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この世界の悪は、吸血鬼の小銭稼ぎにすぎない 〜無慈悲な治癒魔法と血の刃で、獲物を捕食する〜  作者: アム


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10話 馬車での暇つぶしと、新しい仮拠点

目的の第二の街までは、乗り合い馬車で約一週間の距離だ。

その手前にある小さな宿場町で降りる予定だが、そこまでの約六日間、私たち姉妹は馬車に揺られることになった。


道中の管理は実に行き届いていた。中継地点の村などで定期的に休憩時間が設けられており、食事の用意や用を足すことなどはそこで全て済ませられる。自分で生活の手間を考える必要がなく、余計な体力を使わずに済むので非常に効率がいい。


馬車の中でのラメは、初めて見る外の景色にいちいち目を輝かせ、窓に張り付いてはしゃぎ回っていた。しかし子供の体力だからか、あるいは獣人の本能なのか、疲れると唐突に私の膝によりかかって、無防備に寝落ちする。

「……重い」

口ではそう言いながらも、わざわざどかすのも面倒なので、適当に膝枕をして介抱してやる。体温が高くて湯たんぽ代わりにはなるから、まあ許容範囲だ。


私はこの間、事前に買っておいた本を読んで暇を潰していた。

途中、たまたま乗り合わせた同乗者が、新しい街の周辺情勢が書かれた最新の新聞を読んでいるのを見つけた。読み終えたタイミングを見計らって声をかけ、相場より少し高めの値段を提示してそれを買い取った。

相手はちょっとした小銭が手に入って喜び、私は新しい街に着いてからわざわざ情報屋を探す手間を省ける。時間と労力をお金で買ったと思えば、安い投資だ。


買い取った新聞の紙面には、いくつかの大きな見出しが躍っていた。


『「モンタ」指名手配犯壊滅! ここ数十年で一番の平和!』

『「リーズ」流行り病蔓延か? 症状軽微だが注意!』

『「ヴィルシテ」謎の異形の魔物また現れる、英雄三人が撃破!』


そういえば、自分がいる街の名前など今まで全く気にしていなかったが、軽く確認しておこう。

私たちが先ほどまでいて、悪党を根絶やしにした街が『モンタ』。そしてこれから向かうつもりの、悪い噂が絶えない街が『リーズ』というらしい。


記事によれば、リーズはモンタより少し小さい街だが、住人の二割ほどが教会の信者で占められているという。

そして、蔓延しつつあるという『流行り病』。どうやら医者の治療や一般的な回復魔法では治らず、なぜか『教会だけが治せる』らしいのだ。


……そんなものが偶然であるわけがない。以前、本で過去の歴史を調べた時にも、全く似たような事例があった。

十中八九、自作自演で病を撒き散らし、信者と利益を集めている『美味しい餌(悪党)』がそこにいるはずだ。


(……まあ、街の名前自体は覚えるのも面倒だし、すぐに忘れてもいいかもしれないが)


目的の街の手前、小さな宿場町で馬車を降りた私たちは、すぐに街へは向かわず、近くの山へと足を踏み入れた。


事前の情報と匂いを頼りに、目星をつけていた手頃な山賊の住処を見つけ出すと、すぐさま強襲をかける。


「ラメ、やってみて」


これはペットにとっての初陣――実戦形式のチュートリアルであり、同時に移動で減った腹を満たす『お食事』の時間でもある。


ラメの戦い方は、狼の獣人特有の圧倒的な素早さと、膂力に任せた力押しだった。私のように血魔法でナイフを複数精密操作するような、頭を使う複雑な戦い方は彼女には向いていない。

その結果、彼女の戦闘スタイルは『普通の町娘の服に、護身用の剣を腰に差す』という形に落ち着いた。隠し持つようなことはやめ、堂々と剣を装備することにしたのだ。

昔、親が「昔は平和だったから、子供が剣を持つなんてあり得なかったのに」と愚痴っていたのを思い出す。だが、前の街でも武装した子供は割といたから、今の時代では珍しいことではない。

いざとなれば、獣人の力で剣ごと相手を叩き割る。シンプルだが彼女の適性には合っているし、何より悪くない。


実は山賊と戦う前、人気のない場所で事前にラメと軽く手合わせをして、実力を見せてもらったのだ。お互いの手札を知らなければ連携も何もないからだ。

ラメは人間が使うような剣術の型などは皆無だったが、不思議なことに体が勝手に動くらしい。「こうしたい」と思えば、本能がその通りに体を動かしてくれるのだという。

獣人にそんな特性があるとは聞いたことがない。特に驚いたのは、彼女が唐突に『口に剣を咥え、四肢を使って素早く間合いを詰める』という獣そのものの動きを見せた時だ。

初見の相手なら、間違いなく意表を突かれるだろう。


そして、本番の山賊たちもやはり同じ反応をした。

あっという間の出来事だった。私が二人、ラメが一人を仕留めた。私は常に手助けできる範囲で控えていたが、その必要は全くなかった。

一対一の何でもありの戦いなら、ラメはもう十分に単独で通用する。正面からの突撃なら、私よりも早く先手を取れる可能性すらある。

(……少し、うっかり首を切っちゃったみたいだけど)


うん、明らかに異常だ。

やはり、私が衝動的に『吸血鬼の血(魔力)』を与え続けたせいなのだろうか?

少しだけそんな考えが頭をよぎったが、一旦優先すべきことが多いので忘れることにした。


残った二人の山賊を捕らえ、次の街の裏情報を少しばかり自白させた後、綺麗に空になった住処を一時的な『仮拠点』として確保した。これで宿代も浮く。実戦形式のチュートリアルと拠点の確保、一石二鳥だ。


仮拠点にいない時間は、二人で第二の街へと下見に出かけた。


街の構造を把握するついでに、山賊から自白させて掴んだ『適当な野良の悪い奴』を狩ることにする。

まずは複数人いるターゲット候補のうち、手頃そうな男の家を探る。彼が夜に家から出るところを少し離れた場所から監視し、その際、男が家の鍵を服のどこに隠したかまでしっかりと視認しておく。


あとは簡単だ。

男が歩く予定の裏路地で、『小さな女の子が一人で、金目の物をさりげなく主張しながら歩いている』というシチュエーションを作り出し、誘い出すだけだ。

これで釣れて、人気のない裏路地までついて来るなら『悪い奴』確定。もし釣れなければ勘違いか、ただの鈍感。その時は別のターゲットに移るだけの話だ。


結果として、男は下心と欲を丸出しにして釣れた。

彼が路地裏で私に手を伸ばそうとしたその瞬間、死角から血魔法でナイフを放ち、一切の音を立てさせずに瞬殺した。


先ほど確認しておいたポケットから鍵を回収する。まだ慣れていない街なので、死体は路地裏の物陰へ適当に隠しておき、男の家へ堂々と侵入した。

めぼしい金品や換金できそうなものは回収できた。街の相場や勝手が理解できたら、後で売却することも考えよう。


ちなみにこの間、ラメには視線の通る人がそこそこ多い場所で待機してもらっていた。予測不能な事態を避けるための安全確保だ。


事前の情報収集、そして無駄のない回収。

新しい街での立ち回りも、最初から完璧に最適化されている。


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