11話 無差別な治療と、教会のマッチポンプ
新しい街『リーズ』での最初の数日は、適当に街をぶらついて状況を確認することに費やした。
歩きながら、わざと少しだけ金目のものを手に持ってさり気なく主張する。視線を感じたら、あえて人通りの少ない裏路地へと誘い込む。誘拐や強盗を企む手頃な悪党を釣って、街の餌や副産物を確保するついでに、情報を探るためのいつもの手口だ。
街を観察して分かったことがいくつかある。
まず、表の街にいても、やたらと軽い病気を患っている人間が多いこと。そしてスラムの方へ行くと、それが重症化して寝込んでいる者がちらほらといることだ。
また、この街の一部の人々――特に老人などには、獣人に対する差別意識があるらしい。私たち姉妹を見て、分かりやすさに差はあれど顔をしかめる者がいた。実害はないのでどうでもいいが、無駄な摩擦を避けるための立ち回りには多少影響するかもしれない。
釣った小悪党たちは、ラメの初参戦の続き(チュートリアル)の相手として利用した。
私はいつでも助けに入れる位置取りをしながら、彼女の戦いを見守る。一対一であれば、狼の身体能力を持つ彼女が圧倒しており、今のところ全く問題はない。
だが、魔法を使わず物理的な攻撃のみで戦う以上、『手数の暴力』にはどうしても限界がある。もし実力者二、三人に囲まれたり、連携されたりすれば、いくら身体能力が高くても流石にマズいかもしれない。万が一の事態に備えて、私が常にバックアップできる状態にしておくのが最も効率的で安全だ。
数日かけて街の軽い状況を実際に見て把握した私は、前の街で商人から受け取っていた情報も踏まえ、確信を得るために『病』の正体を探ることにした。
夜の暗闇に紛れてスラムへ赴く。この時は獣人差別による面倒事を避けるため、フードで顔と特徴を隠して動いた。
重症化している者たちに無詠唱で回復魔法をかけ、無差別に治療して回る。もちろん善意などではない。治療という名の『実験と情報収集』だ。
結果として、病の正体が判明した。
これは魔法的な『呪い』などではなく、意図的に作られた『物理的な毒』だ。体内の至る所に不純物が詰まり、不調を引き起こしているに過ぎない。
原因が物理的なものだと分かれば対処は簡単だ。私は回復魔法を応用し、体内の毒を物理的に洗い流すことで、あっさりと症状を消し去ってやった。
そもそも、回復魔法で病や怪我を治すには、対象の構造知識と症状の理解が必須だ。
だから私はこの街に着いた当初、最も手早く構造を理解する方法は『解剖』だと考え、釣った悪い奴を実験台にしていた。
幸い、この街もスラムのすぐ近くに山があったため、拷問のついでに適当な悪党を連行し、生きたまま所々を斬り開いて内臓の様子を観察して確認したのだ。
治し方を理解するために試行錯誤したが、一回目の実験体は上手く治せなかった。
私はその日、適当に切り分けて食べられる肉だけを持ち帰り、食事をして睡眠を摂った。そして頭をすっきりさせてから、商人の情報を改めて確認し直した。(ちなみに持ち帰らなかった残りの部位は、山の魔物が勝手に食べるから後始末の問題はない)
最初から毒(不純物)が原因だと分かっていれば、内臓を最優先で確認してすぐに解決したかもしれない。だが、既存のよくある症状を疑って見当違いの試行錯誤をしてしまった。結果論から言えば逆の手順を踏むべきだったが、まあこの程度のロスは誤差だ。
見返した商人の情報の中にあった「なんか最近、水が不味くなった気がする」という住人の噂。最初はサラッと流してしまったが、念の為に疑ってみたら、見事に正解だったという訳だ。
治療のついでに、意識がはっきりした者たちから聞き出した話や、夜の裏路地で集めた情報から、点と点が繋がった。
『教会の人間らしき怪しい姿の者が、夜な夜な裏路地に入っていく』
『教会の者が、街の水源に何かをばら撒いていた』
『何者かは分からないが、フード姿の大人も一緒に入っていった』
そういった目撃情報がスラムの底辺で囁かれ始めたのが、今から約半年前。そして、この街で病が流行り始めたのも、ちょうど半年前からだ。
なるほど、実に分かりやすい。
教会自らが水源に遅効性の毒を撒いて病人を量産し、それを自分たちの力で治癒して見せることで、信者の獲得と莫大な金を集めているのだろう。
まさに、私が馬車の中で新聞を読んだ時に推察した通りの『マッチポンプ』だ。
真相を知らないとはいえ、末端の信者や下っ端の味方すら病に巻き込む前提のやり方。とても人間のやることとは思えないな。
その時はまだ準備段階だったので私は特に行動を起こさなかったが、噂の裏路地へ入って行く教会関係者やフードの人物の姿は、私自身も偶然確認した。
「もう少し上手く隠せばいいのに」と呆れたものだ。
この街の住人の二割が信者であるため、至る所に教会の服装をした人間がいること自体に違和感はない。教会の服装は男女ともに何種類かあるが、一番分かりやすい共通点は『首飾り』だ。
街の住人の私服なのか教会の服なのか迷うこともあるが、正面から首元を一瞬見さえすれば判別できるのは助かる。
街の治安や人々の健康を守るふりをして、裏で自作自演の悲劇を作り出し私腹を肥やす、腐敗した教会の連中。
新しい街での『美味しい餌』は、どうやら決まったようだ。
――それと、後になってから分かったことだが。
この時、私が取った行動は少し『悪手』だった。
この世界には、私の知らない回復魔法の技術や知識が存在している。その事実を思い知らされるのは、ここから数ヶ月後のことだ。




