51話 死体繋ぎと、鏡の中の愛らしさ
ギルドでの報告と家の案内を終えたのは、まだ昼前だった。
家は目の前だ。私はクロと共に帰宅すると、すぐさま彼女に宣言した。
「クロ……少ししたら奥の部屋で、時間を掛けてこの耳と尻尾を私の体にくっ付けてみるから。絶対に静かに、干渉しないでくれると助かります」
私が真顔でそう告げると、クロは無言で頷いてくれた。
気のせいか、あの無表情なクロが、ほんの少しだけ心配そうな顔をしていた気がした。
私は、かつて自分の両親が使っていたベッドのある奥の部屋へ向かい、凍らせておいた白猫の耳と尻尾、そして鋭いナイフを用意した。
(よし、やるぞ)
まずは、切り取ってきた獣耳と尻尾の断面に残っている『元の持ち主の血』を、ほんの少しだけ舌で舐め取る。鉄の味が広がるのを感じながら目を瞑り、極限まで集中する。
すると、英雄の腕を治した時と同じように、この他者の器官の『血管の構造』が脳裏に視覚化されて浮かび上がってきた。
自分の身体と、最も噛み合う最適な場所を探る。
迷いを捨て、ナイフで自身の頭部の皮膚を薄く切り裂く。痛みは氷魔法で麻痺させ、そこに獣のパーツを配置した。
血管を繋ぎ合わせ、最後に皮膚を融合させるように、ひたすら魔力を流し込み続ける。血管の太さや位置が合わない場所もあったが、そこは魔力で都合よく微調整を重ねた。神経の繋がりまでは相変わらずよく分からなかったが、「なんとかなれ」の精神で強引に押し切った。
作業自体は地道で神経をすり減らしたが、原理さえ分かってしまえば、驚くほど単純な作業だった。
頭部が終わった後、同じ要領で尾骨にも尻尾の融合を行った。こちらも思っていたよりあっさりと繋がり、拍子抜けするほどだった。
数時間が経過し、完全に魔力が定着したのを感じて、私はゆっくりと目を開けた。
「……っ!」
途端に、視界がぐらりとぼやけ、周囲の音が強烈な音量で鼓膜を叩いた。
(なんだこれ、凄くうるさい……!?)
今まで聞こえなかった、周囲の住人の微かな話し声、遠くを歩く足音、風の擦れる音までが、まるで耳元で怒鳴られているかのように響いてくる。
情報過多で頭がパンクしそうになっていると、今度は下半身に強烈な異変が起きた。尻尾を繋ぐために変な姿勢を取り続けたことと、未知の神経を無理やり繋いだ反動だろう。足が強烈に攣り始めたのだ。
あまりの激痛に、音のうるささなど一瞬でどうでもよくなった。
五分ほどベッドの上で無様にのたうち回り、ようやく足の攣りと感覚の混乱が落ち着いてきた。
私は荒い息を吐きながら恐る恐る立ち上がり、鏡の前に立った。
そこには、元々の白いロングヘアと青い眼を持つ私に、見事な『白い猫耳』と『白い尻尾』が生えた姿が映っていた。
(……可愛い)
思わず自画自賛してしまう。尻尾が、私の高揚した感情と連動するように、勝手にゆらゆらと動いているのが見えて、思わず顔を赤くして照れてしまった。
音に関しても、最初はパニックになったが、意識すれば特定方向の音だけを拾うことができ、無意識の時は普通の聞こえ方に調整できるようになっていた。獣人の感覚というものが、なんとなく理解できた気がする。
それにしても、血管さえ強引に繋いでしまえば、神経も必然的に繋がるようになっているのだろうか? だとしたら、回復魔法の汎用性は私の想像を遥かに超えている。
――ともかく、これで完璧な『猫の獣人のヒーラー』の完成だ。




