クエストのサムネ詐欺なんかしてんじゃねぇぞ!
「なんでお前みたいなのがこんなところにいるんだ!? 犯罪者じゃねぇか!!」
「酷い言いようね。私はもう足を洗ったの。だから、今はただの受付嬢よ」
「信じられるか! 本当はここはギルドなんかじゃないんだろ! 俺を騙して……はっ! さっきの契約書! あれにはなんて書いてあったんだ!!」
「あらら、随分と人の話を聞かない子ね」
「俺は騙されないぞ! お前みたいな犯罪者なんかに屈したりはしない!」
ギルドだと思って入った場所にいたのは結婚詐欺で世間を賑わせていた犯罪者だった。
ちょうどいい。
ここでこいつを捕まえて王国軍に突き出して、その功績でどっかのギルドに入れてもらおう。
「ここで会ったが百年目! 大人しくお縄につきやがれ!」
俺がユーリを捕えようと飛び掛かろうとした時、受付の後ろにあった扉が勢い良く開かれる。
「ぎゃーぎゃーうるせぇな。ここは託児所じゃねぇぞ」
現れたのは小さな小さな一人の少女だった。
白い短髪にインナーカラーの赤が映えており、右半分だけをハーフバックにしている。
目つきは鋭く不愛想な顔つきだが、間違いなく幼女であった。
「なっ! 誘拐まで……? 何という悪党。最低だ、人間のクズ! こんな幼気なロリに何をして――ごふっ!」
いつの間にか俺の懐に入り込んでいた幼女にキレのあるボディブローを決められてしまった。
「なん……で?」
140センチに満たない身長の少女が出していいパンチではない。
そこらのごろつきより腰の入った良い拳だった。
マジで数秒息が出来なくて死ぬかと思った。
「ごほっごほっ! ち、違う。俺は君の味方で、あのお姉さん……に見える変態野郎が悪い人なんだ。大丈夫、俺を信じて。必ず君を助けて見せるから」
「おい、マジかよこいつ。殴っても話ききゃあしねぇぞ」
安心させるために俺にできる最高峰のスマイルを繰り出したが、このロリは何故か呆れている。
「ま、いいや。いったんシメれば落ち着くだろ」
「へ?」
そこから先の記憶は僕にはなかった。
ただ、その幼女に対する恐怖心だけは嫌というほど体に刻み込まれてしまった。
「……ま゛、ま゛ごどにずみばぜんでじだ」
意識を取り戻した俺はパンパンに腫れた顔のまま誠心誠意謝り倒した。
「いいか? ユーリうちの大事な受付嬢だ。勝手に捕まえようとしてんじゃねぇぞ」
「はい……」
幼女もといスズカ・ラピスは『紫苑の猫』のギルドマスターらしい。
スズカに説教を食らった際にそう教えてもらった。
ぱっと見、子供にしか見えないが立派な大人らしい(年齢不詳)。
ユーリは元結婚詐欺師であることには間違いないが、本当に足を洗っており、すでに罪は償っていて、今は自由の身だという。
またしても俺の早とちりだったようだ。
「え、待って。もう詐欺師じゃないならなんでまだ女の格好してんの?」
「なんでって……もちろん趣味よ」
「あ、はい」
世の中色んな趣味の人がいる。
それに女装は割とメジャーな方だしツッコむのは野暮と言うものだろう。
「それであのぉ、ギルドを辞められないって言うのは本当なんですか?」
「あ? 契約書見たんじゃねぇのか? まさか、ろくに読まずにサインしたとか言わねぇよな」
「いや、あの、それは……文字がそのぉ」
「かぁ~マジかよ。読んだふりしてサインしたってのか? 文字がよめぇねぇならなんで、ユーリに言わなかった。まさか、どうせギルドが発行している契約書なんてどれも同じだろとか思ってたんじゃねぇだろうな」
「はい……そのぉ、全ておっしゃる通りでございます」
見た目ロリのくせに的確に俺の心を読んで来る。
「まぁ、でもサインしちまったもんはしゃーねぇよな」
「へ?」
「へ?じゃねぇよ。てめぇの怠慢が原因なんだから、こっちがてめぇに寄り添って契約解除するわけねぇだろ。黙って働け」
「んなっ! なんてブラックな……!」
「ブラックで結構。うちの連中はまともに働かねぇやつばかりで売り上げが立たねぇんだ。見ろよあの壁」
スズカが指さしたのはここに入る前に気になっていた穴だらけの壁。
綺麗に外が覗けてしまう。
「ギルドの建物修繕費すら払えねぇんだ。お前働いて稼いで来い。依頼の仲介手数料で9割差っぴぃとくから」
「きゅ、9割!? そんな法外な手数料あり得ないですって!?」
「なめんな。経営難のギルドなんだからそれくらい取ってかなきゃやってらんねぇんだよ。大体、仲介手数料なんてギルドごとで隙に決められて上限は法律で決まってないんだから、合法ってやつだよ合法」
「もういっそのこと潰れたほうが世のためじゃないかなぁ!?」
「ほう? ギルマス相手に良くそんなこと言えるな? お前人の心ないのか?」
「人の心がないのはそっちでしょうが! 守銭奴!」
「守銭奴で結構。ギルドを守んのがアタシの仕事なんでな」
だったら、こんな経営難になるまで放っておくなよ。
と言いたいところだが、今更それを言ったところで過去に戻ってやり直せるわけではない。
言うだけ無駄だな。
「んじゃ、とりあえずこれやって来いこれ」
スズカから渡された羊皮紙にはクエストの内容が書かれていた。
ドラゴンのイラストが描かれているところ見るに、討伐系の依頼のようだ。
