王国がある。そこを潰せば崇拝者達の負けよ」
女性の指揮官がそう言い、男は地面を踏ん張り、高く空に上昇して衝撃波を出しながら飛行していった。
この男は伝説の英雄。
そして――
カイからすべてを奪った男。
その名は――
"ザイトライヒ"
一生涯敗北をしないであろう伝説の英雄の名だった。
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救わなければいけない父親。
魔法帝を倒し、ザイトライヒの居場所を聞かなければいけない。
一歩間違えれば、自分が死ぬかもしれないし、父親を殺してしまうかもしれない。
その時。
「カイ」
静かな声がして、顔を上げた。
扉の前に立っていたのはニコだった。
「……どうした」
「それはこっちの台詞だ」
ニコは腕を組みながら俺を見ている。
「そんな顔して部屋に籠もってたら、誰でも心配する」
「別に籠もってねぇよ」
「はいはい、嘘なの知ってっから」
ニコは即答しため息をつきながら、俺の前まで歩いてくる。
そしてベッドの隣に腰を下ろした。
「親父さんのことだろ」
図星だった俺は思わず視線を逸らす。
「……お前に関係ない」
「関係あるだろ」
ニコは少しだけ声を柔らかくする。
「天暁に行くんだよな」
「ああ」
「そして守護騎士団に……お父さんもいる」
「……」
何も言えなかった。
沈黙が部屋に落ちる。
ニコは少しだけ迷うように視線を落とし、それから小さく言った。
「怖いか?」
「……」
「もし戦うことになったらって」
俺はしばらく黙ってから、ゆっくり答える。
「分からない」
本当に、それしか言えなかった。
父なのか。
敵なのか。
もう分からない。
ニコの手が、俺の手の上にそっと重なった。
「ッ……」
少し驚いて顔を見る。
ニコは少し照れたように目を逸らしていた。
「一人で抱え込むなよ」
「……」
「カイが全部背負う必要なんてない」
ニコは小さく笑う。
「俺もいるし」
その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなる。
俺は小さく息を吐いた。
「……ありがとな」
「どういたしまして」
ニコは立ち上がり、扉の方へ歩いていく。
そして振り返った。
「でもさ」
「?」
「無茶して死んだら怒るからな」
思わず少し笑ってしまう。
「お前が言うか」
「言うよ」
ニコは真剣な顔で言った。
「俺さ――」
言葉を一瞬止める。
それから小さく続けた。
「カイに死んでほしくねぇんだよ」
静かな言葉だった。
でも、それだけで十分だった。
俺はゆっくり頷く。
「……分かってる」
ニコは少し安心したように笑った。
「じゃ、俺も準備してくるわ」
扉を開ける前に、もう一度だけ振り返る。
「マジで死ぬなよ?」
「約束だからな」
そう言って、ニコは部屋を出て行った。
部屋に静けさが戻る。
さっきまで胸の奥にあった重さが、少しだけ軽くなっていた。
この時、この約束を、俺は一生背負うことになる。




