表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第四章贄の儀式
60/87

第59話先に喰らう者

ヴァンパイアの長老は、ルシアンの前を通りすぎ、俺の前に立ち塞がった。


ルシアンと似た気配を纏っている。

だが、先ほどの女とは違う。

……血の繋がりか?


その一歩で、空気が変わり、長老は俺の前で止まった。

老いているが、底が見えない。


「カイ……だったな」


低い声が、胸を震わせる。


「なぜ俺が、貴様の条件を飲む?」


俺は一歩も引かない。


「女はここに残す。約束を破ればルシアンが殺すと言った。だから女とは契約しない」


長老の目が細まる。


「……保証はあるのか?」


「ない」


俺は即答する。


「だがルシアンは最近、人間の血を飲んでない。匂いで分かる」


ルシアンが小さく拍手する。


「正解」


俺は視線を動かさない。


「問題はあんただ。血を断てるか?」


沈黙。

長老の魔力が、僅かに漏れ、その魔力は鉄のように重い。


「力の源を絶ち、魔法帝に挑み、何も出来ずに死ねと?」


「そう言うと思った」


俺は腕を差し出す。


「だから、抜け道を用意した」


空気が張り詰める。


「俺の血をやる」


一瞬。

場の温度が下がる。

ルシアンの目がわずかに見開く。

長老が初めて、俺を“測る目”になる。


その瞬間、ルシアンの表情が、わずかに変わる。


「……正気か?」


長老は一歩、近づいた。

その圧だけで地面が軋む。


「貴様の血だ。人間のものとは違う匂いがする」


俺は迷わずナイフを取り出し、掌を切った。

赤が零れる。

鉄の匂いが広がった瞬間――空気が震えた。

ルシアンの瞳が赤く細まる。

長老は目を閉じ、ゆっくりと息を吸う。


「……濃いな」


「栄養としてなら十分だろ」


血が地面に落ちる前に、長老の指先がそれを受け止め、舐め取ると、長老の魔力が、わずかに膨れ上がった。


「……なるほど」


低く呟く。


「力は混ざらん。ただの血だ」


「最初からそう言ってる」


俺は傷口を握りしめた。

長老はじっと俺を見る。

今までの敵を見る目ではない。

測る目だ。


「貴様は、自分を削ってまで我らを利用するか」


「利用じゃない。共闘だ」


一瞬、空気が張り詰める。

ルシアンが笑う。


「面白いな。本当に人間か?」


俺は視線を逸らさない。


「俺は俺だ」


長老はゆっくりと背を向けた。


「よかろう」


その一言で、重圧が消える。


「魔法帝との戦い。貴様が死ねば、この契約は無効だ」


「問題ない」


「……だが覚えておけ」


長老が振り返る。

その瞳には、かすかな警戒があった。


「魔法帝は、貴様を見れば必ず気付く」


「……あの男は、400年前と同じ顔をするだろう」


「何が」


「恐怖を思い出した顔だ」


400年前?恐怖?一体何の話だ…?


