29話 呪いの残滓と、闇金狩り
スラムの家に戻ると、五人が再び集まった。
意識を失って横になっている娘を父親が看病し、ブランが氷魔法で熱冷ましのようなものを用意して当て、心配そうにしていた。
私はとりあえずの現状確認として、全員に報告を行った。
「闇金のアジトはまだ手をつけていない。でも、娘を買い取った施設は明らかに異常だった。娘がこうなった元凶のボスは瞬殺したけど、現場には金も情報も、びっくりするぐらい何も無かった。とりあえず、『苦しみを背負って天国へ』とか、意味の分からないことを唱えていたね」
報告を終えた後に、念のため娘に再度回復魔法をかけてみる。
先ほどは考えることが多くて気が回らなかったが、どうも回復魔法の『手応え』が――気のせいかもしれないが――薄い気がする。呪いのような得体の知れないものには、肉体を修復する魔法は効果がないのかもしれない。
それでも、娘はとりあえず静かに気絶したまま、安静な状態を保っていた。
なので、とりあえず問題は無いだろう。
ふと、異形化の魔物の噂や、実力のある英雄が都市に滞在しなきゃいけないという話を思い出した。
噂が指し示していた場所は表の街辺りからスラム街の奥だったはずだが、先ほどの邪教崇拝の連中がいた場所は、そこから『直角を半分に割った方角』へと逸れていたのだ。
だが、今優先すべき思考は、そんな非現実的な噂よりも現実的なことだ。
「まだ夜も始まったばかりだし、闇金の連中に逃げられても面倒だ。三人で速やかにアジトに向かう」
方針を決め、私たちは再び夜の街へと出た。
闇金のアジトに到着し、気配を探る。中にいる三人は二階に集まっているようだ。
「もし逃げられた時は、二人は外で仕留めて」
そう指示を出し、私は一人で裏口へと回った。
ドアを無理矢理こじ開けようとしてるところを人に見られても困るので、物陰から宙に浮かせたナイフを血魔法で遠隔操作し、ドアの鍵部分のすぐ横に限りなく音を最小限にして穴を開ける。その穴から手を入れて内側から鍵を開け、いつでも応戦できる状態で静かに侵入した。
足音を消して二階へと上がり――一瞬で制圧した。
三人同時の対面。一人当たり三本、計九本のナイフを血魔法で同時操作するのは少し疲れるが、短時間ならやった。直後、少々視界がぼやけた気がしたが、もうやる事は終えている。
殺してはいない。だが、三人の男たちの口内には、悲鳴を上げる暇も与えずナイフを深々と突き刺し、同時に肩と膝の四箇所を素早く刺し貫いた。拷問のためだ。あとは関節を狙う事で確実に行動不能にし、しっかり縛るまでの時間稼ぎをするという対策であったが、結果は狙い通りだった。
安全と人数の確認を終え、ブランとラメを招き入れる。
ブランは男三人を睨みながらもちょっと引いている様子だが、まあいい。
「金や情報の回収はお願い」
ラメも笑顔で頷いた。
二人にそう指示を出し、私は床で苦悶する男たちの口からナイフを抜き、拷問を開始した。
しばらくして、ブランが書類から見つけ出した最低限の情報と、私が拷問で吐かせた情報を照らし合わせる。
どうやら、この下に部下の部下みたいな末端が十人ほどいるらしい。見つけたら狩るが、ダメなら放置でもいい。この三人が消えれば、どっちみちこの組織は壊滅すると確信していた。
何故なら、この男たちの中に、ギルドの『指名手配犯』の一人が混ざっていたからだ。




