33話 覚醒する血と、スラムの娘
私は、この奇妙な日常について深くツッコミを入れるのをやめてしまった。
夜の就寝時、大体は順番かラメ優先で、クロが私を抱きしめ、首筋から吸血しながら眠りにつく。
その習慣が完全に定着したせいか、私はある時、自分自身の体内に流れる『血の巡り』をはっきりと認識できるようになってしまった。
(……これ、絶対に吸血鬼の力だよね)
私は確信した。試しに、体内の血に魔力を込めてみると、驚くほど上手く馴染む感覚がある。理屈はわからないが、直感的に『やれる』という確信があった。
そう思い始めたある日、私は一人で人気のない山へ行き、ある実験を行った。
きっかけは単純な思いつきだ。クロがやり方不明のまま、念動力のようにナイフを飛ばしているのを見たからだ。直接的な連想ではないが、もし私が遠距離へ氷を飛ばす時、ついでに自分の血を付着させたらどうなるのか。
結果は、恐ろしいものだった。
魔物を相手に試してみたところ、流す血が少なければ超近距離でしか発動しない。しかし、大量の血を使えば、四、五十メートル離れていようが、刺さった相手の体内から直接氷を作り出し、心臓などの内臓を内側から破壊することができた。
絶大な威力と射程を誇るが、デメリットは『私が気絶で済めばマシ』なほどの異常な出血を伴うことだ。
風魔法で発射速度をフォローしているとはいえ、遠い相手に的確に命中させる必要がある。もし一発外せば出血量は二倍、次を外したら三倍。少し考えれば、あっという間に自分自身を死に追いやるレベルの代償だと分かる。
とても普段使いできる技ではない。
流石にまずいと思い、応急処置で止血をして帰路についた。道中、魔物が出ても返り討ちにする程度の余裕はあったが、体は限界だった。
帰宅後、血まみれで倒れかけた私を見てクロが驚き、すぐに回復魔法をかけてくれて事なきを得た。
その後、慣れない出血の疲れからベッドで横になりながら、私はふと我に返る。
(……自分の血を飛ばして、相手の体内から氷を生成するなんて。血魔法って呼んでるけど、これ、明らかに人間の技じゃないよね。私、一応人間なんだけど……。あれ、人間だよね?)
◆ ◆ ◆
別の日。
ラメが夜中に散歩へ出かけ、朝からガッツリ寝ていたため、私とブランの二人だけで、明るい時間の貧民街へ行ってみることにした。
特にやることもない、ただの暇つぶしだ。
道中、ブランがスラムの父娘のところへ、こっそり何度か会いに行っていたことを知った。
「お金をあげたりしてるの?」と聞いてみると、直接的な金銭ではなく、食べ物を差し入れたりしているらしい。
「支援するのは勝手だけど、自立できるようにさせないと、あの二人は一生依存して終わるよ。歴史の本にもそう書いてあったし」
私が淡々と割り切った意見を言うと、ブランも「まあ、そうですよね」と頷いた。あの闇金騒動の時、私が二人に食べ物を与えたのは、あくまで『後で利用するため』に元気をつけておいてもらう目的だった。無償の愛を与え続けるつもりなんて毛頭ない。
家に着くと、父親は日雇いの力仕事で不在だったが、娘が私たちを歓迎してくれた。
「お姉ちゃんたち、こんにちは!」
……明らかに元気だった。心配無用なレベルだ。
一応の無難な挨拶として、「何か痛みとか、具合が悪いところはない?」と聞いてみたが、本人は全く問題ないという。ブランが支援した食料と、近くの森(奥に行かなければ魔物はいない安全な場所)で果物や草を採ってきて食いつないでいるとのことだった。
(あの異常な儀式で、この子の中に黒いモヤモヤが入っていくのを見たけれど……)
少なくとも『肉体的には』、全く問題は起きていないようだった。
…そういえば関係ないと思うけど、雨の日や夜、青い人魂が高速で飛ぶとか街の噂で聞いたな…。なんかの魔法だろうと気にしなかったけど、本の物語でしか登場しない幽霊や怪異現象とか考えにくいし娘と関係性はないだろうし、やはり魔法が原因だと思うが…。




