30話 英雄の賞賛と、微かな救い
私は、指名手配犯の男を死なせない程度に、流れるように吸血した。
圧倒的な捕食者としての本能的な恐怖を心の底まで叩き込み、「私たちのことは一切話すな」と命じる。その後、その辺にあったカーテンや布団の布を重ねて引き裂き、三人の手足、耳、そして口を厳重に拘束・封鎖した。
「ブラン、ギルドに行って『指名手配犯を捕らえたから来てくれ』と伝えて。後始末は全て任せる」
ギルドの人間がここに着くまでに、おそらく一時間から一時間半はかかるだろう。
私たちはギルドにバレない程度に、金や副産物を回収しておく。必要な情報はすでに私の頭の中にあるので、現場の書類は分かりやすく、かつ不自然ではない棚や机の上に並べ、ギルドの人間がすぐに見つけられるように偽装しておいた。
「じゃあ、ラメ帰るよ」
私とラメは回収した金を持ち、一足先に家へと帰還した。
私は、ギルドの職員たちと共に闇金のアジトへと戻ってきた。
すでにクロたちの姿はない。軽く金などの金品が持ち去られた形跡はあったが、私は知らないフリを貫いた。
「これは……見事な手際ですね」
ギルドの職員が、手足や耳、口を布で完璧に拘束された三人の男たちを見て感嘆の声を上げた。
私がこれら全てを一人でやった設定にするには、ちょっと無理がある気がしたが、職員は深く突っ込んでこなかった。顔が見える状態で生け捕りにされているだけで、彼らからすれば大金星なのだ。
ふと振り返ると、ギルドの職員と一緒に、あの『元・英雄四人組』のうちの二人が念のために同行してくれていた。
「一人でこれだけの悪党を無力化するとは。君、見事だったよ」
憧れの英雄から、素直な称賛の言葉をかけられる。……嬉しい。素直に嬉しいが、真実を知っている私の胃のあたりが、罪悪感と奇妙な優越感でチリチリと焼けるようだった。
「後の処理は任せてくれ。明日にでも報酬を受け取りに来るといい」
彼らの言葉に甘え、私はアジトを後にした。
帰宅する前に、一応スラムの父娘の家に寄っていくことにした。
父親は看病の疲れからか、ベッドの傍らで寝落ちしていた。だが、娘は少しだけ目を開けていた。
「あ、お姉ちゃん……。ありがとう」
彼女の焦点はまだ少しうつろだったが、「もう痛みはないみたい」と弱々しく微笑んでくれた。その言葉に、私は少しだけ安心して帰路についた。
家に帰ると、クロとラメはすでに同じベッドで寄り添って寝ていた。
昨日と同じ光景だ。
(やっぱり、吸血鬼と獣人の性質が混ざってるんだな……)
少しだけ観察した後、私は両親の部屋のベッドに倒れ込んだ。怒涛の疲労がどっと押し寄せ、泥のように眠りに落ちた。




