悪逆令嬢はチートスキル『鑑定眼』で無双する
俺の前世での死因は自殺だった。
なんてことはない。ただ、生きる意味を見出せなくて自分で選んだ最後だった。
昔から性格が悪く、そのため親や兄弟からは疎まれ誰とも馴染めずずっと一人で過ごしてきた。
だからなのか、俺が殺人犯として捕まったとき、誰も俺の無実を信じはしなかった。
二年後、真犯人が捕まり冤罪が認められるまでの間、塀の中で過ごした。
冤罪だったのにもかかわらず、釈放された俺は殺人犯呼ばわりされた。
どこへ行っても除け者で、誰にも必要とされなかった。
生きてもツラいだけのこの人生で、生きる意味もない俺は自ら手放すことにした。
しかし、気づいたら知らない世界に生まれ変わっていた。
最初は夢かとも思ったが、現実だと受け入れるまでそう時間はかからなかった。
だから、俺はもう一度、楽になろうとした。
「ちょっと~何やってんの!」
けど、俺より六年先にこの世界に生まれた姉にそれは止められてしまった。
それから何度も試そうとしたが、そのたびに姉に止められる。
仕方がないから、俺は姉に全てを説明した。
前世のことを含めて。
「え、前世? あ~お姉ちゃんはちょっとそういう難しい話分かんないかなぁ~って」
当たり前の反応だった。
異世界とは言え、この世界でも転生と言うのは馴染みのないものらしい。
だから、俺の話を信じてくれるわけないと、そう思っていた。
「前世はよくわかんないけど、生きる意味なら教えられるよ」
たかだか十年ちょっとしか生きていない少女が何を教えられるというのだろう。
期待はなかった。
「いいことをすればいいんだよ」
単純な答えだった。
「いいことをするとね、みんなから必要とされるんだよ? そしたら、生きててもいいんだって思えるでしょ?」
無理だ。俺はいい人になんてなれはしない。
絶望的にそう言うことに向いてはいないんだ。
「向いてるとか向いてないとかは関係ないよ。大事なのは気持ちだから。ジークが誰かのためになりたいと頑張れば、誰かがきっとそれを認めてくれるから。それでももし、この世の誰もジークを認めてくれなかったとしても——」
姉ちゃんは俺の両手を優しく包み込み、俺の目をしっかりと見つめる。
「私がちゃんとジークのことを見ててあげるから」
俺はそれから姉の言葉を信じて、いい人になろうと思った。
「で、どうやってあれを倒す? こっちの攻撃が聞きそうには見えないが?」
俺の硬化はどちらかというと守り向けの性能をしている。
リオナのスキルには攻撃性能はないし、武器もないからまともな魔法も使えない。
俺たちには圧倒的に火力が不足している。
「それは問題ないわ。それよりも少しだけ時間を稼がせてもらいましょう。——ステータスオープン」
リオナがそう口にすると彼女の目の前にゲームのウィンドウ画面のようなものが表示される。
「うおっ! なんだそれ」
「私のスキルよ。そうね、イクリプスを中心に半径三百メートルでいいかしら」
「な、なにを言って……」
リオナがぶつぶつを何かを呟きながら、空中に現れたウィンドウ画面を操作する。
「重力ステータスを三十倍に編纂」
すると、上空を飛んでいたイクリプスが急に地面へ叩き落とされた。
そしてそのまま地面に押し付けられたまま動けずにいた。
「な、なにをしてんだ!?」
「イクリプス周辺の重力ステータスを変更したわ」
「ステータスの変更? 鑑定眼ってそんな事も出来んのか?」
その名の通りゲームのチーターのような能力だ。
「視界に映るあらゆるもののステータスを自在に書き換える。これが私のスキル“|天理を編纂する暁の透鏡”よ」
「なにそのカッコいい名前。鑑定眼じゃなかったのかよ」
「いいえ、それは本来の名前じゃないわ。スキルを極めその名を知ることが出来れば、スキルはそのさらに上の段階へ押しあがることができるわ。私たちはそれを神名解放と呼んでいる」
「じゃ、じゃあ、俺のスキルも?」
「いずれはね。でも、今は私がサポートしてあげる。一時的にクソ雑魚ナメクジを卒業させるわ」
「っ! こ、これは!」
急に体が軽くなった。力も湯水のように湧き出てくる。
今ならなんだってできそうな高揚感がある。
「あなたの身体ステータスを書き換えたわ。これでS級冒険者くらいの身体能力になったはず。それと魔法関連のステータスも上限解放しているわ。今なら全属性の神話級魔法を扱えるわ」
