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Recollection-87 「夜というドレス」




雪は消えて新たな草木を芽吹かせるため地へと還る。


寒さは残るが徐々に季節は移り変わる。


コーポリス国北部国境より更に遥か北、カプット国側山岳地帯の森林部。


夕暮れ前、人里離れた、とても人など住める環境にないその場所に『彼等』はいた。



ザッザッザッ、、、



「兄さん、ここにいたのか。」


30代前後であろうか、頭頂部で赤い髪を束ねた灰色の瞳の彼は、高い木の上を見上げる。



そこには太めの木の枝に身体を横たわらせ眠っている男がいた。


少し長めの赤髪が逆立ち、無精髭で灰色の瞳、40半ば位の男は何も言わず目を覚まし、木から落ちる様に降りた。



ッ、、、。



かなりの高さから彼が地に降り立ったにも関わらず、不思議と何も音がしない。まるで実体がない様な、、。



「兄さん、兎獲ったよ。」


「ありがとうなツヴァイフ。(さば)いて食べようか。」


2人はそう言うと、近くにあった小川まで向かう。



まだ冷たい川の水で数羽の兎を洗いながら、近くの手頃な岩の上で捌く。2人とも短剣を使い捌くが手慣れた様子だ。


ツヴァイフは一通り作業を終えると周りを見渡し広葉樹(こうようじゅ)を探す。丁度良いカシの木を見つけ、枝を拾う。



(少し、足りないな。)


更に周りを見渡し、日当たりの良い場所に生えているカシの木の元まで行くと、彼は腰に携えていた両刃の短剣を抜く。



ドンッ!



カカッ!カッ!


ササァン、、、


その場で高く跳ね上がり、手頃な太さのカシの木の枝を短剣で切り落とす。



(、、、よし、十分だ。)





シュッシュッシュッ、、


もう1人の歳の離れた兄であろう男は小型の剣で木を削り長めの串を作る。それに兎肉を刺し、地面に刺していく。


更に拳大の石を集め積み上げる。上から見るとCの形だ。即席の焚き火の為の風除けと言った所か。


そこへ戻ってきたツヴァイフが石で出来た風除けの中に薪をくべ、腰に携えた木筒を取り出して薪に少量かける。火を着けやすくする為の油だ。


それを見ていた兄は胸元から仄かに黄色がかった石を取り出す。パイライトとも言う黄鉄鉱(おうてっこう)で火打石に使う。


小型の剣でパイライトの表面を削る様に擦り付け火花を出して油に引火させ、細い枝から燃やして火を大きくしていく。


2人は野営の経験が多く慣れている様子だ。兄弟だからなのか、阿吽の呼吸で手際良く作業を進める。


火も安定し始めた所で兄が胸元から別の小瓶を取り出す。荒挽いた黒胡椒が入っており、それを少しずつ兎肉に振りかけていく。


それらを火の側の地面に刺し、熱が通るのを待つだけだ。



「兄さん、飲む?」


ツヴァイフは別の木筒に入った酒を兄に勧める。


「!、、、何から何まで悪いな、、。今日どうしたんだ?気前が良すぎるぞ?」


兄は木筒を受け取り一口だけゴクリと酒を飲む。


「今日、誕生日でしょ。」


「!、、、忘れてた。歳取ると気にしなくなるんだよ、、。ま、ありがとう。、、、て事は、ニヒゼルと、、、」



「、、、時が経つのは、早いね。」



1月23日。この日は3人の誕生日だった。


ツヴァイフの兄。


「ニヒゼル」と呼ばれる者。


そしてもう1人。





パチパチ、、パチ、、


焚き火はその炎を2度と同じ形にはせずに燃え続ける。もう2度と同じ炎は見られない。


それを眺める2人。





もう一口酒を飲むと、兄は歳の離れた弟に木筒を返し言う。


「お前も飲めよ。、、、弔い代わりだ。」


「兄さん、俺下戸(げこ)だけど、、。」


「じゃあ、何で持ってるんだよ?」


「、、、確かに。何故だろう?」


そう言いながらもツヴァイフも一口酒を飲んで空を見上げた。誰かを想っている様にも見える。


もう2度と同じ炎の形は見られないのと同様、もう2度と会えない人、、。





「姉さん、怒るかな?」


「、、、わからん。ま、喜びはしないだろうな、、。お前、今ならまだ間に合う。降りてもいいんだぞ?」


兄は歳の離れた弟にそう促す。



「、、、いや、やるよ。」


「、、、そうか。きっと俺達()()がやろうとしている事は盛大な自己満足。、、それでもか?」


「、、ああ。ニヒゼルさんにも世話になったしね。」


そう言いながら、下戸なのにもう一口酒を(あお)るツヴァイフ。




パチ、、パチパチ、、、


焚き火は炎を踊らせる。いくつもの炎が折り重なりながら楽しそうに踊っている様で、どれだけ眺めていても飽きない。


太陽は遥か彼方へ眠りに着き、夜が彼等を迎えにくる。


焚き火の炎は2人を闇の中、橙色に浮き立たせる。



「ほら、兄さんも。」


再度木筒を兄に渡す。



「ああ。それにそろそろ食い頃だぞ。食べよう。」


そう言うと兄は地面に刺してあった串を取り弟へ渡す。


ツヴァイフは一口兎肉を頬張ると少しだけ笑顔を見せた。



「!、、兄さん、美味い。」


歳の離れた兄も串を取り頬張る。



「!、、、美味いな。俺達の故郷の兎が1番かと思ってたが違うよな。海を渡って来た甲斐があった、、、かな?またニヒゼルに胡椒貰っておくか。」


「、、だね。そうしよう。」



2人は焚き火を見ながら兎肉を平らげていく。



ただ、2本は食べず地面に刺したまま置いてある。



それはまるで誰かに供えているかの様だった。





(「太陽が眠った後、空は星屑の宝石をちりばめた夜というドレスを着て、首飾りに『月』を選んで踊るのよ。なんてね⁉︎、、、ありがとう、ワンダ兄さん、ツヴァイフ!」)




2人は、アンイースが誕生日にプレゼントされたドレスを着て恥ずかしそうにそう言って踊っていたのを思い出していた。




それは、遠い遠い、2度と戻れない時と場所、、、そして蘇る記憶の中の彼女はあの頃の若いまま、、、。












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