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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第四章贄の儀式
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第55話断罪の果て

水の大蛇に呑まれ、着いた先は山奥だった。


拳を構える俺に対して、ザビエクは手を振り下ろす。

その瞬間、体に付着した水が重く、張り付いたように落ちなくなる。

呼吸も浅くなり、力が上手く出せない。


重い!

いや、動かせない!?


俺は構えを取ったまま、接近するザビエクに猛打を繰り出された。

鳩尾や顎、横腹。骨で守られてない箇所や衝撃が伝わる部分を正確に潰す。


「グフッ……」


ザビエクは宙を跳ね、足を振り俺の顔面を蹴る。

頭に血が昇り、脳が爆発するような痛みが襲った。


蹴りで吹き飛ばされた俺は、大木にぶつかり、木片が飛び散り、大木には砕けたような割れ目が入る。


前から思ってたが、コイツやっぱ!修羅場越えてきただけあって、スキル以前に――


反撃に出ようとすると、ザビエクは軽く受け流し、俺の腕を掴んで横腹に一撃を加えた。


コイツ自体が強い!


「スキルを発動する際に、どうして詠唱をするヤツが少ないか知ってるか?」


「ザイトライヒ…アイツがここ数年で魔法書を破壊し回ったからだ。余程、自分より強いヤツが現れるのが怖いんだろうな」


俺は腹を抑え、うずくまる。

即座に立ち上がり、反撃に出るがザビエクはただ攻撃を躱すだけ。


「今じゃ、知識のないヤツはただスキルを発動させるだけ。工夫も、技術もクソもない」


「カイもそうだろう?奪った影での瞬間移動はまして、風スキルも詠唱したこともない」


「お前はザイトライヒの術中なんだよ」


ザビエクは腕に纏う水を地面に投げ、水は地面を伝って俺の体を拘束した。


「貪食がなぜ強いか――見せてやろう」


ザビエクはどす黒い布を被った数十にも及ぶ、死臭のする女性の霊を全身から放ち、空高く飛ばす。

上空を遥か遠くまで飛んでいった霊は、見えない程高く上昇していった。


「スキル、断罪落下(だんざいらっか)


おぞましい雰囲気に、動物の鳴き声や風で揺れる木の音は、不気味な程一気に止み、森は静かになった。


「究極クラスだったかな?このスキルはかつて戦争で最も使われていた」


「発動までに数十秒かかる。今じゃハズレのスキルと言われる枠さ」


今すぐ拘束を解かねぇと!


必死に縛られた体を引っ張るが、一向に剥がれる気配はない。


そんな中、ザビエクは淡々と続ける。


「貪食が恐れられ、処刑される理由はただ一つ。複数人でやっと使える火力を1人で出せるからさ」


「だから早く使えよ、カイ。スキルを奪ったんだろう?そのスキルで、私を殺してみろ」


「ガアァァァ……!!」


声を上げながら立ち上がろうとする。

まだ落ちていない霊の圧で、チカチカと視界がフラッシュしている。


「悪魔は罪悪感を感じる必要なんか、ないんだよ」


ザビエクが冷たく言い、最後に見えたその"眼"は、完全に俺を見捨てたようだった。


ズドンッ!!!!!!


