53話 獣の機能美と、正当化される凶行
ヒーラーを狙う愛猫家の変態を誘い出すための『囮作戦』。
出発前、私たちは家で軽く打ち合わせを済ませた。作戦といっても、私が現場近くを適当に散歩し、何かあれば後ろから尾行しているクロとラメがアドリブで動くという、大雑把なものだ。
夜の闇の中、私はヒーラーの純白の法衣を纏って指定の場所周辺を歩き回る。自然と全身が真っ白で目立つはずだ。
ふと気づいたが、猫耳を繋いだおかげで暗闇でもなんとなく人がいる方向や気配が分かる。
(……暗闇でも、こんなに見えなかったはず……?)
感覚の変化に驚きつつも、人がいる場所を目立ち過ぎず、かといって隠れ過ぎない絶妙なバランスで散歩を続ける。離れた場所にいるクロとラメの気配も、なんとなく感じ取れていた。
だが――いくら歩いても、何も起きない。
建物の中にいる人間からすれば、外の環境音はいつもの日常と変わらない。偶然外を見て、私の姿を視認してくれない限り、この作戦は始まらないのだ。
かといって、あからさまに音を出して気を引くのも不自然だろうと迷い、私はなんとなく、先日『猫の獣人の遺体』が二つ見つかった遺棄現場へと足を向けてみた。
「……え?」
現場に着いて、私は絶句した。
そこにあったはずの遺体は影も形もなく、ただ燃やされた後の、色もわからない程度に『カス』が散らばっているだけだった。そこにあったと知っていて、よく見ないとわからない程度に完全に燃え尽きている。
(こんなことになるくらいなら、あの時私が耳と尻尾を貰っておいて正解だったね)
無意識に自分の凶行を正当化しつつ、ふと燃えカスからまだ微かに焦げた匂いが漂っていることに気づく。
この匂いを追えば、燃やした犯人に行き着くのではないか?
私は微かな匂いを頼りに歩き出したが、途中でふっと匂いは途切れてしまった。
時間経過と風で、ただ漂っていただけだったようだ。噂で「誰かがスラムのゴミを定期的に燃やしているらしい」と聞いたことがあるが、そんな感じで処理してしまったのだろうか。
これ以上ここにいても仕方がないと判断し、私はスラムの方へと向かうことにした。
リュエの様子を見に行こうかとも考えたが、今の私の姿は『猫の獣人』だ。彼女を驚かせてしまうだろうと思い直し、ただスラムの周辺を歩き回るに留めた。
相変わらず悲惨な光景が広がるスラム。
ふと道端に目をやり、以前のように『悪魔』や呪いに関する怪しい本が落ちていないかと探してみたが、流石にそんなものは見当たらない。過去にリュエが見つけたあれは、本当にただの偶然だったのだろう。
結局、その日は何の進展もなく探索を諦めた。
翌日。二日目の探索は方向性を変え、ヒーラーの変装ではなく、軽装に護身用の剣を装備した『一般人の猫獣人』に紛れる形で行った。
だが、結果は昨日と同じ。まるで進展がなかった。
夜、家に帰り、私は自室で考え事に耽っていた。
私の感情と連動するように、白い尻尾が無意識にパタパタと揺れている。
たった二日間だが、この尻尾があるおかげで、体重のバランスが驚くほど簡単に取れるようになり、信じられないほど楽に動けることを実感していた。
試しに、ラメのように四つん這いになって部屋を軽く動いてみる。想像以上にスムーズに、滑らかに動けるのだ。
(ただ、猫の獣人の神経と血管をくっつけただけのはずなのに……)
身体能力だけでなく、行動の習性まで獣に引っ張られている気がする。
だが、この身軽さはあまりにも魅力的だった。
(……なんかもう、一生このままでもいいかもしれない)
私は本気でそう思い始めていた。




