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この世界の悪は、吸血鬼の小銭稼ぎにすぎない 〜無慈悲な治癒魔法と血の刃で、獲物を捕食する〜  作者: アム


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6話 暇つぶしのペットと、回収した遺物

ギルドでの一件から数日後。

報酬が美味しい依頼というものは、そう簡単には見つからない。高額な賞金が懸けられている大物ほど、きっと逃げ上手なのだろう。

少し頭を抱えていた私は、スラムで利用したことのある、あの商人を頼ることにした。


彼は表の街で運び屋のような仕事もしているらしい。

私は荷車を引いて歩く彼の前に正面から歩み寄り、立ち止まらせた。そして、適当に見繕った平民の三ヶ月分ほどの給料(金貨)を、荷車の上へ無造作に放り投げる。


「ギルドの依頼書にある、居場所が割れていない厄介な指名手配犯や大物について調べて」

「あ、はい……!」

「追加で、周辺や隣の街の情勢も知りたい。少し期間を長めにとる。三週間やるから、情報を集めておいて」


それだけ指示を出し、私は商人の前から立ち去った。

これでしばらくの間、情報収集という面倒な作業は彼が勝手に進めてくれる。商人を走らせている間、私にはたっぷりと暇な時間ができた。


おとぎ話によれば、吸血鬼は暗い時間帯に強いらしい。一方で、狼は明るい時間帯にも適応できる。

その血が半々ずつ混ざっているからか、私には特に苦手な時間もなければ、得意と言える時間もない。睡眠のサイクルも適当だ。


夜は狩りなどの活動に都合が良いことが多いから起きているが、だからといって完全な夜行性というわけでもなく、ずっと夜に動き続ければ普通に疲れる。

だから、必要に応じて睡眠時間を分割し、昼と夜に半分ずつ仮眠を取って活動を回すことも可能だ。最悪、丸一日徹夜して次の日にまとめて寝ることもできなくはない。

……まあ、身体への負担を考えると効率が悪いから、あまりやりたくはないが。


余談だが、獣人は人間よりは数が少ないものの、この街でも二、三十人に一人くらいの割合でちらほら見かける。単に人間の数が多すぎるだけだろうが。

この辺りで見かけるのは狼タイプか猫タイプの二種だ。本で読んだ知識によれば、別の地方や国にはどちらでもないタイプがいるらしい。


また、同じ狼の獣人でも「明るい時間帯が得意」「暗い時間帯が得意」「どちらでもない」の三種に分かれている。

それは大体、髪の毛や尻尾の色で判別できる。明るいのが得意なら黄色、暗いのが得意なら黒色になる傾向があるらしい。

ちなみに私は、薄い黄色の毛先や内側に黒色が所々混ざっている。『どちらでもない』傾向を示す特徴の一つだ。


街の視察と暇つぶしを兼ねてスラムを歩いていた時のことだ。

路地裏の隅で、死にかけている小さな放浪者を見つけた。


普段なら気にも留めないただの景色の一部だが、私は少しだけ驚き、足を止めた。

その子供のマスタード色とでも言うべき毛並みが、死んだ母のそれに似ていたからだ。色は私と少し差があるようだが、体格は私とほぼ同じように見えた。

最初は「私……?」かと錯覚して観察してしまったが、一度はその場を立ち去った。


純粋な興味と、ほんの出来心だった。なぜか無意識のうちに、また戻ってきてしまったのだ。

私は手持ちの食べ物を、無言でその子の目の前に置き、振り返ることなく歩き出した。出かける前に家で焼き、後で食べようと適当な布に包んでおいた肉だ。


拠点である家に向かう道中、ふと気付いてしまう。

背後から、小さな足音が聞こえている。


今は明るい時間帯だが、この辺りは場所のせいか、元々外を出歩く人間が全くいない。だから誰かに見られる心配はないし、どうという事はない。振り返るまでもなく、十中八九さっきの子供だろうと視線を向けると、やはり私の後ろにぴったりとくっついてきていた。お互い、特に言葉を交わすこともなく。