上空から降り注ぐ霊の圧力が、俺の体を切り裂き、潰し、蝕む。

5秒間の攻撃は、まるで数時間に思えてくる苦痛に相応しい。


目を開けると地面には血溜まりが出来ていた。

全身が血みどろになり、ヒューヒューと聞こえるか細い呼吸音は、自分のだと思えなかった。


「どうするんだい?」


俺の魔力の量じゃ、精々傷は全部癒せても、酷い病み上がり状態に等しい……


つまり、治癒スキルで治したとしても、勝てる見込みはない。


俺はゆっくりとその場から立ち上がり、笑みを浮かべた。


「ザビエク……答えは"いいえ"だ!」


9割近くの魔力を消費し、治癒スキルを使った俺は完全に立ち上がった。


「残念だよ」


ザビエクが水スキルを放った瞬間、俺は手の平から鉄を生み出し、大きく広い鉄の盾へと変形させた。


「その防御も時間の問題さ」


強力な奔流のように放つ水を防ぎながら、俺は風の詠唱を唱える。


「風よ、我が意思に従え。流れを束ね、刃となり、我が前を阻むものを穿て!」



――だが、不発に終わった。



「罪悪感が仇になったな!カイ!」


鉄の盾は崩れ始め、魔力がなくなり意識が薄れていく。


俺は自分の道を選んだ。

後悔なんてない。


俺は水に呑まれた。


津波のような水は俺を巻き込みながら、高い崖へと俺を吹き飛ばす。

ただ無力に落ちていく俺を、ザビエクは見ていた。


「また会おう」


「"カイ"」


ザビエクは崖から背を向け、立ち去っていった。



----



火、火花、暖かい、焼き魚の匂い。

溜め息、目線。

俺は……寝転がっている?


全身に野太い針を刺されたみたいな激痛に耐えながら、俺はゆっくりと目を開いた。


「起きた?動くなよ、死にかけだし」


「ん?礼はいらない。魚焦げるから黙って寝てろ」


短く肩までもない茶色の髪。

軽装で、武器を持っている様子はなく、女は寝ている馬に背もたれていた。


この安定した治療――

この女、手慣れてるな。


「なんで助けた…」


「理由いる?目の前で死なれちゃ、気分悪いだろ」


「……化け物だぞ。俺は」


「化け物なんか散々見てきたっての」


女性は焼いていた魚を、大きな一口で齧る。

女性というより、仕草はまるで少年みたいだ。


「お前、名前は?」


俺は無言を貫き通し、女性は心配したのか、近づいて俺の顔を覗き込んで来た。


「俺はニコ。名前、覚えてる?」


「言いたくないだけだ…」


「なんだよそれー、もしかして指名手配?」


体がビクッと動きかけるが、その事はもう済んだ話だ。

助けてくれた人だ。名前くらい言ってもいいか。


「カイだ…」


「うん!よろしくな」


ニコは手を出して握手を求める。


「動けねぇの知ってんだろ…」


「あ、ごめんごめん」


ニコは座り、寝てる馬に背もたれる。


「なあ、カイ。どうしてそんな怪我したんだ?」


「崖から落ちた…」


「いやいや、思いっきり魔力の攻撃あるし」


「魔物にやられた…」


「ここら辺はもう魔物いないから……」


コイツ、馬鹿そうなのに、こうも騙せないとは。


「言いたくないならいいや」


俺は無言のまま何も返さず、30分後ぐらいだろうか、気まずいのか、ニコが話しかけてきた。


「……こういうの慣れてないだけだ。変な意味じゃないからな」


「急にどうしたんだ」


「俺、男の人と話した事ないから。俺の村じゃ、同い年みんな女の子だったし」


「……その村は、まだあるのか?」


「え?うん」


その言葉を聞いて何故か安心した。


「家族、元気にしてるといいな」


「そうだなー、最近会ってないしなー」


ニコは俺が話してくるのが相当嬉しいのか、笑みを隠しきれていない。

なんだろう。

やんちゃな男子小学生を相手にしてるみたいだ。


「んじゃ、俺は寝るから」


「おう!」


目を瞑り、焚き火の音だけを聞いて眠りについた。

かなり寝ていたのもあるが、すぐに目を覚ましてしまい、目を擦りながら立ち上がると、ニコは馬に背もたれながら寝ていた。


「あんな高さから落ちたのかよ」


崖は首を真上に上げないと見えないほど高い。


体力も傷も、昨夜でほぼ治ったのか。

落ちた時の尻の青アザだけ気になるな……


そんなことを思いながら、ポケットに入ってあるクッシャクシャの地図を開く。


コイツが起きたら礼言って、さっさとあの風車の村に行かねぇと。


あの時の水で濡れて、それに加えて激しい動きをしたから、地図は開いた瞬間一瞬でビリビリとなりオマケに色が落ちている。


困ったもんだ。


方位磁石は、魔物の影響でよく壊れるし、記憶頼りで行ってもいいが、あの風車の村は一度しか行ってないから道を覚えてない。


「………」


腹の音が鳴る。


なにより腹が空いた……

金は…落ちた時に失くした。

だから地図も買えない。


今は彼女と共に進むしかないのか…?


日が昇り、鳥が鳴き始めた。

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