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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第四章贄の儀式
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第54話選ぶ者、選ばない者

ザビエク――俺の兄は、俺達を見捨てた。


なぜ兄は真実を言わなかった?

弟である俺を信頼していなかったのか?

それとも、最初から信頼もしていなかったのか……


これは美帝のスキルじゃない。


"確実に俺の記憶だ"


俺の背中をさする美帝は、読めない笑みを浮かべた。

彼女は黙って、俺の背中を撫で続けていた。

まるで、逃げ場を塞ぐように。

様々な強敵を倒し、自分をここまで惚れ込ませた男を、自分の物にできる。


「カイ、私と手を組みましょ」


「この世の汚れを全て消しましょう。私と、あなたで」


俺は答えなかった。

美帝の言葉は、甘く、正しく、そして危険だった。


この世界の汚れを消す――それは、俺がずっと考えてきたことでもある。


――だが。


「……それは、俺のやり方じゃない」


美帝の手が、一瞬だけ止まる。


「へぇ?」


「世界を綺麗にしたいなら、誰かの正義に従う必要はない」


俺はゆっくりと顔を上げ、美帝を見た。

涙はもう出ない。

残っているのは、冷え切った感情だけだった。


「お前は“選別”するつもりだ。気に入らない"モノ"を消して、都合のいい世界を作る」


「それの何が悪いの?」


美帝は微笑んだまま言う。


「強い者が世界を決める。それだけの話でしょ?」


……やはりだ。

こいつは悪人じゃない。

だが、善人でもない。


「俺は」


拳を、強く握りしめる。


「兄に、選ばれなかった」


その言葉に、美帝の表情がわずかに揺れた。


「だからこそ、俺は選ばない」


「誰かを切り捨てて作る世界なんて、兄と同じだ」


一瞬、部屋の空気が凍る。

美帝はしばらく黙り込み、やがて小さく息を吐いた。


「……本当に、厄介な男ね」


彼女は立ち上がり、背を向ける。


「いいわ。今はそれで」


「でも覚えておいて。あなたはもう、後戻りできない」


振り返ったその瞳は、さっきまでの甘さを完全に失っていた。


「記憶を取り戻した以上、次は――」


彼女は指輪に触れ、低く囁く。


「魔法帝よ」


その名を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。


「会えば分かるわ。あなたと、あの人は……とても、よく似ている」


美帝は扉を開け、去り際に言った。


「選ぶ側の人間だってことがね」


兄の背中。

母の声。

そして、見殺しにされた記憶。

――全部、喰われていた。


「……次は、魔法帝か」


立ち上がり、拳を開く。

貪食の力は、まだ俺の中にある。

だが、次に喰うのは、力じゃない。

真実だ。


彼女が扉を閉める前に、俺は一つだけ聞く。


「マリエル。彼女には何もしていないんだな」


「ええ……ついでに言うと、私のスキルはただ記憶を見せるだけ」


「あの子の記憶は、母との記憶しかない。あの子はきっと、外を知りたいだけなのかしらね」


そうして美帝は扉を閉める。

客間に一人取り残され、呪詛師が頼んだ依頼を済ませた後、王国の外に出て、俺は渡された魔法の石を使い、呪詛師が乗っている魔法馬車に乗り込んだ。


「娘は……何か言ってた?」


乗った瞬間これだ。

……溺愛も度が過ぎる。

俺は事実だけを告げた。


「しばらく会いたくないだとよ」


「そんな……!」


「次、母親から顔を見せたら斬るとかなんとかって」


こんなことは言ってないが…まあ、この女には丁度いい刺激だろう。


馬車に乗っている間は啜り声だけが響き、ここ十数年で一番嫌な5分だった。


再び館の庭へ、静かに着地する。


「美帝から少しは情報も取れたし、多少は良い気分転換になったよ」


「君はすぐに立ち去るのか…?」


「ああ、魔法帝よりも先に、聞かなくちゃいけねぇことが出来た」


「そうか……」


馬車から降り、館の門を抜けて暗い道を進むと、いつの間にかあの山へと戻っていた。

今、向かうべき場所は"潮騎国家リュサリア"。


俺は兄に会いに行かなければならない。



----



山を越え、草原を歩き、涼しい風が流れ、潮風の匂いがする。


ここに来るのは3、4年ぶりか?


