24話 歪な同居と、夜の散策
森から街の家へ帰ってきたのは、夕方から夜に差し掛かるタイミングだった。
食事は適当に買ってきて済ませることにした。本来ならこの街の住人であるブランに買い出しなど全て任せたいところだが、まだ彼女のことを完全に信用してはいない。逃げられたりしても面倒だ。
「先帰ってて。適当に食べ物買ってすぐ戻るから」
二人にそう告げ、私は一人で適当な食べ物を調達してから家に戻った。
家に着くと、ブランは先にお風呂に入っているようだった。
その間に、私とラメは買ってきたものでさっさと食事を済ませる。それと、ブランのために代わりの剣を用意しておくことにした。ラメの予備用として持っていた三本ほどの剣を、床に並べておく。
やがて、お風呂から上がってきたブランに声をかけた。
「剣、壊れちゃったし。その中から適当に持ってって」
「……はい。ありがとうございます」
ブランは素直にそう答えると、ニッコリと、なんだか不気味な笑顔を浮かべて三本の中から一本を選んでいった。
昨日まで見せていたエリート候補としてのプライドや、得体の知れない私たちへの怯えはどこへやら。あまりの極端な変化に、私は彼女の後ろ姿を見ながら思わず首を傾げた。
まあ、反抗されないならそれに越したことはない。
まだ寝るには早い時間だし、少し暇だったので、街の表の様子を軽く見て回ることにした。
私が外に出ようとすると、ラメもブランも当然のようについてくるらしい。今日は特に大きい買い物をする予定も、人を狩る予定もないが、まあいいだろう。
ここは巨大都市だ。夜の早い時間帯であれば、小さい子供が出歩いていてもそこまで不自然ではない。
今日は店をメインに回ることにした。
たまたま目に付いた新聞や本、ついでに寝心地の良さそうな枕を買う。服も、中古品や店の端でひっそり扱っているような目立たないものを、一つの店でまとめて買わず、複数の店で少しずつ買い集めていった。足がつかないようにするための基本だ。
そして、金銭のやり取りをするタイミング――店主が利益を得て最も心を許す瞬間を狙い、さりげない会話から情報収集を行う。
「おじさん、ありがとう! そういえば最近、この辺りで変わった事とかあった?」
その場の店員や店の雰囲気に応じて少し言葉を変えつつ、探りを入れてみる。
「んー? そういえば、夜中に変なローブ着た連中が山に歩いてるって噂は聞いたことあるな」
「あっちの方(スラム方面)でたまに変な魔物が現れると噂だから、気を付けなよ、嬢ちゃん」
「指名手配犯と繋がってる商人がいるらしいからワシらも警戒してるのよ。見分けつかんけど」
「有名な英雄三人組が、なんか昼から疲れた表情してたぐらいかな?」
「あの辺は物価が高くなりがちなんだよね」
「あっち側の山(スラム方面)は、なんか変な噂を聞くね」
相手からすればただの世間話や日常会話のレベルだが、私にとっては十分な情報源だ。都市の空気感や、人々の関心がどこに向いているかが分かるので欠かせない。
それにしても、明日の件に「もしかしたら関係あるかもしれない話」があった。それを頭の片隅に置いておく。以前奪った商人の書類には、時期が不安定ながらも『割と強い異形の魔物が時々現れる』とあり、それが『特に強い英雄が滞在しなければいけない理由』になっていると記されていた。
家に戻ると、寝ても良い時間になっていた。
三人で集まって軽く荷物を整理した後、明日の夜にやるべきことを整理しておく。
目的は、貧民街の父娘の元へやって来る『闇金・悪徳教団』の取り立て人を尾行し、彼らの住処や拠点を特定すること。
素直に連れ去られる予定の娘については、「人身売買の類なら、商品価値があるうちは殺されないだろう」という合理的な判断から、その場ですぐに助け出したりはせず、猶予があると見做して泳がせる。その間に、闇金の正体や住処の情報収集を重点的に探る方向性でまとまった。
行動中は、ブランを含めた三人全員がフードなどを被り、身なりを隠して動く。
ただし、ブランは裏社会の仕事や隠密行動が得意かどうか未知数だ。エリートの魔法剣士とはいえ、尾行で足手まといになっては困る。
そのため、万が一に備えて、ブランはあの父親と一緒にスラムの家に残る(護衛兼見張り)ことになった。
私とラメの二人で、娘を連れ去る闇金の連中を尾行する。状況次第では、私がラメにアドリブで指示を出すかもしれない、という方向で全体の作戦が決定した。
「では寝ようか」
私の言葉で、奇妙な三人の共同生活の、二日目の夜が更けていった。