「え? いきなりこんな大物クエスト受注させてくれるの? マジで?」
俺も男の子だからな。こんな強そうなモンスターの討伐は上がる。
ヤバい、顔がにやけちまうぜ。
「いや? 薬草採取だが?」
「はぁ!? じゃあこの挿絵何よ!」
「文字読めない人を釣るためのものだな。薬草採取のクエストは人気ないから、絵で冒険者を引き寄せてんだよ。ドラゴン討伐と勘違いした思い上がりの馬鹿どもが受注してくれるからな」
なんで異世界でもサムネ詐欺が流行してんだよ。
「クソ顧客じゃないか。そんなのキャンセルされるだけじゃん」
「このクエストは一度受けたら違約金払わないとキャンセル出来ない契約になっているからな。文字読めない連中はサインしたら最後ってわけだ」
「そこまで聞くとより一層怪しい仕事にしか聞こえなんだが? 薬草って気持ちよくなっちゃうタイプの草じゃないだろうな」
「ちゃんと医療で使われるものよ。ほら、依頼元は王立中央病院になっているでしょう?」
「公共機関のくせに詐欺みたいな手口使うなよ」
「薬草不足で国も必死なのよ」
「まぁ、そういう事情があるのは分かったが、なんで俺がこんなクソクエストやんなきゃなんだよ。もっと、冒険者らしい討伐クエストとかにしてくれよ」
「そりゃ聞き捨てならねぇな。薬草採取がクソだと?」
俺の言葉が地雷を踏み抜いてしまったのか、スズカは眉間にしわを寄せて俺の胸倉をつかむ。
「今も薬草が足りなくて苦しんでいる病人の前でも同じことが言えんのか? あぁ?」
「いや……そういうつもりで言ったわけじゃなくて……クソって言うのは依頼の仕方の話であって、内容がクソとは言ってないというか……」
「噂に聞いていたやつとはちげぇみてぇだな」
「噂……?」
「正義感が強くてそれが空回って王国軍に喧嘩を売ったって聞いたぞ? どうにもそうは見えねぇな。どっちが本当のお前だ?」
「っ! 分かった、やればいいんだろ」
俺はスズカの腕を振り払い依頼を受注した。
これ以上口を開いたら、知られたくない俺を知られてしまいそうで話を無理やり切った。
「やる気になってくれたんならよかったぜ。んじゃ、二人で頑張ってくれ」
「はいはい、分か……二人?」
「ああ、二人」
スズカはそう言って左指で俺を指さした後、右指で俺の後ろを指さした。
「うわぁ!? だ、誰だ!?」
後ろを振り返るとぬっと見覚えのない人物が立っていた。
と言っても顔は見えない。
前髪まで足元まで伸び切っている色素の薄い空色の髪のせいだ。
寝起きっぽくあちこち髪が跳ねていた。
それとなぜか肩に布団をかけている。
「あら、リオナちゃん。久しぶりね」
「リオナ? もしかして女なのか? どう見てもなんかの妖怪にしか見えねぇぞ。おいおい、モンスターはさっさと巣に帰りな。じゃなきゃ俺が今ここで討伐……ぷぎゃ!」
顔も見せないままリオナは俺に頭突きをかましてきやがった。
「何しやがんだ! くらげ女!」
「誰がくらげ女よ。クソ雑魚ナメクジのくせに」
人と目を合わせられない恥ずかしがり屋キャラかと思ったら普通に好戦的な態度をとってきやがった。
「それこそ誰だよ! まさか俺じゃないだろうな!」
「あんたよ、ナメクジ。私は知ってるんだからね。剣も魔法もろくに使えないうえにしょうもないスキルしか持ち合わせていない雑魚キャラって」
「どこの誰に聞いたかしらないがなあ、それはただの噂に決まってんだろ。俺はちょーつえぇから!」
「誰ってギルマスよ。ギルマスが言ってたんだから間違いないわ」
「ギルマスぅ?」
俺は疑いの眼でスズカの方へ目をやる。
「ああ、アタシが言ったぜ。クソ雑魚ナメクジの意気地なしだってな」
どや顔で何言ってるんだこの人は。
「ギルドマスターともあろう人がそんな誰とも知らないやつが流した噂なんか信じちゃマズいですって」
「いや? お前の噂はアタシが流したぞ」
「は?」
なんつった? 今こいつなんつった? ウワサヲナガシタ?
「——何やってんだてめぇ!!! ふざけんな!!」
あの噂のせいで俺はどこのギルドにも入れてもらえず、こんなヤバめなギルドに入る羽目になったんだぞ。
「んだよ。まだ気づいてなかったのかよ。お前が王国軍と喧嘩する時にいたんだぜ」
「え……それってもしかして……」
「ホントあほだよな。アタシが王国軍に誘拐されてると勘違いしてたなんてな」
「なっ……!」
俺がギルドを追放されるきっかけになった子供がまさかこいつだったとは。
「ま、あほそうだったから、うちのギルドに入れようと思ったんだがな」
「アホアホ言うな。言うほどアホじゃない! ……え?今なんて言った?」
「だから、あほそうだからうちのギルドに入れようと思ったんだって」
そこで点と点が一本の線になった。
「もしかして、あの噂を流したのって……俺をこのギルドに無理やり入れるため……?」
俺がこのギルドに来ることになったのは王都中のギルド全てに断られたからだ。
断られた理由は全て、あの噂が原因だった。
そして、その原因を作ったのが、今目の前にいるロリっ子ギルドマスター。
「んじゃ、しっかり稼いでくれよ新人くん」
あり得ない。人の人生なんだと思ってやがんだこのロリガキ。
くそ、くそ、くそ!
「ざけんなぁ!!!」




