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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第四章贄の儀式
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第58話信じるのは

ここの森は、静かだった。

月明かりの下、ヴァンパイア達は穏やかに暮らしている。

老人は茶を囲み、若者は書を読み、ある者は夜の散歩を楽しむ。

時折、人間の血を嗜む。


それは彼らにとって、ただの食事だった。

誰一人として“悪いことをしている”とは思っていなかった。

罪悪感などない。

人間は果実。

それが世界の秩序だった。


――だが。

王都の病院では、今日も人が死んでいる。

感染、失血、原因不明の衰弱。

戦場を生き延びた兵士が、薄暗い病室でひとり息を引き取る。

看取る者もなく。

国は彼を英雄と呼んだが、その死因を公表することはなかった。

その遺体の首筋には、二つの穴が残されていた。


「共存は不可能だ」


そう断じたのは、“賢者”と呼ばれた老人だった。

珍しいスキルを持つ男、未来を見通すと噂された男。

だが彼が見た未来は、救済ではなかった。

殲滅だった。

彼は己の血を受け継ぐ子を器にし、王国中から才能ある子供達を集める。

目的は一つ。


ヴァンパイアの絶滅。


そのためだけの部隊が、密かに編成された。

その名を――


"黎明審問団(れいめいしんもんだん)"


賢者は部隊を連れ、数万匹が潜んでいるヴァンパイアの森を焼き払う。


対抗するヴァンパイアは部隊の少年少女を容赦なく殺すが、部隊の勢いは止まらない。


ヴァンパイアの長は、賢者と呼ばれる者が指揮をしていると気付き、精鋭を連れて賢者に襲い掛かった。


若い肉体を手に入れた賢者は、己の未来のスキルを捨て、器のスキルを使用する。


スキル"万象掌握(ばんしょうしょうあく)"


立ち塞がるヴァンパイアは、炎で灰に、水で溺死し、風で刻まれる。

自然の力を自在に操るこの究極スキルを前に、賢者は自身の部隊を巻き込みながら、2日の時を経てその場にいたすべてのヴァンパイアを殲滅した。


味方も、敵も、区別はなかった。

炎は等しく焼き、水は等しく沈めた。

その賢者の瞳に、躊躇は一切なかった。


その後の勢いも止まらず、その賢者はやがて、こう言われるようになった。


それは英雄の名ではなかった。


それは――


"魔法帝"


