54話 化け物の自覚と、山奥の模擬戦
私が猫の獣人の見た目になってしまった影響で、ギルドへの定期報告にはクロが苦し紛れの代理で行ってくれた。
「ブランは今、都市で少し気になる場所を調べてるから、数日報告に行けないって伝言を頼まれたの」
クロの見事な子供の演技による報告に、ギルドの職員は首を傾げながらも、「ブランさんの実力なら大丈夫だと思いますが……少し心配ですね」と納得してくれたらしい。
なぜブランは子供に伝言はできるのにギルドには連絡できないのか、ツッコまれないか不安だったが、とりあえずは数日の猶予ができた。
クロが帰宅した後、私は早速彼女に相談を持ちかけた。
「ねえ、クロ。私、このまま猫の獣人で居たいんだけど」
色々な心情の告白方法を考えていたのに、想像以上に軽い感じで言ってしまった。流石のクロも最初は少し目を丸くし、口を少し開いて驚いたように私を見つめてきた。
私がすぐに休みなく「バランスが取りやすくてメリットしかない」と説得しまくると、クロは淡々と頷いた。
「デメリットが無いなら良いんじゃない? ブランを吸血鬼にするのは正直かなり抵抗があったけど、ただの猫なら私と関係ないし、大丈夫だろうし」
クロはあっさりと承諾してくれた。
(ん? ラメは最初から吸血鬼とかではない……? まあいいか)
問題は、「私が急に猫になってしまった理由」をどうギルドに説明するかだ。
過去にリュエに黒いモヤモヤが入り込んだことや、人が魔物化するという噂もある。クロが暇つぶしに読んだ物語にも、儀式や遺伝、後天的な変異などの設定があった。
「まあ、数日の猶予があるし、それっぽい理由を考えておこう」と二人で結論づけ、私たちは一旦その話題を保留にした。
「それより、今の私の身体能力を試してみたいんです。軽く戦ってみませんか?」
私の提案で、私とラメ、そして見学のクロという三人で山奥へ向かい、タイマンの模擬戦を行うことになった。
開始の合図と共に、私はラメに向かって踏み込む。
今回は氷と血を混ぜて視界を錯覚させる技は抜きだ。純粋な剣同士のぶつかり合い。錯覚の技抜きの場合、以前ならラメの四つん這いなどの変則的な動きに対応できず、一方的にやられていたはずだ。
だが今は違う。無茶な姿勢からでも尻尾で完璧にバランスが取れ、ラメの鋭い一撃を躱して、即座に攻めに繋げることができる。
(ってか、猫の身体能力ってこんなに強いの!? もしかして人間が弱すぎるだけ!?)
ラメは風魔法で自身の速度をサポートしているが、私も風と氷の魔法で速度の底上げをしている。条件はほぼ互角。剣のぶつかり合いが森に響き渡る。
しばらくの撃ち合いの末、お互いに決定打に欠け、沈黙が発生した。
「……今日はこれくらいにしておきましょうか」
私が剣を下ろすと、ラメも悔しそうに息を吐きながら「なんか凄い強いね……」と唸った。
見学していたクロが、模擬戦の評価を口にする。
「あれ、普通の人間じゃ絶対避けられないし、そもそも剣がぶつかり合う事が起きないだろうね」
よくクロは「私はああいう正面からの戦闘は苦手だから」と自己分析していた。彼女は物陰からナイフを好きに飛ばして斬ったり刺したりするスタイルだ。
「建物の中にいても、ナイフが侵入できる穴さえあれば飛ばして狙った場所に刺せるんだから、あれを真似できる者はいない」と本人は言うが、十分すぎるほど理不尽な強さだ。
帰り道、私はふと思いついた設定をクロに提案した。
「呪いの本が原因で猫になった、というのはどうですか? 以前、スラムに悪魔や呪いっぽい本が実際に落ちていたことがありましたし、半分本当で半分嘘の混ざった理由にできるかも」
「悪くないね。それでいこうか」
私の完璧な言い訳の創作物語が、こうして完成した。