重くなった空気を断ち切るように、ニコが前に出る。

長老は静かに一歩下がった。


「一応協力って形になっただろ。早く魔法帝の居場所教えろよ、エルフの村長に教えられたろ?」


ルシアンは優しく微笑み、説明し始めた。


「今、あの男は東の大陸にいる」


東の大陸か、随分と離れた場所にいるもんだな。


「今のところ、彼は善人ぶっているけど、僕の調査によると魔法帝の影響は確実に出てる」


「つまり、東の民族は魔法帝の支配下にある。多分、ヴァンパイアを殲滅したみたいに、似た計画を立てているはずさ」


「僕達は同族の復讐、カイはある人物の情報を得るため」


「でもカイ?魔法帝が悪事を働こうとしてる限り、君の目的は変わるんじゃないかい?」


「ああ」


「ま、とりあえず詳しい作戦は東の地に到着してからにしようか」


「セレスティナ、君は今すぐ村へ。事情はエルフの村長に話したら理解してくれるさ」


セレスティナと呼ばれるヴァンパイアの女は、嫌々ながら村へ向かい、俺の耳元で囁く。


「人間のくせに、調子に乗るな」


ルシアンは聞こえていたのか、物凄いスピードでセレスティナに近づき、肩を掴んだ。


「カイじゃなく、僕が命令した。大人しく聞けないなら、信頼の証として君を殺してもいいんだぞ」


「ッ……!」


「さっさといけ、僕の気分が変わる前にね」


セレスティナはルシアンの腕を振りほどく。


「離せ」


セレスティナはルシアンを睨み付け、そそくさと消えていった。


「じゃあこの4人で行こうとしよう。船の手配は済んだし、明日には出るから、今日はゆっくりするといいよ」


「えらい手際が良いじゃねえか」


「まるで見据えてたみたいだな」


「僕は君が来てくれると信じていたからね。そうだ、この場を借りて改めて自己紹介とスキル開示をしよう」


ルシアンは自分の胸に手を当て、俺の目を見る。


こいつ、ニコに対しては本当に眼中にないな。


「僕はルシアン。スキルは血界支配(ブラッドドミニオン)、自分の血を媒介に“領域”を作る。 領域内では血を持つ生物の動きを制限できる」


「とは言っても、階級は上位スキルだから、圧倒的強者には通じないけどね」


ルシアンは長老に目を配らせるが、一向に自己紹介をするつもりはない。

ルシアンはため息を吐き、手を長老に向けて代わりに話し始めた。


「この頑固者はアルヴェリウス。スキルは血河顕現(ブラッドレヴィアタン)、自分の血を操る能力。少しの血でも、それを増幅させて大量の血に出来る上位スキルでも上位の方さ」


アルヴェリウスは俺の滴り落ちていた血を宙に浮かせ、一滴の血がやがて三滴――小瓶を埋める程増大させ、形を変えて剣へと変化させた。


「次はカイ達だよ」


ルシアンはどうぞと言わんばかりのジェスチャーをして、ニコがコホンと咳を出して注意を向かせた。


「俺はニコ。スキルは……欠陥刻印(シール)、元々ある弱点を出して魔力を乱らせるスキル」


「まあ格上には通じないけどな」


視線はやがて俺の方に集まる。


なんて言おうか…そのまま言うのにはリスクがありすぎる。


「カイだ。スキルは――」


貪食、と言うにはあまりにもアホだ。

このヴァンパイア達は異常な環境にいるだろうから、あまり関心を示さないだろう。

だが、ニコは違う。

俺を信じろと言ったのに、信じた相手が禁忌スキルとなると、一気に信頼が崩れる。


「カイ?」


ニコが俺の顔を覗き、不思議そうな表情を見せた。


完全に隠すのは不可能……


「"強奪"だ。動物を食べたらその動物の力を使える」


「へー、珍しー。強いの?」


「ぼちぼちだ」


「にしても強奪って便利だな」


ルシアンは鼻で笑い、手を叩いて仕切り直した。


「とりあえず、明日の昼12時にここに集合しよう」


そう言い残し、ルシアン達は木の向こう側へと歩いて行った。


アルヴェリウスとニコは気付いてないみたいだ。

でもルシアン、アイツは俺の貪食に気付いてる。

何事もなければいいんだがな。


ルシアンは影がある森の方へ入り、ふと視線を背後へと向ける。


「……貪る者、か」


「どうした?」


「いや、なにも」


俺は奇妙な視線に無意識に振り向いてしまう。


「どした?」


「いや、なんでもない」


強奪。

そう言ったのは間違いじゃない。

だが俺の力は―― 喰らい、奪い、残さない。 魔法帝がそれを知れば、 必ず俺を殺しに来るだろう。


だからこそ。


俺が先に喰らってやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