43話 次期英雄候補の実力
案内されたのは、ギルドから少し離れた場所にある大きな訓練所だった。
生まれた時からこの都市にいるというのに、私はこんな場所があることを知らなかった。いや、知る必要がないほど自分自身の才能に自信があったし、通り沿いにある広すぎる建物ゆえに、風景として当たり前すぎて中身を知ろうとしていなかっただけだ。近所の家や、ただすれ違うだけの人々に対して「そこに存在している」としか認識しない感覚に近かった。
中に入ると、三十人ほどの人たちが訓練を行っていた。これでも普段よりは少ない方らしい。
有名な英雄が私を連れて入ってきたことで、周囲の視線が少しずつこちらに集まり始める。
「みんな、訓練中に悪い! 今から隣にいる『次期英雄候補』のブランと本気で立ち合うから、少しの間だけ場所と時間を空けてくれないか!」
英雄が大声でそう宣言すると、訓練生たちは驚きと好奇心の入り交じった目をこちらに向けながらも、素直に中央の広いスペースを空けてくれた。
無数の視線に晒され、私は少しだけ緊張で喉を鳴らした。
「スタートの合図は、ブランからの攻撃で良いよ」
英雄の言葉に頷き、私は無詠唱で、少しだけ時間を掛けながら慎重に魔力を練り上げ、魔法の準備に入る。
初見殺しの奇襲を狙うのも手だが、それでは絶対につまらない。それに、私が風と氷の魔法使いであることは確実に知られているだろう。変に小細工をせず、今まで培ってきた戦い方に「あれ」を混ぜていく。
風と氷の魔法を、自身の物理攻撃の素早さを引き上げるためのサポート役に回す。そして、最近身につけた『自傷の手間を省く』技術。自身の体内に巡る血に意識を傾け、腕の血管から直接血を滲ませて、それを核にした氷を作り出し、空中に散布する。
血の混じった氷が乱反射を引き起こし、相手から見える私の姿を意図した方向へとわずかにズラす、錯覚の魔法だ。こうすることで、不必要に大量の血を消費する必要もなくなる。「最初からこうやればよかったんだ」と、自分自身で強く感心したほどの工夫だった。
「……っ!」
動き出した瞬間、一気に間合いを詰める。
ガキィン、と互いの武器が激突し、数秒間の武器同士の激しいぶつかり合いの末、互いに大きく後退した。
(いける……!)
英雄の顔に浮かんだ困惑と焦りの表情を見て、私は手応えを感じた。
しかし、結果は想定外だった。私の渾身の連撃は、彼の持つ盾と剣によって完璧に捌かれ、顔の皮膚を僅かに掠らせることしかできなかったのだ。
もう一度同じ戦法で仕掛けてみるが、やはり決定打にはならない。
(反射神経のバケモノなの……!?)
ラメのようにほぼ野生の勘だけで避けているにしては、動きが洗練されすぎている。長年の経験と卓越した勘が、視覚の錯覚を補っているのだと思われる。
気がつけば、相手は少し微笑んでいた。実力差ゆえの余裕なのか、それとも対戦相手である私を楽しんでくれているからなのか。
連撃の最中、私は正面からだけでなく真横からの死角を突くような攻撃も混ぜていたのだが、彼はそれすら平気な顔で捌ききってくるのだ。
再び後退した私は、思考を巡らせた。
(仕方ない。剣と盾を使えなくすればいい)
私は武器を真っ向から弾くのではなく、激しい撃ち合いのどさくさに紛れて、自分自身の体から生成した『血の氷の弾』を、相手の剣と盾に向けて直接放った。




