52話 青い瞳の白猫
奥の部屋で一人、新しい自分を堪能して興奮を落ち着かせた後、私はクロとラメが待つ部屋へと戻った。
「あの……出来ました」
私の姿を見たクロは、少しだけ感心したように目を細めた。
「回復魔法でどうやったのか、正直想像もつかないけど、凄い事をしたね。体調は、やる前と比べて問題ない?」
「大丈夫そうです」
私がそう答えた瞬間だった。
「わあー! なにこれ、すごい!」
ラメがいきなり私の背後に回り込み、生えたばかりの尻尾を無遠慮にガシッと掴んできたのだ。
「っぎにゃああ!!!」
自分でも出したことのないような奇声を上げながら、私は無意識のうちに身体を捻り、全力の回し蹴りをラメの腹に叩き込んでいた。
ドゴォッ! という鈍い音と共に、ラメの身体がイスごと部屋の端まで吹き飛ぶ。
「ぐへぇ……」
流石のラメも結構痛かったらしく、壁際で苦笑いを浮かべていた。
クロは呆れたようにため息をつきながら頭を抱え、「尻尾をいきなり触られたら嫌だと思うよ」とラメに言いつつ、軽く回復魔法をかけた。
(えっ……私、あんな威力でラメを蹴り飛ばせるの……?)
自身の足から放たれた信じられない力に、私自身が一番驚いていた。
ただの『耳』と『尻尾』を繋いだだけだ。蹴りの威力に直接関係するはずがない。だが、未知の神経を強引に繋ぎ合わせたことで、肉体の『反射神経』や『筋力のリミッター』までが、獣特有の本能に引っ張られて底上げされているのかもしれない。
良い意味での想定外な副産物に、私は思わずニヤリと口角を上げた。
気を取り直して、私はクロから貰った『ヒーラーの法衣と杖』を身に付け、再び鏡の前に立った。
羽織った純白のローブに、私の白いロングヘア、そして真新しい白い猫耳と尻尾が違和感なく溶け込んでいる。全身が白一色に染まる中で、水色寄りの青い瞳だけが、唯一の鮮やかな色彩として際立っていた。
手に握るのは、汚れのない白い布が隙間なく巻かれた無骨な杖。先端に据えられた冷たく透明に近い魔石だけが、私の青い瞳と同じように、どこか無機質に周囲の光を反射している。
(うん。誰がどう見ても、ブランに似ているだけの『猫の獣人のヒーラー』ね。完璧な変装だわ)
ただ、やはり尻尾は私の感情と連動して勝手に動き、猫耳も「あっちの方向が気になるな」と意識しただけで、音を拾うように勝手にそちらへ向いてしまう。獣の器官を完全に制御するには少しコツが要りそうだ。
私は鏡の前で、思いつく限り『可愛らしい猫のヒーラー』のポーズをいくつか決めてみる。
(にゃ〜ん!!)
(シャアー!!)
(ゴロゴロ……)
(よしっ。完璧)
外は、もうすぐ夜の帳が下りる頃だ。
私は『仕方なく』変装のために完成させたこの姿で、噂の猫好きの悪党を釣り上げるべく、クロたちと共に夜のスラムへと出発した。