この世界での魔法の階級は六段階に分かれている。
下級、中級、上級、精霊級、幻想級、そして最上位の神話級。
今の俺は全ての魔法の最大値を際限なく扱える演算能力と魔力を手に入れた。
「おいおいおい、神名解放ってのはこんな無法なチートばっかなのかよ。これでなんで七大試練に苦しめられてんだ」
「無条件なわけないでしょ。七大試練のような格上のステータス操作は行えないし、半年以上のインターバルが必要で連発も出来ない。そして、三分しかもたないわ」
「いや、充分だ。今なら誰にも負ける気はしない」
「私は後衛でイクリプスの攻撃を処理するわ。あなたは前だけ見て、自分の攻撃を当てることだけに集中して」
「ああ、頼んだ」
俺は強化された筋力で飛び上がる。
「うおっと、思ったより飛ぶな」
空中で空気を足場にしながら、重力に押しつぶされているイクリプスのところへ突っ込んでいく。
俺が射程内に入る寸前で重力を元に戻す。
このまま重力で押しつぶせれば話は早かったんだが、これ以上の重力は大陸が持たないってことらしい。
大陸以上の強度を誇るとは、流石は七大試練と言ったところか。
「じゃ、神話級ってのを試させてもらうぞ」
大海のごとく水を生成し、人の形へとなしていく。
「“海神の激昂”!」
イクリプスより一回り大きい神の化身を模した海水。
その右手に持つ三叉槍をイクリプスの背に突き立てる。
「っ! かっった!!」
俺の放った神話級魔法はイクリプスの鱗にあっさりはじかれた。
そうだよな。神話級魔法を当てた程度でどうにかなるようなやつが七大試練何て呼ばれるわけがない。
イクリプスは口を開き先ほどと同じ蒼いブレスを放つ。
「くっ、避け……いや」
リオナの言葉を思い出し、俺はそのまま前へ突っ込む。
「ブレスのベクトルステータスを逆方向に編纂」
俺の方に飛んできていたブレスが反転し、イクリプスの方へ飛んでいく。
「グガアアアアアアアアアアアア!!!」
自分のブレスが直撃したイクリプスは悲鳴のような声を上げる。
「そっちのブレスは効くのかよ」
それはあのブレスが神話級魔法以上の威力を持っているということを示している。
とは言えかすり傷が付いた程度だ。
「チート使っても勝てないと思わせてくるなんて、この世界のバランスおかしいだろ。なろう系を読めなろう系を。こんなんドパガキが見たら発狂しちまうんじゃねぇか」
って文句を言ったところで状況は何一つ好転しない。
仕方がない。
下品なやり方だが、こっちは魔力無限状態なんだ。
それを最大限利用してやる。
「冥界神の赫炎」
「夜を憂う滅びの光」
「翠風神の霹靂」
「静謐なる薔薇の庭園」
炎、光、風、氷属性の神話級魔法を間髪入れず連続でイクリプスに撃ち込む。
魔力切れを無視した乱暴な戦い方だが、相手は戦い方を選べるやつではないからな。
「どうよ」
俺はいったんリオナの傍まで引く。
神話級魔法を連続で撃ったせいで、イクリプス周辺は人が立ち入れる状態にない。
氷雪地帯と溶岩地帯が入り交じり、そばに寄った瞬間、凍死あるいは焼死してしまうだろう。
「どうあれ、これ以上は神話級魔法を控えた方がいいわね。王都周辺の環境が変わってしまう」
「わーってる。けど、ここまでやっても倒せそうにないな」
イクリプスは飛び上がり翼をはためかせて、上空にとどまる。
「今の攻撃で傷一つつかないか。さすがに心が折れそうだ」
「勝手に心折れないで。それはスキル持ちにとって不要な感情だから」
「きびし」
さてどうするか。
すでに二分が経過し、このチートモードはあと一分しかもたない。
こっちの最大火力をどれだけぶつけても決定打どころか陽動にもなりはしない。
可能性があるとすれば、あいつのブレスを跳ね返すくらいなもんだが、警戒してもう撃ってこないだろう。
王都からの援軍が来るまで時間を稼ぐか?
いやそれではダメだ。
残り時間は一分もない。
その間に助っ人が来るのは期待薄だ。
それにそれじゃあ意味がない。
あいつは俺たちが倒さなくちゃいけない敵なんだ。
それでなくても、せめて一矢報いるくらいはしなくちゃ俺もリオナも生きる意味がなくなってしまう。
「っ! なんだ……体が急に重く……」
いや違う。これは……。
後ろを振り向くとリオナが苦しそうな表情で膝をついていた。




