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この世界の悪は、吸血鬼の小銭稼ぎにすぎない 〜無慈悲な治癒魔法と血の刃で、獲物を捕食する〜  作者: アム


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13話 都市伝説の歩き方と、森に隠れる木

街に広まった『魔王の噂』は、思っていた以上に厄介な弊害をもたらした。

正体不明の存在を恐れた武装した連中が、昼夜を問わず巡回を大幅に増やしたのだ。おかげで夜の活動すらしにくくなり、適当な野良狩りすら難しくなってしまった。


まあ、それに関係なく元々狩るかどうかは悩んでいた。教会の毒のせいか、この街の悪党の肉は焼いても不味かったのだ。もはや金目の副産物くらいしか価値がない。


それに金は沢山あるから、焦ることもない。

裏が使えないなら、表で動けばいいだけの話だ。

私はラメと共に、どこにでもいる『ただの可愛い町娘』に変装し、堂々と明るい街中へ食べ物や本、新聞などの買い出しに出かけた。

大人たちが血眼になって『元英雄のヒーラー』や『魔王の影』を追って巡回する中、まさかその元凶が、笑顔で買い物をしている小娘だとは誰も思わない。


私は平然と拠点の家に戻り、次の行動の算段を立てた。

荷物を整理し、邪魔な金品は現金化したが、一つだけ扱いに困るものがあった。教会のトップから奪った、国を動かしかねない機密書類の束だ。

一つ目の街から二つ目の街へ、何となく色々持ってきてしまったが、流石に邪魔すぎる。かといって道端に捨てれば、後で面倒な追跡を招くのは明白だ。

商人の裏情報は信用できるし、後で確認することもあり得るから持っていくとして、それ以外の書類はもう捨ててしまいたい。


(……どこか、適当な機関に押し付けておけば、勝手に処理してくれるだろうか)


例えば、拷問で調べても悪い噂が全く出てこなかった『冒険者ギルド』。そこの奥の方にこっそり置いておけば、彼らが勝手に正義感を発揮して何か行動してくれるかもしれない。そんな無責任な計画を実行しつつ、私は次の目的地を巨大都市へと定めた。


理由は三つ。

第一に、隠蔽。人がゴミのように多い巨大都市こそ「木を隠すなら森」であり、私たち姉妹が潜伏するのに最も適している。

第二に、先回り。書類にあった『英雄四人組』がその都市を拠点にしているなら、後で嗅ぎ回られる前にこちらから状況を把握し、邪魔なら先に処理した方が効率が良い。

第三に、利益。最大規模の街なら、狩るべき悪党も、手に入る資金も副産物も豊富だ。

逃げた商人も、おそらくは地図的にその街に向かっているだろう。見つければ、また都合よく使えるはずだ。


移動には、最高級ではないが高級な乗り合い馬車を選んだ。

乗客は私たち以外に二人。合計四人の少人数制で、最低限のカーテンで仕切られたプライベート空間が確保されている。食事や睡眠の質も高く、これなら五日間の旅も苦ではない。


道中、馬の休憩時間などに、護衛も兼ねている三人の馬車スタッフにさりげなく話を聞いてみたが、特に有益な情報はなかった。ただの世間話に終始する、穏やかな日常。

なんとなく、彼らもプロという仮面を被って知らないふりをしているような気もしたが、表情や言葉の誤魔化しが上手いのか、それとも本当に素なのかは掴めなかった。まあいい。


だが、その裏で『魔王再来』の噂は、既に三つ目の巨大都市へと伝播し始めていた。


私の中に眠るヒーラーの力と、隣で無邪気に菓子を食べるラメの野生。

因縁の『四人組』が待つ巨大都市へ向け、馬車は静かに走り出した。


私たち姉妹が知ることになるのはだいぶ先の話だが。

この街の数年後は、ヒーラーの都市伝説だけが一人歩きし、『回復魔法を勉強するならこの街』と言われるレベルで発展することになる。


どうやら、無償でスラムの人々を回復して回った正体不明の『救世主』に憧れ、その道を志した者が数人いたらしいのだ。


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