表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第四章贄の儀式
58/66

第57話均衡

時刻は夜の9時。

木が生い茂ったまるで樹海のようなこの山は、木々が空を塞ぎ、月明かりは細い針のようにしか差し込まない。

光さえなければ、深淵に閉じ込められてるみたいな場所だった。


そのせいか、自然と呼吸は浅くなり、魔道具の灯りも徐々に薄くなっている気がする。


「なあ、本当にこの道であってんのかよ……?」


「あってる」


久々の休みを取ったおかげで、使いすぎた魔力は回復した。


体調も整っているし、もしものことがあっても、大抵のことは対処できるだろう。


その瞬間、奥の越間である草がガサガサと動いた。


ニコの喉が、ごくりと鳴る。

その音だけがやけに大きく聞こえた。


「お前、案外ビビりなんだな」


「あ、ああ、あんなヤツ、俺の技食らえば一撃だぜ?」


「そうか」


強がってるニコを適当にあしらい、樹海のような森を抜けた先に、大きく薄暗い館が見えた。

どす黒い魔力が全身を覆い、ニコは思わず戦闘体勢を取る。


「そう焦るな、ただの結界魔法だ」


「え?よ、よくわかったな」


「もう慣れてる」


誰かの視線を感じるその館に近づき、扉を勢いよく開けた。

館内は暗い…いいや、暗すぎる。

ニコの緊張した息遣いが聞こえ、俺は咄嗟に視覚を変化させ、明るくなるはずの周りを見渡す。


……違う。

これは――暗闇じゃない。


「ニコ!」


俺は走り出し、ニコを捕まえて館の外へ出る。

一瞬の出来事のあまり、ニコは困惑して表情を浮かべていた。


「な、なに!?急に?」


「この館は罠だ」


いつもならこんな暗闇ぐらい、動物の眼を借りたらすぐ周りが分かる。

だが、それでも見えない暗闇は、魔力で黒く塗り潰してる空間だ。


館の屋根から、黒い塊が崩れ落ちた。

それはカラスの群れだった。

羽音が夜を裂き、視界を覆い尽くす。

耳が割れるような鳴き声にニコは耳を塞ぐ。

1羽のカラスが向かい、体を傾けて避けた瞬間、背後に人の気配を感じた。


「よく気付いたね」


いつの間に…!?


