12. 希望②
『第三コロニーの生存者へ告ぐ。こちらはダイソン球居住区からの救援部隊。補給線の分断を完了した』
『アーク・ファルコン』の【ライジング・キャノン】と『ヴァリアント』の重粒子レールガンが宇宙空間の輸送艦隊を壊滅させた直後、コロニー内部のモニターに、二体の全高18メートル級ロボットからの通信映像が映し出された。
破れかけた天壁から、巨神二機が滑り込むように降下してくる。
だが、その機体胸部ハッチを開き、透明な強化ガラスの容器を満たす琥珀色の液体を見た瞬間、私は息を飲んだ。
「な・・・ッ!? 全機、警戒態勢!!」
レオン先輩たちが咄嗟に銃口を向ける。
無理もなかった。
二体の巨神の胸部に積まれていたのは、機械兵の動力源と同じ『エーテル・リアクター』だったのだから。
「撃っちゃダメです!」
私はあわてて、レオン先輩や他の男子たちの前に立ちはだかる。
(でも、どうして・・・機械兵と同じリアクター!?)
『あはは、驚かせてごめんね! でも怪しい者じゃないよ!』
アーク・ファルコンのコックピットモニターに、親しみやすい笑顔を浮かべた黒髪の青年――カイト・レミングスの姿が映し出された。
『俺たちは、敵の技術を応用した・・・俺たちが、生き抜くために必要だったんだ・・・けど、魔力を無理やり引きずり出してるんじゃない。システムの安全は確保されているんだ』
言葉は控えめだったけれど、理由を聞いて私はハッとした。
身体を直接媒体として魔力やエネルギーを安全に循環させるための、極限のシステム。
彼女たちは自ら進んで魔力を供給しているのだと理解できた。
すると、もう一機のヴァリアントのコックピットから、凛とした青年の声が響く。
操縦者の長瀬春樹だ。
『話は後だ。ミカ・・・彼女に声をかけてやってくれ』
ミカエラさんと、アーク・ファルコンのリアクターの中にいた鈴原結花さんが出てくるまでには、少し時間がかかった。
服を着るのに必要な時間だ。
『久しぶりね、レイチェル・・・あなたは魔法少女じゃなかったから、覚えてないかしら?』
ヴァリアントのエーテル・リアクターの中にいた金髪の少女――ミカエラ・ファンタネラが、優しい微笑みをモニター越しに向けてきた。
その姿を見た瞬間、私の胸の奥が激しく脈打った。
(ミカエラ・・・!?)
脳裏に、私の中の・・・エミルナお姉ちゃんの中の記憶が鮮烈に蘇る。
彼女こそが、エミルナが頼った張本人だった。
かつて10歳のエミルナとともに、絶望的な戦場で背中を預け合った魔法少女。
圧倒的な魔力領域を展開し、かつて『一人要塞』とまで恐れられた伝説の少女、ミカエラ。
(ミカエラさん!? 本当にあのミカエラさんなの・・・!?)
私が驚くと、私の頭の中で、エミルナお姉ちゃんがまるで自分の事のように自慢げにしている。
『私は事情があってダイソン球の居住区へと逃れて生き延びていたの。・・・でも、故郷であるこの第三コロニーが機械兵の農場にされていると知って、春樹たちとともに駆けつけたわ』
ミカエラは、力強い瞳で私とレオン先輩たちを見つめた。
『でも、この18メートルもあるアーク・ファルコンやヴァリアントは、狭いコロニー内部で全力を出せばコロニーそのものを破壊してしまう。内部での精密な戦いには向かないわ』
「じゃあ・・・」
『ええ。だから役割分担よ、レイチェル。宇宙から・・・『朽ちた惑星』からの補給路は、私と結花、カイトと春樹で完全に断ち切ってみせる。・・・だから、コロニー内部の敵の根拠地は、あなたたちに託すわ!』
「ミカエラさん・・・ありがとう・・・!」
かつての戦友からの力強い言葉。
一人じゃなかった。
お姉ちゃんが戦っていた時代から続く絆が、今こうして時を超えて繋がったんだ。
『よし! 宇宙の残敵を片付けに行くぞ、春樹!』
『はい!後顧の憂いは絶ってみせます!』
アーク・ファルコンとヴァリアントは、再び大爆発のような推進光を噴射すると、コロニーの天壁の破れ目から外宇宙へと跳翔していった。
直後、コロニー上空で凄まじい光の連鎖が巻き起こり、敵の増援ラインが完全に途絶えたことが分かった。
もう、敵に補給はない。
「ヴァルシェイン・・・いや、レイチェル!」
レオン先輩が、白銀の通常機のメインカメラを私へと向けた。
その声には、一切の迷いも恐怖もなかった。
「敵の補給は絶たれた。あとは僕たちが、このコロニーの中に巣食う機械兵の核心部を叩くだけだ!」
「はい、レオン先輩!」
私は壊れかけた操縦レバーを握り直した。
膝の上のゴンゴンが、満足そうにフッと鼻を鳴らす。
『ハッ、お膳立ては揃ったな。レイチェル、エミルナ、一気に行くぞ!』
(ええ! 取り戻すわよ、レイチェル!あたしたちの、本当の世界を!!)
(うん! 行こう、エミルナお姉ちゃん!)
白銀の真の隊長機が、折れた大剣を構え直し、眩い琥珀色の光を全身から放つ。
仲間たちが繋いでくれた希望を胸に、私たちは第三コロニーの未来を決する、最後の決戦へと躍り出た。