懐かしい王国を目の前に、そういえばと思い右を振り向いた。

そこには、何か爆発が起きたのか、一部だけ草は生えておらず、ボロい木材の欠片が虫に喰われていた。


そして、特徴的な身を隠せれる程の岩には取れそうにない血がこびりついていた。


喪失感に襲われ、視界の端に銀の髪が写った気がした。


「リリス――」


「……何してんだ。俺」


さっさと王国へと入り、街中はここ数年で変わったのか、店や建物の外装が綺麗になっていた。


観光してきたみたいに辺りをチラチラ見ていると、寄り道がてら街の中でも上層の区域に入った。


久しぶりに行ってみるか。


向かった先には、何変哲もない宝石店。

サファイアの首飾り。


――ああ、そういえば、アイツはこれが好きだったな。


それからその区域を出て、海岸付近にある住宅へと向かう。


波が押し寄せる砂浜。

そんなに年月は経っていないのにも関わらず、何故か、数十年ぶりに来たみたいな感動を覚える。


見つけた。


住んでいた家は取り壊され、今は跡形もない。

その、少し前まであった建物の横に、もう一つ家があった。


コンコンッ


玄関の扉をノックする。


「はーい」


昔より声変わりした声が、玄関の向こうから聞こえる。

玄関が開き、男が正体を現した。


「カイ!指名手配が消えたから、探しに行こうと……」


ザビエクは俺の表情を見ると、何かを感じ取った。


「思い出したか」


ザビエクは一瞬だけ目を伏せ、それから俺を見た。

俺が言葉にしていないのに、兄は何故か分かる。


「父さんや母さん……いや、俺のことを聞きに来たんだな」


「そうだ」


兄の顔を見た時、殺してやると思った。

その気持ちに、一切の迷いなんかなかった。


「どうやら殺す気がなくなったみたいだな。兄という存在を目にして怖じ気付いたのか」


「……ああ」


「それで、私……俺に何を聞きに来た?」


ザビエクだったら、俺は容赦なく殴ってるだろう。

でも、今は"兄"だ。


唇が震え、俺はあの時、兄が何を思って見捨てたのか――

自分が納得できる可能性を信じて、問う。


「兄貴、なんであの時、両親を見捨てたんだ」


「愛されていただろう?」


「愛されていた……ね」


「俺が貪食として、最初に奪ったのは探偵スキルだ。カイ、俺は愛されていたと言っただろ?」


「あの2人は息子を貪食じゃなく、探偵だと本気で勘違いしていたんだぞ?そんな2人が俺を愛していただって?」


「そ、それは、兄貴が隠そうとしてたら……」


「あの2人は足枷だ」


視線が乱れ、そう言い切るまで、ほんの一瞬だけ間があった。


「兄弟揃って禁忌スキルである貪食なんて、おかしいだろ?これは、運命(さだめ)なんだ」


ザビエクは玄関から一歩、外へ踏み出し、俺の頬を両手で覆う。

そして意志疎通をするかのように、額を当てた。


「お前はリリスを捨てた。そのおかげで、力帝をも倒した」


「俺達は2人でやるんだ。2人で生きていくしかないんだ」


「"2人で1つ"なんだよ」


「さあ、次は何を捨てて強くなる?」


「い、いない。俺にはもう、仲間なんて……」


「いるだろ?」


「"アルダ"や"ハン"」


「かつて毒帝の命を奪った仲間だろ」


ザビエクは俺の命を吸い取るように言った。


「足枷を外せ」


「殺すんだ」


「できない」


「なぜ?」


俺が再び大切な人を失えば、きっと壊れてしまう。


「カイ」


「お前、貪食で奪ったスキルを使ってないな?さては、今更罪悪感なんか感じてるのか?」


「リリスを殺した時から、無意識に使ってないだろ」


「風や影の瞬間移動、鉄での武器生成」


「罪悪感なんか忘れろ」


「さあ、殺すんだ」


「できないっつってんだろ!」


「殺すんだ!」


俺はザビエクから離れ、拳を振るってザビエクを壁に叩きつけた。


「俺はもう誰も失いたくない!だから、ザイトライヒを殺すんだ!」


「失いたくないのなら、弱き者を捨てろ!」


突如現れた水が、俺を飲み込み、砂浜の地面に強く叩きつけた。


水葬選別(すいそうせんべつ)


ザビエクは両腕に纏う水を見つめる。


「固有名がついている水スキルは珍しいからな。最終奥義として使っているんだ」


体が妙に重い…この水のせいか?


「カイ、お前は俺を理解できないのか」


その質問に、俺は即答した。


「できないね。もう"選ばれる側"じゃねえしな」


「なら、理解しろ!」


パンッ!!


ザビエクは腕を突き出し、両手を閉じて蛇のような形をした水を放った。

頬まで裂けている口で俺を覆い、窒息と視界が塞がれることによって、何も出来ない。


身動きが取れずにいると、背中に大きな衝撃が伝わり、水は解除された。


「ごぼっ!ごぼっ!!」


気管に入った水を吐き出し、咄嗟に構える。

外はどうやら砂浜から離れた山奥だった。

そして、目の前には当然兄がいる。


「やろうか」


その声は、兄ではなく、ザビエクの声だった。

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