スキルの魔法を司る帝として、ヴァンパイアに留まらず、やがて巨人、魔物をも殺し、人類の英雄として五帝に君臨した。



----



「………」


「セルスティア、具合が悪いのかい?」


ルシアンは木の下の日陰で休んでいる仲間の、女のヴァンパイアに筒に入った水を差し出す。


「よく日の下歩けるね、私には一生無理かも」


セルスティアは筒の蓋を開け、水を一気に飲み干した。


「また昔のことを思い出したんだね」


「どうでもいいでしょ。それよりも……」


セルスティアは筒をルシアンに向けて投げ捨て、日当たりに向かって飛び出した。


「早く血が飲みたーい!」


「まだダメだよ、我慢しなくちゃ」


「全く、小娘は我慢を覚えなければならん」


長老は木の影から姿を現し、ヌルッと出て来ると、ウサギの首筋を噛み生き血を飲む。

ウサギは干からび、白い毛はプチプチと落ちる。


「うえぇー、よく動物の血なんか飲めるね」


「無いだけマシだ」


長老は乾いた唇を軽く舐める。


「あの男は、生きておる」


「我々は滅びた。だが、血は絶えておらぬ」


長老の赤い瞳が、遠い過去を見つめていた。



----



俺は香ばしいスープの匂いで目が覚める。

ルシアンと会話してから2日、ニコは全く聞き耳を立ててくれない。

無理もない、ニコのその感情は俺が一番知ってる。


「今日の晩飯は?」


「……鶏と根菜のスープ。パンは昨日の残り」


ニコは食卓に食事を置き、黙ってボソボソのパンを齧りながら食べ続ける。

俺は冷蔵庫を開き、甘い飲み水とアイスを取り出し食卓に置く。


「それ、今食うのか?」


ニコは小さくため息を吐く。


「ニコが作ったもん全部食ってるからいいだろ」


「そういうとこ、だぞ」


「何が」


「……別に」


言葉は続かない。

スープの湯気だけが、ゆらりと揺れていた。


そろそろ話に決着を着けないとな。


黙々と食べ続けるニコに、俺は話し掛けた。


「昨日の話の続きだが、俺はヴァンパイアと協力する気だ」


「へー、そう」


やはり聞く気はないな。


「いつまでもそうやって逃げ続けるつもりか」


「は?なんだよそれ。俺がヴァンパイアから逃げてるって言いたいのかよ」


「そうだ。だが、俺がどうこう言ってもニコは着いてこないだろ?置いていくのもアリだ。でも、ニコはヴァンパイアに対して特効の"何か"が使える」


「あの時の自信満々のセリフも。ヴァンパイアに対して、何かを特別な魔道具があるからだろ」


「そう…だ」


「ルシアンは俺に興味があり、なにより好意的だ。強気な願い以外は、思ったより容易く承諾してくれるだろう」


「例えば?」


「あの3人の中にいた老人を利用する」


ニコの視線が鋭くなる。


「利用って…」


「言い方が悪いな、だが現実的だろ」


「お前……!」


「ニコ、聞けよ」


「人間を殺さない契約を交わさせる。源となる血は俺が提供する。信頼を得るためにこの村との信頼関係を築かせる」


「ヴァンパイアがここの村付近に現れた理由は、人間の血が目的だ。襲われなくても済む状況を作ればいい」


「理屈だけは立派だな」


「理屈じゃない。もし、あの中にいるヴァンパイアが誰かを殺したら、その時は俺が殺す」


「なんでそこまで責任を背負うとするんだ」


ニコは机を叩き、衝撃でスープが溢れる。


「お前が死んだら意味ねぇだろ!」


「……協力なんて簡単に言うなよ」


「俺の家族はヴァンパイアに殺された。同じ目的だからって、人殺しのヴァンパイアに協力しろだって?カイはそんな経験ないから……!」


感情が抑えられてないのか、ニコの目からは涙が溢れていた。


「兄は俺の家族を殺した」


「…え?」


「正確には、見捨てた。俺はそんな兄貴に背を預けて戦っちまった」


「恋人が死んだのも、兄貴が助けてくれればって憎んだ時もあった」


「でもな、結局恋人を連れ出したのは俺だ。俺が選択した。それでも責任転嫁したかった俺は兄貴を殺さなかった」


「俺は人を殺し、人を脅し、恋人も殺した」


「唯一の家族の兄貴を殺さなかった。踏み留まれたんだ」


「誰かのせいにするんじゃない。今日は選べ。お前が今から信じるのはヴァンパイアじゃない」


「"俺だ"」


「家族を守れなかった俺を信じてほしい。恋人を殺した俺を信じてほしい」


「で、でも……」


「俺は不器用だ。だがこれだけは言える」


「力を貸してほしい。お前のその能力が、役に立つんだ」


スープの湯気は消えている。

アイスも溶け始め、甘い飲み水はぬるくなっていた。


「わかったよ。でも、俺が信じるのはカイだから」


「話はついたな?」


ニコは立ち上がり、乱暴に皿を持ち、スープを飲み干しパンを一気に食べた。


「勘違いすんな」


食べ終わった食器を持ち上げ、台所へ運ぶ。

そして振り返らずに言う。


「ヴァンパイアを許したわけじゃねぇ」


「一回だけだ」


「裏切られたら、俺が燃やす」


そして小さく。


「……絶対、死ぬなよ」


「ああ」


夜は明け、3日目が経過した。

ルシアンが最終日前日に送った手紙に、集合場所が書かれていた。

ニコと共にその場へ向かい、村から少し離れた草原に辿り着いた。


そこには木がポツンと立っていて、日陰に座って待っている男が見える。


「来たんだね。答えはどうなったかな?」


ルシアンは立ち上がり、木の日陰から出てきた。


「お前らに協力する。ただし条件がある」


聞いてもらえるかどうかだな…


「全然いいよ、こちらの戦力は増えるし、僕側からも何かを差し出さなくちゃね」


「良心的で助かる。俺から出す条件は二つ」


「一つ目。あの老人に誓わせろ」


「破れば、お前ら全員を敵に回す」


ルシアンの目が細くなる。 


「……随分強気だね」


「当たり前だ。俺は命を預けるんだ」


「二つ目。お前らの誰か一人、この村に残れ」


「人間と同じ飯を食い、同じ屋根の下で寝ろ」


「信用は、言葉じゃなく生活で示せ」


かなりリスクはあるが……


「いいね。あの老人に誓わせよう。村に残るのは……セルスティア、僕の仲間の一人の女性にする」


「僕は約束を破るのが嫌いなんだ。だから安心して、もしセルスティアが村人に何かしたら、その時は僕が殺すよ」


ルシアンは背後に目線をやる。

後ろには長老と女性が立っていて、2人はルシアンの言いなりだった。


草原の空気が、ひやりと冷える。

長老の赤い瞳が、俺を射抜く。


「人間よ」


低い声が、風に溶ける。


「――次に裏切るのは、どちらだ?」


風が強く吹き抜けた。

交渉は成立した。

だが、信頼はまだ生まれていない。

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