44話 麻痺した感覚、取り返しのつかない一撃
風魔法を乗せた、高速で少し大きめの氷弾。
先ほどまで魔法を物理の加速サポートにしか使っていなかった状態からの、唐突な遠距離魔法攻撃。相手からすれば完全に意識外の一撃だ。
予想通り、英雄は長年の勘に従い、飛んできた遠距離攻撃を武器と盾で弾こうとした。
普通の氷なら、弾かれて砕け散って終わりだ。だが、私の氷弾は違う。着弾したその「氷・血」を起点に、さらに氷を爆発的に生成・増殖させることができるのだ。
クロのように他人の血だけを消して無効化してくる規格外の回復魔法もなく、ラメのような野生の勘もない、ただの人間の戦士にこれが防げるはずがない。
「……なっ!?」
英雄は異変に気づき、咄嗟に持っていた剣と盾から手を離した。
その直後、手放された武器を囲い込むように、鋭い氷のトゲが無数に生成され、武器を完全に使い物にならなくした。
(手放す判断の速さ……英雄の勘センサー、凄すぎる)
「やられたな……」
英雄は驚きの表情を浮かべた後、すぐに真剣な目つきに変わり、背中に背負っていた予備の武器である「斧」を引き抜いて構え直した。
だが、そこからの決着はあっという間だった。
斧は単純に剣や盾よりも重量があり、素早く動くのには向いていないのだろう。私の風による加速と、血の氷による視覚の錯覚を合わせた、相手にとっては完全に不利な状況での猛攻により、英雄は完全に後手に回った。
そして、一方的な攻防の末――私の刃が、英雄の腕を完全に捉え、斬り飛ばした。
(やった!)
勝利を確信した、その直後だった。
「あ」
私の口から、間の抜けた声が漏れた。
忘れてはいけない。目の前にいるのは、異常な回復魔法を持つクロではないのだ。致命傷や欠損を数秒で治せるような都合のいい人間なんて、この表の世界には存在しない。
最近の夜の路地裏で、悪人を相手に躊躇いなく腕や足を斬り落としてきた日々。山奥でラメの腕を本気で斬ってやるつもりで挑んでいた訓練。そんな日々のなかで培われてしまった「狂った常識」が、私の中で完全に麻痺していたのだ。
「あ!!!! ごめんなさい!!!」
私は顔面を蒼白にさせ、慌てて英雄のもとへ駆け寄った。
激痛に顔を歪め、大量の血を流しながらも、英雄は「ヤッベ、やられたよ〜」と苦しそうに作り笑いを浮かべている。
その優しさが、笑顔が、今の私にはあまりにも辛すぎた。




