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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第四章贄の儀式
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第56話風車の村と悪魔の噂

朝の空気は、思ったよりも冷たかった。


焚き火はすでに消えていて、残った灰が風に舞っている。


ニコは馬の手綱を整えながら、何でもないことのように鼻歌を歌っていた。


……こいつ、本当に昨日の出来事を気にしてないのか。


焼き魚を腹に収めたおかげで、身体はだいぶ軽い。

魔力も回復して落ち着いているし、傷も塞がって歩くくらいなら問題なさそうだ。


「助けてくれてありがとう。礼は返した方がいいか?」


「いんや、俺が勝手に助けただけだし」


ニコは馬に乗り、俺に手を差し伸べる。


「本当にいいのか?ただの自己満だぞ」


「いいのいいの、俺もそこ、行ってみたいしさ。そもそも適当に旅して帰ろうと思ってただけだから」


ワンちゃんかなんかか?コイツ。


「警戒心がないな」


「そりゃ、俺が寝てても何もしてこなかったからな」


俺はニコの手を見る。

アルダみたいに、豆は出来てないから、剣士じゃないんだな。

もしかして、魔術師か?


「その馬、俺を乗せても平気だと思うか?」


「んー、どうだろ。カイ運ぶ時、馬が引き摺りながら運んだしな」


「ま、俺の馬、魔道具着けてるし平気だろ!」


ニコがそう言い、遠慮なく馬の背に乗る。

骨が鉄だからか、どうやら俺は荷物判定らしい。緑の魔法のモヤモヤが俺の体重を軽減している。


「荷物判定じゃん!」


ゲラゲラと男のように笑い、徐々に女ではなく男のように見えてくる。


「なんでそんなに重ェの?なんか食った?」


「俺の体は鉄だからな」


「うそくせー」


ヒヒヒと言いそうな言い方に思わずイラッと来る。

いつぶりだ?こんなムカつくのは。


……いや、違う。

ムカつく、はずなんだが。

それより先に、肩の力が抜けていることに気付いた。


馬の背で揺られている間、景色は流れていった。

歩いていた頃の苦労が嘘みたいだ。

日が傾く頃には、風車の村が視界に入っていた。


「スッゲー綺麗だな!」


辺り一面には、前にも見たように花畑が敷き詰められている。

前よりも増えたかと、錯覚するくらい多い。


「踏まないように気を付けなくちゃな……カイ、流石に踏まないよな?」


「ああ。これからは俺が進む、本当に着いてくるのか?」


「もっちろん!面白そうだろ?」


俺は馬から降り、先頭を歩く。

ニコは手綱を掴みながら降り、馬を連れて俺の後ろに着いて行った。


「なあ、カイはここに来んのは初めて?」


「いや、用があって一回だけ来た。そん時にエルフの村長に出直せって言われてな」


魔法帝を探してた事は流石に言えない。


「え?エルフいるのか?うわ!俺、初めて見るかも――」


今までザイトライヒについて調べてきたが、どうもこうも……

アイツの弱点が見えない。


美帝はヤツを"最強"と呼んだ。

才能と努力、その両方で登り切った男だ。


何かしら弱点があればいいんだがな…さっさと見つけねぇと……


「おい、聞いてんのかよ」


「ちょっと待ってろ」


日が暮れ、家に光が出始める。

庭で草の手入れをしていたエルフの男に話しかけた。


「……カイ?」


その時、ニコの声が、少しだけ硬くなった。


「来たぞ」


「あ?貴様か」


村長は立ち上がり、膝の土汚れを払う。


「お前が私の信頼を勝ち取る…か、まあ頑張ってみろ」


「家は?空き家があるとかなんとかって言ってただろ」


「あそこだ」


村長は指を差す。

壁に張り付いていた草は綺麗に取り除かれ、コイツの性格上、内装も掃除されているだろう。


「住むならさっさと行け、その後ろの女を連れてな」


俺は後ろを振り向き、馬を連れているニコに言う。


「先に行っといてくれ」


「う、うん」


ニコはちょっと気まずそうに俺とエルフを見つめ、馬を連れて空き家へ向かう。


「なあ村長」


ここで一つ、俺は疑問が浮んだ。


「なんだ。私はお前に構ってる暇なんかない」


家の中に入ろうとした村長は、嫌な顔をして体ごと振り向いた。


「お前、わざわざ俺のために掃除したり、作業止めて話してくれるだろ」


「急に気持ち悪りぃな、とっとと消えろ」


