50話 魔王の真実と、化け物を超えた天才
家に集合した後、私たちは情報共有を行った。
各自がおそらく同じ『二人の猫の獣人の遺体』を見つけたくらいで、特筆すべき進展はない。そこで、珍しく私の方から一つの仮説と提案を口にした。
「遺体を捨てている相手は、おそらく猫の獣人を求めている変態組織。しかも、今はボスのためだけに『ヒーラー』を渇望しているという噂まである。でも、悪党として目立っているせいで大っぴらには動けない状態のはず。……もし、都合よく噂の現場付近に『猫の獣人のヒーラー』が現れたら? 相手がどう食いついてくるか、分かりやすいと思わない?」
流石に都合のいい猫の獣人の知り合いなどいないためか、クロは「できるかはともかく、やれるなら囮としては手だね」と軽く流そうとした。
だが、私は引き下がらない。
「ヒーラーのそれっぽい変装グッズさえあれば、私ならできるかもしれない」
すると、クロは「んー……」と小さく呟き、少し首を傾げながら奥の部屋へと向かった。そして戻ってきた彼女の手には、どう見ても誂えたように都合の良い『ヒーラーの杖と純白の法衣』が握られていた。
(あれ、これ……なんか凄く見覚えがあるんですけど。突っ込んでいいの?)
私が内心で顔を引きつらせていると、クロが淡々と言い放った。
「私の両親を殺した奴の装備なら、これがある」
――ん?
(まさか……数ヶ月前に『魔王だ』とか適当な理由をつけられて、英雄たちに討伐されたスラムの虐殺者二人組って……やっぱり、本当にクロのご両親だったの!?)
あまりの衝撃と、点と点が繋がった事実に言葉を失っていると、クロは不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「あと、猫の見た目の問題はどうするの?」
「あ……それは、あまり大きな声じゃ言えないんだけど」
私はゴクリと喉を鳴らし、先ほど遺棄現場から持ち帰ってきた袋の中身を見せた。
「さっき見つけた遺体からお借りした『これ(本物の獣耳と尻尾)』を……私の回復魔法で、自分の血管と神経に直接くっ付けて、変装してみようかと……」
私の言葉に、クロは声を失った。
あの常に無表情なクロですら、僅かに口を開け、目を丸くして固まっている。ラメに至っては「あえー……? え……? んー……??? んっと?」と、完全に思考がショートして唸っているレベルだ。
重い沈黙の後、クロがようやく口を開いた。
「……やるなら手伝うけど。本気?」
「平気です。絶対にやります、任せてください」
私は即答した。私の頭の中では、理論上完璧に結合できるという、びっくりするほどの確信があったからだ。
ただ、すぐに実行するには今日の疲労もあるため、狂気の手術(決行)は明日か明後日に行うことになった。
◆ ◆ ◆
翌日。私は念のためギルドへ顔を出した。
遺体の件を報告すると、引き続きの調査をお願いされ「数日に一回は顔を出してほしい」と頼まれた。さらに、一つの面倒な要望を伝えられた。
「防衛依頼の性質上、家かギルド、あるいは近くの宿など、何もしていない時はすぐに連絡がつく場所にいてほしいんです。ブランさんは普段、どこにいらっしゃいますか?」
寝る時もか、と問うと、そのようだ。
(流石に、あの化け物屋敷(家)を教えるのはマズい……!)
私が返答に窮していると、いつの間にか背後に現れていたクロが、「家なら案内するよ」とあっさり口を挟んできた。
クロは私と一緒にギルドの職員を連れ立ち、家の場所を直接案内した。「玄関をノックしてくれれば、誰かが対応するから」と伝え、あっさりと問題を解決してしまったのだ。
よく考えれば、大量の金や武器、ヤバい物品は全て奥の部屋に隠してある。玄関先や手前の部屋を見られる程度なら問題はない。職員を奥へ入れなければいいだけの話だ。
ただ、ギルドの人間がいつ来るか分からない以上、今までのように家で堂々と悪党を解体して食事をしたり、血を抜いたりすることは難しくなる。食事の場所は変えた方がいいかもしれない。
しかし、人を食べた後のゴミや匂いも、クロが回復魔法で血ごと消去し、残った骨なども燃やして適当に砕き、土と同化させてしまえば全く証拠は残らない。
私が気にしすぎているだけだろうか。それとも、クロが極端に気にしていないだけなのだろうか。
ちなみに、都市防衛の本来の目的である異形の魔物などの襲撃頻度は、最近ではたまにあるかないか程度に落ち着いているらしい。




