やっぱり技名叫ぶとテンション上がる
「まだ二分しか経ってねぇぞ!」
「ごめん……ブランクのせいで……もう持たないかも……」
体から白い煙が上がり、段々とやせ細っていくのが見える。
スキルの効果が切れかかって、元の姿に戻ろうとしている。
「最後にあなたを、イクリプスの真上に飛ばすわ……。後はあなたのスキルで……」
「無茶言うな。硬化の能力であいつに致命傷を与えられるわけないだろ」
「時間がないから……これだけ……あなたはもうスキルの使い方を知っている……から」
「それだけでどうしろって……」
俺の問いには答えず、リオナは俺に指先を向ける。
「ジークの座標ステータスを……編纂」
パッと視界が切り替わり、俺はイクリプスの真上に瞬間移動させられた。
「あっっの、くらげ女!! ざっけんな!」
急な自由落下に頭の回転が遅れる。
視界には徐々にイクリプスの巨体が近づいてくる。
頭を回せ。回せ。回せ。
くらげの文句は後回し。
今はこの状況を打開する方法を落下中の数秒で導き出す。
俺は知っているって? 何を? スキル。そうスキルだ。
何も知らなかった。でも今日だけで理解が深まった。
心を原動力とした異能の力。そして、それにはさらに上の段階が存在する。
それか? 神名解放ってやつか。でもスキルの名前なんか知らないぞ。
だから多分これじゃない。
リオナの言いたかったことは……知っている? そうだ、それは今日知ったことじゃない。ずっと前から俺が知っているような言い方だった。
でも、俺がスキルについて聞いたことがあるのは姉ちゃんだけで……っ!
そうか! そうだ!
今まで姉ちゃんの教えは適当な感情論だと思っていたけど、そうじゃなかった。
だから、思い出すのは姉ちゃんに教えてもらったことだ。
思い出せ、思い出せ、思い出せ。
この状況を打開できる姉の教え。
『うわ、すっげ。なんであんなことできんの? 姉ちゃんのスキルと違くない?』
『信じる心だよ。自分のスキルを信じて、やればできるって信じて、そうしたら応えてくれるもんだよ』
『また感情論かよ。姉ちゃんの参考にならないよ』
『むっ。そういう言い方はないんじゃないかなぁ?』
ふくれっ面の姉の顔が思い浮かべられる。
いや、それはどうでもいい。
そっちじゃなくて。
『信じる心』
そうだ。今ならわかる。
心を原動力にしているスキルを使うなら、大事なのは気持ち。
そして、リオナから教えてもらったこと。
能力の先入観を捨てる。
今までの俺なら空気を硬化させるだなんて思いつかなかった。
常識は捨てろ。硬化の解釈を広げるんだ。
「うし」
やるべきことは決まった。
狙うは右翼。
まずは機動力を潰す。
「っち!」
俺の気配に気づいたイクリプスがこっちに飛んでくる。
右腕を引いているところを見るに、いっちょ前に殴ろうとでもしてんのか?
ならその右腕に狙いを変える。
俺は足元の空気を硬化させて蹴り飛ばし、落下速度を加速させる。
「貰うぞ。その右腕!」
心の中だけじゃなくて、声に出す。
たったそれだけのことでスキルの能力は上がる。
だったら声を大にして言ってやる。
俺も男の子だからな、これが一番テンションが上がる。
「“硬化―」
振り降ろす直前のイクリプスの右腕に触れ、スキルを発動させる。
「—座標”!」
直後、イクリプスの右腕から青い鮮血が飛び散る。
「グ、ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
やっとこさまともなダメージを入れられた。
「ざまぁみやがれ」
俺はむしり取ったイクリプスの右腕と共に地面へ落ちていく。
「スキルの拡大解釈——こういうことでいいんだろ」
イクリプスが腕を振る前に奴の右腕に硬化のスキルを使った。
体表を硬くする、のではなく右腕の位置座標だけを硬化させてその場にとどめた。
あとは奴の腕力が固定させた腕を自分で引きちぎった。
座標の硬化って日本語にしたら意味が分からないが、そう言うことが出来るスキルだと信じ込めばスキルは発動する。
姉ちゃんの言いたかったことはこのことなのだろう。
「っと……」
地面に降り立ち、イクリプスの腕を捨てる。
一体今日だけで何回空に飛ばされんだ。
「ま、スキルの使い方も分かってきたところだし、このままあいつを……っ!?」
なんだ、体が急激にだるい。
リオナのスキルが切れたのか?
そんなんじゃない。これはすごく……息苦しい。
「はぁ、はぁ、はぁ」
クソ、この感覚は久しぶりだ。
「こいつぁ……軽いうつ状態になってやがる……」
これはイクリプスの魔法か……?
あぁ……そうじゃない、スキルの使いすぎか。
心をエネルギーとするスキルを乱用すれば、精神的な負担がかかる。
体力や魔力を消費しないから便利だと思っていたが、思わぬデメリットがあったもんだ。
リオナは七大試練相手にはステータス変更の能力が使えないと言っていた。
そんな相手に無理やりスキルを使ったんだ。
このくらいで済んだのがマシってもんか。
「グルルルル——」
イクリプスが喉を鳴らしながら、俺を見下ろしている。
「んだよ。隻腕の龍なんてかっくいいじゃねぇか。そこらの男児にでも自慢して来いよ」
ダメだ。
イクリプス相手にどれだけあおったところで意味はない。
スキルはもう使えない上に体力も限界に近い。
「ここまで……だな」
俺を警戒しているのかイクリプスは近寄って来ず、口に溜めた炎を吐き出した。
「あぁ……嫌だぁな」
どれだけ後悔したところでもう遅い。
今の俺にできることはないのだから。
諦めるしかない。
「——ちゃんと見てたかよ」
ノッキングするような爆発音が近づいて来たと同時に、イクリプスのブレスが折れに届く前に爆散した。
「うん、見てたよ」
俺とイクリプスの間に立つ一つの人影。
煙草をくわえた金髪の修道女。
俺がこの世界で一番知っている人間。
「お姉ちゃん! 参・上!」
アホみたいな口上で現れたのはエクレシア・エヴァンス。
俺の姉だ。




