36話 血塗られた氷刃と、新たな渇望
時々、暇つぶしがてらに山奥でラメと私の訓練が行われる。
ラメの野生が勝って私の剣を噛み砕いてしまう事故が時々発生するため、予備の剣をいくつか持っていくのが定番になっていた。
よく私がラメにボコされる展開続きだったのだが、最近は変化が起きた。
私はこの訓練の中で、密かに開発した『血魔法』の応用を試していた。
元々使っている氷と風魔法の物理攻撃に混ぜて、自身の血で染めた氷の破片を周囲にばら撒く。通常、血を混ぜていない氷は重力に従って散乱し落ちて終わりなのだが、血を触媒にすることで一時的に空中に浮遊させておくことが可能になった。
血の量が少ないためほんの数秒だが、その血の氷を反射鏡のように使い、剣の軌道や私の立ち位置をラメに誤認させるのだ。
「あれ!?……あれ!? なんでそっちから!?」
私よりも遥かに素早いラメだが、視覚を騙すこの戦法には対応しきれず、被弾する回数が明らかに増え始めた。ラメはどう対策していいか分からず、悔しそうに唸っている。
後になって気づいたことだが、私の白髪と青い瞳が氷の保護色として機能し、ラメから見ると余計に私の動きが掴めなくなっていたらしい。
もっとも、この戦法はクロには全く通用しなかった。
クロを相手に試したところ、私がばら撒いた血の氷ごと、クロが『回復魔法』で他人の血(つまり私の血)のみを無効化し、消去してしまったからだ。
嘘だと思って思わず三回ほど試してみたが、結果は同じ。血の触媒をこっそり消され、ただの氷となってポロポロと地面に落ちるだけだった。
クロは直前にラメとの戦いを見ていたから初見ではないにせよ、こんな短時間で私の血魔法の仕組みを見破り、無力化したというのか?
帰宅して、ふと思った。日常の異常さにすっかり感覚が麻痺していた。
よく考えれば、いくら回復魔法を使いこなす凄腕の人間だとしても、体外に出た他人の血を『消す』なんて芸当ができるはずがない。おそらくクロが吸血鬼で、血という概念そのものを本能レベルで理解しているからできるのだろう。
やっぱり、クロは吸血鬼だ。
しかし……私の氷と血を利用した魔法が通用し、親の復讐が果たせるのなら、相手が吸血鬼だろうと化け物だろうと構わない。
◆ ◆ ◆
三週間の平穏な日常が続いた、とある日の夜。
私は、ブランから思いもよらない頼み事をされた。
「……クロ。私に、『血魔法』を教えてくれませんか?」
真っ直ぐに見つめてくる彼女の目と口調は、私が吸血鬼であることを完全に確信しているものだった。
私は一瞬驚いたが、すぐに合点がいった。
(……なるほど。あの時、彼女が血まみれで帰ってきたのは、自分で血魔法の実験をして死にかけていたからか)
人間の身でありながら、自らの血を触媒にして魔法に組み込もうとするその執念と適応力。リスクが高すぎるとはいえ、独学でそこまで辿り着いた才能は、流石は元ギルドのエリート候補だと言わざるを得ない。
「……本気? 死ぬかもしれないよ」
「構いません。回復魔法の教えも、引き続きお願いします」
回復魔法の適性は彼女にはあまり無いだろう。だが、血魔法ならすでに独学で形にしており、教えれば私も予想がつかないような使い方を見せてくれるかもしれない。
それはそれで、少し楽しみだった。