そうして村長は玄関に手を掛ける。


「……ほんとは止めて欲しいんじゃないのか?魔法帝のこと――師である自分にしか背負えない責任に、押し潰されてんだろ」


「さあな。長生きの私には、責任なんか分からん」


まるで誰かの帰りを待っているかのようなその家に村長は入り、玄関を閉めようと振り向いた。


「夜は気を付けろ」


「……"悪魔"が出るぞ」


「フーン……」


ニコは一瞬だけ口を閉じ、それから何事もなかったように家へ入った。


扉は閉まり、静まったと思った瞬間、幸せそうな家庭の音が、夜空に響く。


無関係ってのは無理そうだな。


空き家へ向かい、馬は玄関側に置かれていて、疲れたのかすっかり寝ている。


ガチャ


玄関先の廊下は質素な感じだった。

家中魔道具の灯りが付いている。

というか、清潔感がありすぎて逆に気持ち悪い。


ふと、瞼が急に重くなる。


とりあえず寝るか……ここしばらくの間、まともに眠れてない。


トボトボと家を徘徊して寝室を見つけると、汚れた服を全て脱いでベッドへダイブした。


なんだか……懐かしい。

ああ、"アレ"だ、思い出した。


シルクで出来たシーツを握り締め、その感触の懐かしさに浸っていると、気付けば朝になっていた。

カーテンから溢れた朝日が差し込み、この木造の家の天井を見る。


昔のことを考えてる暇なんかない。

今は魔法帝の場所を聞くため、あのエルフの信頼を勝ち取らないと。


汚れた服を吸収し、また新しい服を生成する。


「お、起きたか?」


ニコが寝室の扉から顔を少し覗かせて俺を見る。


そういえば、元々俺一人で来る予定だったから、ベッドは一つしか用意されてないのか。


「すまない、一人旅の癖だ。シーツは洗っとくよ」


「俺がやっとくから別にいいって、カイは……ほら、エルフの人と話さなくちゃだろ?」


「ああ、悪いな」


「いいって」


少量の朝食を食べてから、再び村長の家へと訪れた。

玄関をノックすると、村長は思っていたより早く出てきた。


「何の用だ」


寝ていないのか、顔は物凄くキレている。

下手に何か言えば、ここから追い出されそうな雰囲気だ。


「信頼を勝ち取るために来た」


「だったら、この山を降りた先にある町から、食糧を取ってこい」


バタンッ!


玄関扉を強く閉め、仕方なく俺は歩きで町に食糧を取りに行った。

馬の扱いなんて知らないから、かなり時間が掛かった。

それから毎日毎日、何件のもおつかいをこなし、遂に村長は言い出した。


「今日は町とか港じゃなく、この山を二つ越えた先にある古びた館に行って欲しい」


「何しに行けばいいんだ」


「"ヴァンパイア狩りだ"」


ヴァンパイア?いるとは思っていたが、まさか本当にいるんだな。


「最近ここらを彷徨いてると言う噂を聞いてる。今のところ、なにもされてないが、今のうち対策した方がいいだろう」


「狩りってことは、殺すってことでいいか?」


「もちろんだ」


「なら明日の夜ぐらいに出発する。これを遂行したら、魔法帝の居場所、教えてくれるか?」


村長は少しの間黙り、続けた。


「さあな」


「なんだ。それにしてもえらい協力的だな」


その返事に村長は何も返さず、家の中に入っていった。


今日は明日に備えてゆっくりするか。


自分の家の中に入り、上の服を脱いでベッドに寝転がる。

ここの地域は涼しく、寒くも暑くもない。

外を見れば勉学を終えた学生が遊んだり、恋を育んだりしている。


この景色をヴァンパイアに壊されるかもしれない。


寝室の扉を勢いよく開け、ドンと部屋に響く。


「なあ、カイ」


「お前の寝室は向こう側だろ」


「ちげぇって、ヴァンパイアを倒しに行くんだろ?」


「ヴァンパイアなら、俺が役に立つぜ」


珍しくニコは物静かに言う。


「……明日の夜だ」


「よっしゃ!準備しとくな!」


「死んでもしらねぇぞ」


「はは、死ななきゃいいだけだろ?」


軽くそう言い、ルンルンで部屋の外へと出た。


弱かったらお荷物が減ったところでどうでもいいし、死んだら死んだで馬も貰えるから止める理由はねえか。


ニコがギャーギャー騒いでる間に、俺は眠りにつき明日に備えた。


その夜、風車の影がいつもより長く伸びていた。

回っているはずなのに、音だけが遅れて聞こえる。

——誰かが数を数えているみたいに。

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