声は、すぐ後ろから聞こえ、振り向く。

そこには、色の抜けたような男が立っていた。

夜に溶けそうな整った顔立ち。

青い瞳だけが、夜の中で浮いている。

指先で、一本の黒いカラスの羽を弄んでいた。

風もないのに、男の髪だけが揺れる。


「僕たち、似てるよ」


俺は拳を振るい、男は片手で軽く受け止めた。

受け止められた感触がない。

殴ったはずなのに、何か柔らかい水面を叩いたような違和感だけが残った。

衝撃で風が舞い上がり、男はただ俺を見つめる。

その不気味さのあまり、俺は即座に距離を取った。


「お前がヴァンパイアでいいんだな」


「うん。まあ、そう呼ばれてるね」


あっさりと認める。

ニコが身構えるが、男は視線を向けもしない。

見ているのは、俺だけだ。


「今日は挨拶だけ」


館の結界が霧のように消える。

その瞬間、館の奥から、男と同質の魔力が二つ、わずかに揺れた。

——見られている。


「また来るよ。今度はもっと面白い話をしよう」


何処からか2羽のカラスが舞い上がり、男は黒い霧に包まれ、そこから1羽のカラスが飛び去って行った。


「……なんで戦わなかった」


ニコは言い、手に持っていた何かをしまった。


「それは?」


「話をはぐらかすなよ」


ニコは俺に詰め寄る。


「アイツは俺を試してた。だから攻撃しなかった。それに、意志疎通ができるなら話し合える」


「だといいけどな」


「どうしてそんなに怒ってる?」


「当たり前だろ。あのヴァンパイアを仕留め損ねたら、死人がでるかもしれない」


確かにそうかもしれない。

言い訳を言えば、あのヴァンパイアと俺は、何か通じてる気がする。


「殺す気はなかった。——まだな」


「…とりあえず、村に戻るぞ」


「ああ」


館を離れ、入ってきた森に入り、村の道へと戻る。

ふと振り返ると、そこにはもう館はなく、更地になっていた。


嫌な気配がする。


「ニコ、少し急ぐぞ」


「おう!」


森を駆け巡り、風車の村へと戻った。

家には灯りが付いていて、外出している人までもいる。


……心配して損したな。

そう思った瞬間だった。


花を揺らしていた夜風が止み、さっきまで回っていた風車の羽が、ぴたりと静止している。

軋む音もない。

夜なのに、虫の声も聞こえない。


「……カイ」


ニコの声が低い。


「村長のところまで走るぞ」


ニコも妙な気配を感じたのか、冷や汗を流しながら俺の後ろを着いていく。


村長の家の近くに立つ井戸の側。

そこには4人の人影があった。

月明かりの下で、姿形がハッキリと見える。

長いローブを纏った老人、血のような赤い瞳の女、青い瞳の男。


そして――エルフの村長。


「……随分と遅かったな」


村長が言う。

その声にはいつもの棘がない。

感情が、薄い。


男が一歩前に出て、以前よりも穏やかな笑みを見せる。


「言っただろ。今日は挨拶だけって」


ニコが俺の横で拳を握る。


「なんで村長さんと一緒にいるんだ」


女のヴァンパイアがくすりと笑い言った。


「一緒、ではないわ」


ヴァンパイアの長老が静かに口を開く。


「均衡だ」


その言葉で理解する。

襲っていない理由。

館が罠だった理由。

村が無事な理由。


「取引か」


俺が言うと、男は嬉しそうに目を細めた。


「正解」


「僕たちはこの山から出ない。村には手を出さない」


「代わりに――」


村長が言葉を継ぐ。


「魔法帝の居場所を教えろ…だそうだ」


空気が重くなり、ニコが声を荒げた。


「ふざけんなよ!そいつらヴァンパイアだぞ!?」


男は首を傾げる。


「だから?」


「だから……!」


言葉に詰まるニコを無視して、男は俺を見つめた。


「君はどう思う?」


「なんで魔法帝を探してると思う?」


試されている。

さっきと同じだ。


コイツらは魔法帝を探してる。

何故?利益か、それとも……

まさか――


「魔法帝を殺したいのか?」


少しの間を空けて、男は答えた。


「正解。理由は至って単純」


「惨殺した我々種族の"報復"さ」


もしそれが本当なら、魔法帝は正義じゃない。

だが、それを認めた瞬間、俺は何を守る?


「そういえば、君達も魔法帝を探してるんだよね?」


「一緒にどうだい?」


ニコが前に出て怒りを露にし、声を出そうとした瞬間、俺はニコを遮りながら言った。


「時間をくれ」


「カイ!?」


「俺が一人で突っ込むより、コイツらと協力した方が何倍も良い」


「だがニコ、これだけは分かってくれ」


「俺はコイツらの味方にはならない」


ニコをそう落ち着かせようとする。

だが、それが仇となり、ニコの感情は爆発した。


「ヴァンパイアに家族殺されてんだよ俺は!」


長老はドンと大きな杖で地面を叩き、注意を向かせた。


「人間よ、選択を誤るな。次は均衡では済まぬ」


「「時間は残されておらぬ。"ルシアン"、人間なんぞに力を借りず、我々だけで行くぞ」


「相変わらず堅ッ苦しいなー、ジィさんは」


ルシアンの呼ばれる男は、長老の耳元で囁く。


「もう少し考えろよ。老い耄れと女を連れて歩く僕の気持ちを」


「………」


ルシアンは俺に向かって微笑み、優しく提案した。


「僕の方の長老さんは理解してくれたみたいだし、3日は待ってあげよう」


「その間に決めて?君には期待してるよ」


そうして3人は夜の暗闇に消えて行き、村長は呼吸を整え、俺に目線を合わせる。


「……村を守るためだ。感情は後にする」


ヤツらが消えた暗闇をしばらく見て、村長は家へと戻って行った。


「ニコ、話は家でだ」


「そうしてくれ」


3日。

それは、猶予か。

それとも、破滅までの秒読みか。

風の止まった村で、俺は初めて選択を迫られていることを理解した。

均衡は、いつだって脆い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