42話 停滞の終わりと、英雄への挑戦状
闇金の指名手配犯を捕まえてからというもの、私のギルドでの扱いは完全に「エリート」のそれになっていた。
顔見知りの冒険者や職員に適当に挨拶を返し、たまに見かける英雄たちとも同じように言葉を交わす日々。クロとラメは最初こそギルドへ同行していたが、最近は完全に気分次第。彼女たちがいない、私一人の時間も増えていた。
この一ヶ月間、私は数日に一回のペースで「指名手配犯や、私の復讐相手に繋がる情報が集まればいいな」くらいの感覚で、ちょっとした依頼を引き受けては淡々とこなしていた。
そんなある日、ギルドの受付で少し変わった依頼を打診されたのだ。
「簡単に言えば、英雄様たちが担っていた『都市の防衛巡回』と同じようなことを、ブランさんに代理でお願したいんです」
ギルドの受付嬢は、真剣な表情でそう切り出した。期間は最低でも一ヶ月。
話を聞くと、この都市の周辺に不定期で現れていた『異形の魔物』が、最近は珍しく姿を見せていないらしい。そのため、英雄たちは別の用事を行いたい、その間の都市の防衛を一時的に私に任せたいとのことだった。
原因はおそらく、一ヶ月以上前から広まっていたある「噂」だ。
亡くなったはずの英雄の一人、あの『ヒーラー』が、ここから少し離れた「リーズ」という街に現れたという話。ここ数週間はその騒ぎも少し落ち着いているようだが、英雄たちが動く理由はそれだろう。
(リーズ……たしか、クロとラメが巨大都市の前に滞在していた街よね)
クロの使う異常な回復魔法が、その英雄のヒーラーに似ている気がしなくもない。生まれや故郷が近いのだろうか? そういえば、ヒーラーの経歴や本名って何だったかしら。どうして名前ではなく「ヒーラー」としか呼ばれていないのだろう。孤児やスラムの出身だから? いや、仮にも英雄レベルの人間が名前を持たないなんて考えにくい。情報が少なすぎるし、深く考えても仕方ないか。
依頼自体は断る理由もない。だが、私の心の中に少しだけ「わがまま」な感情が芽生えた。
最近はクロラメという理不尽な化け物たちとばかり過ごして訓練や、野良の残党狩りなど、お世辞にも『戦い』とは呼べない一方的な蹂躙しか経験していない。英雄がこの都市を去る前に、自分の「今の実力」がどこまで通用するのか試してみたいと思ってしまったのだ。
「……少し、その依頼を引き受けるには自信がないんです。その……少しでもいいから自信を持ちたいので、出発前の英雄の方と、一対一での立ち合いをさせてもらえませんか?」
勝手な理由付けだった。受付嬢は目を丸くして少し驚き、判断に迷うように間を置いて考えていたが、意を決したように声を張り上げた。
「んー……っ、すいませーん、英雄さーん!」
なんと、飲食スペースにいた英雄を直接大声で呼び出してくれたのだ。普段の彼女からは想像もつかないレベルの大音量だったため、ギルド中の視線が一斉にこちらへ集まってしまう。受付嬢は「あ、やべ……」と気まずそうに照れ隠しの表情を浮かべ、私と目が合うとお互いに無言で苦笑いを交わした。
結果として、立ち合いの申し出は速攻で了承を得られた。
「最近は思い切り戦えていなかったしね。それに、君の最近の活躍を見てたら、なんか安心して引退しても良いかなって思ってたりしてさ」
相手をしてくれることになったのは、英雄四人組(アタッカー、サブアタッカー兼サポート、サポート、ヒーラー)のうちの、メインアタッカーを務める男性だった。剣も斧も盾も器用に扱う万能な前衛で、見た目は少し老けた四十代といったところだ。
勢いで提案してしまったが、戦う場所はどうするのだろうと尋ねると、受付嬢が「訓練所を手配します」と笑顔で案内してくれた。




