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この世界の悪は、吸血鬼の小銭稼ぎにすぎない 〜無慈悲な治癒魔法と血の刃で、獲物を捕食する〜  作者: アム


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7話 血の譲渡と、お節介なベテラン

日々の狩りと、夜の暇つぶし。

そんな生活が板についてきたある夜のことだ。


いつものようにラメの首筋に牙を立て、ほんの少し血を吸っていた時。ふと、奇妙な出来心のようなものが湧き上がった。

ただ奪うだけでなく、自身の血を注ぎ込んだらどうなるのか。


誰かに教わったわけではない。だが、本能がやり方を理解していた。私は吸血の最中、意図的に自身の血を逆流させるように、彼女の体内へと少量注ぎ込んだ。


「……っ、あ……ぁ、」


途端に、ラメの体がビクンと跳ねた。これでも多かったか?

何となくだが『マズい事をしている』と本能が警鐘を鳴らしている気がして、その日はすぐに様子見に切り替え、そのまま抱きしめて寝落ちした。


だが、一度芽生えた興味は消えない。

翌日から私は方針を変えた。彼女の様子を慎重に観察しながら、体が適応できそうな極微量だけを、毎日少しずつ、日ごとに量を増やしながら注ぎ込んでいくことにした。

万が一壊れそうになれば、すぐにやめればいい。


そうして約十日にわたる、慎重な『血の譲渡』を繰り返した結果。

彼女は死ぬことなく、私の血に完全な適応を果たした。


私の血を吸われている時は、小さく「ン……」と喉を鳴らす程度なのだが、血を注ぎ込んでいる時は、たまに「あぁ……」と熱を帯びた細い声を漏らす。

本人は半ば夢の中にいて意図していないのだろうが、意識がなくとも肉体は異物の侵入を理解しているのだろう。


明るくなってから気付いたのだが、マスタード色だった彼女の髪や尻尾の色合いはそのままに、少しだけ私と同じような黒い毛が混ざり始めていた。

そして口元には、鋭い『牙』。……あ、牙は狼の獣人特有のものだから、私の吸血鬼の血とは関係ないか。

ともかく、彼女は完全に私と同じ性質を持つ獣人のハーフへと変異してしまった。狼の獣人の中でも『明るい時間と暗い時間のどちらでもない』タイプは特に少なくて珍しいらしいが、まさか後天的に変わるものだとは知らなかった。


(あれ、なんかマズイことをしてしまった気がする)


私に初めて『罪悪感』という名の感情が発生していたのだと、後になってから知ることになる。


『元々の私と少し似ているだけの存在』だった彼女は、今や『私と全く同じ性質に染まった存在』へと変わった。

ラメは恐怖するどころか、自分を変異させた私に対して絶対の信頼を寄せ、以前よりもさらに無邪気に懐いてくるようになった。


ベッドの上で、尻尾を振って私の体にすり寄る彼女の頭を撫でながら、私は微かに、今まで抱いたことのない不思議な感情を覚えていた。

これが孤独感の埋め合わせなのか、あるいは『自分だけのモノ』を手に入れた所有欲のようなものなのか、私にはよく分からない。ただ、悪くない気分だった。


居場所が分かりやすい盗賊や、スラムの底辺でくすぶっている一般的な悪党たち。

それらを効率よく淡々と狩り続けた結果、私は冒険者ギルド内で、少しばかり目立つ存在になっていた。


登録すらしていない子供が、数日に一回のペースで賞金首の証拠部位を持ち込むか、縛り上げた人間を特定の場所に放置して案内だけしに来る。つまり『後始末』をギルドの受付に丸投げしているのだ。当然、職員の間でも噂になる。

今では、私はギルド内で『知る人ぞ知る、人狩り専門のヤバい奴』という立ち位置を確立していた。


「本日の確認、終わりました。こちらが報酬になります」

「ん」


受付嬢も、最初の頃の「迷子?」という対応から一変し、今では私の顔を見るなり引きつったプロの愛想笑いを浮かべ、無駄話ゼロで迅速に手続きを済ませてくれる。明らかに作った表情や声だが、それは非常に効率が良くて助かる。


報酬の金貨を懐にしまい、ギルドを出ようとした時のことだ。


「おいおい、どこの迷子だァ? ギルドはお遊戯する場所じゃねえんだよ、ガキが」


絡んできたのは、ひどく酒臭い、体格だけは立派なよくいるタイプの男だった。新顔だろうか。

男がニヤニヤと笑いながら私のフードをめくろうと手を伸ばしてきたため、「はぁ」と面倒くさそうにため息をついた瞬間。


「バッカ野郎ッ! やめろォ!!」


ギルドの奥から、凄まじい剣幕で大男がすっ飛んできた。

かつて私が路地裏で『格付け』をしてやった、あの善意のベテラン冒険者だ。


「なんだアンタ!? 俺はただこのガキに……」

「死にてぇのかテメェは! マジで死ぬぞ!!」


ベテランの男は顔面を激しく引きつらせながら、酔った男の首根っこを掴み、力ずくで引き剥がした。

首を急に絞められたせいで思わず吐きそうになったのか、酔った男から「うぇっ!」というくぐもった声が聞こえた。

私は彼らが勝手に騒いでいるのをただ目の前で眺め、一切の言葉を発することなく、無表情でギルドの扉を押し開けた。


背後からは「あいつ、俺よりヤバいから絶対に手を出すな」「痛い目に遭わされても知らんぞ」と、新顔を必死に説教するベテランの声が聞こえてくる。直後、ビチャッと何かを吐き出したような音が聞こえた気がするが、どうでもいい。


あのベテラン、なかなかに優秀だ。

……もっとも、たまたま彼がギルドにいなかった時間帯に同じように絡んできた若い男女二人組を、路地裏で彼とまったく同じ目(回復魔法による拷問)に遭わせて『教育』済みだったりもするのだが。


その甲斐あってか、今では私が手を下すまでもなく、周囲の人間が勝手に無駄なトラブルを未然に防いでくれる。スラムの商人といい、この街の人間はうまく使えば非常に効率がいい。


さて、家に帰ったら、またペットの様子でも見るとしようか。


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