追い払うのも面倒だ。しかし、そのまま家に上げて、スラムの泥と悪臭で拠点の床を汚されるのも困る。掃除の手間が増えるのは非効率の極みだ。


私は家に入るなり、勝手についてきたその子供の首根っこを掴み、問答無用で風呂場へと放り込んだ。


「家から出ないように」


汚れを落として出てきた子供に、私はそれだけを指示した。

その子は「うん」と応えるように、軽く首を縦に振った。

とはいえ、監視するつもりもない。もし逃げたらそれでいいし、死ぬならそれまで。私にとってはその程度の、極めて薄い関心でしかなかった。


かくして、商人をこき使いながら悪党を狩る日常の合間に、奇妙な同居生活が始まった。


家に戻った時、お腹を空かせているようであれば適当な肉を与えて餌付けする。

話しかけられたら、適当に相槌を打って返す。

そして、ちょっとした暇つぶしとして、彼女の首筋に牙を立てて軽く吸血する。


ある時、名前について聞かれた。ついてきた子は「ラメ」というらしい。

私は「クロ」と適当に返した。


自己紹介らしきものをしたのは、何気に初めてだった。

昔、自分の名前の意味を「色の黒」だと思っていた時期がある。だが、自分の髪や尻尾の色合いと明らかに違うため、親に聞いてみたことがあった。

親が言うには、とうに滅びたかおとぎ話に出てくるような大昔の他国の言葉で、『牙』という意味を持つらしい。誰から聞いたか忘れた程度のうろ覚えで付けたそうだ。両親揃っていい加減すぎる。もう少しちゃんとしてもいいのではと思ったものだ。


私にとって彼女は、少し毛並みが自分に似ているだけの『ペット』だった。

それが次第に、『手軽な血液の供給源』のような感覚も追加されていった。

まあ、血液を数ヶ月摂らなかったからと言って、私の身体に何かが起きるわけではない。ただ、なんとなくそうしたくなるだけだ。


吸血の心地よさからか、あるいは別の理由からか。毎日夜になると、何となくの暇潰しで彼女から血を吸い、そのまま無意識に彼女を抱きしめた状態で眠るようになっていた。

吸血鬼としての本能なのか、狼としての群れの習性なのか。理由はよく分からないが、温かくて悪くない。だがこの時点での私にとっては、ただの効率的な睡眠と吸血行為でしかなかった。


起きている時間帯は、有意義に活動している。

報酬は少ないが分かりやすい指名手配犯や悪党を狩りに行ったり、本屋で知識を仕入れたり、今後の変装に使えそうな小道具を足がつかないよう複数の店に分けて購入したりした。ついでにラメの服なども適当に見繕う。

スラムと表の街を行き来する生活のサイクルは、完全に最適化されつつある。


ある日、表の街の裏山近くに潜伏していた指名手配犯を狩ったついでに、私は少し足を伸ばした。


向かった先は、かつて両親と暮らしていた家から逃げ込んだ、あの小さな洞窟だ。

奥深くに隠しておいた『ヒーラーの服と立派な杖』は、当時のまま残されていた。

少し森と石、そして水特有の臭いが染みついた気がするが、適当に洗えば良い。

今の私にはまだサイズが大きすぎるし、これを使って表立って回復魔法を披露するつもりもない。

使うかどうかは分からないが、普通なら入手する手段がない代物だ。いずれ何かの役に立つかもしれない。


ついでに元の暮らしていた家も見に行ってみたが、どうやったのか説明がつかないほど完全に更地になっていた。家の建造物の破片と思われるものが、僅かに落ちていたくらいだ。

残念ながら、使えそうなものは何も残っていなかった。

匂いも完全にどこにでもありそうな山特有のものになっており、ただ何となくの方向に魔物がいる気配を感じる程度だった。


私はヒーラーの遺物を回収し、拠点にいるペットの待つ家へと帰路についた。


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