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人生無計画の方が楽しいよ

 ジャージから着替えて、緋那がリビングに戻るとココアを美味しそうに飲みながら勝手にテレビをつけて情報バラエティを楽しそうに見ている優がいた。


(こいつ・・・・・・俺よりもくつろいでないか?)


 内心でその様子を見て不満に思いながらも、飲み物を用意してテーブルの上に置いてある菓子パンの1つを手にとってソファに座った。

 昨日のうちに自分の朝食用に2つ買っておいたのだ。

袋を開けて、パンを一口囓る。


(うっ……)


 凄く視線を感じる。

 具体的に言うと、手元ーーーパンを物欲しそうにガン見する優。


 とてつもなく気まずい。そして、食べずらい。

 どこか気まずい(一方的に緋那が思っているだけだが)空気が流れ始めた頃、優の視線が机の上にあるまだ手のつけられていないパンに移った。


 そして、目を輝かせながらパンに手を伸ばす。


「ちょっと待て!!それ俺の朝メシ!!」

「別にいいじゃん。ひなた1つ食べてるしー。私、走ってここまできたからおなかすいてるの」


 そう言って、緋那が止めるのも聞かず、袋を開けてパンに食らいつく。


「おいしい」


 緋那が叫びながら文句を言うが、優はにこにことそれをすべて無視しながら、休む事なく口を動かして、もぐもぐとパンを食べ続ける。

 半分ぐらいまで食べ終わると、不意に食べるのをやめて、緋那をじーと見た。

 パンを食べ終わり、2つ目を食べられず物足りなさを感じていた緋那は優の視線に気づき身じろいだ。


 嫌な予感がする。

 緋那の考えを読み取ったように清々しいほどの無邪気な笑顔を浮かべている。


「ひーなった。今日暇だよね?1日付き合ってもらおうか!!」


 パンを片手に持って立ち上がり、びしっと緋那を指差す。

 パンがあるからか、玄関先と同じポーズだが、どこかまぬけに見える。


「勝手に決めつけんな……」


 まぁ、暇だけどと、小さく付け加えながらあからさまに嫌そうな顔をする。

 そんな緋那を優は「ふふーん」と得意気ににやついいた。


「私にそんな口を聞いていいのかなー?小さい頃太陽になりたかった望月緋那くーん?」

「……は?」


 何を言ってんの こいつ!?

 わけがわからず首を傾げる緋那に、優は自信満々に「えへん」と胸を張る。呆れたようなめで見られてるが気にしない。  「 じゃじゃーん」と口で効果音を言いながら机の上に食べかけのパンを置き、机の下からなにか大きな本のようなものを取り出した。


 それは幼稚園の卒園アルバムだった。


「……その卒アル、わざわざ家から持ってきたのか?」

「うんや、ひなたが着替えに行った時に見つけただけだよ」

「勝手に他人の家を捜索すんな!!」

「で、」


 緋那の言い分を綺麗に無視して、優は楽しそうに言葉を紡ぐ。


「そこに“大きくなったら?”ってのがあって、なんとひなたのところには“太陽”って書いてあったのだ!!」


 そう言いながら、優はそれが書いてあるページを見せた。

 そこには確かに優の言っていた事が望月緋那の欄に書かれていた。


「……太陽みたいな明るい人間になりたかったんだろ」 

 そっぽ向きながら、小さく呟く。

 よほど恥ずかしかったのか微かに頬を赤らめている。

 しかし、優は特に気にした様子もなく楽しそうに話を続ける。


「でさ、思ったの私」


 優の得意気な顔を見て、緋那はすごく嫌な予感がした。

 この続きは聞きたくない。

 だが、優はそんな緋那の心情は知らず楽しそうに口を開く。


「ひなたが太陽なら、私は月みたいに太陽の恩恵で光って存在を生きる(示す)っての面白そうじゃない?一生ひなたに迷惑かけまくるーーーもとい、面倒をみてもらう!!」

「マジでやめてくれ……」


 ただでさえ、自然体の時でさえ迷惑をかけられまくっているのだ。それが意識して迷惑をかけだしたら……考えるだけで嫌な汗を背中に感じる。


「ってなわけで、買い物に付き合ってもらおー」


 いつの間にか先程机の上に置いたパンを食べ終えていた優が元気良く「えい、えい、おー!」とか言いながら、拳を上に振り上げる。


「どういうわけだよ……」


 どうやらこの幼馴染み兼親友は何があっても今日、緋那を振り回したい気分らしい。

 緋那は小さくため息をつくと、自分と優の菓子パンが入っていた袋と空になったマグカップを持って立ち上がった。


 袋をごみ箱に捨て、マグカップを流しに入れる。

 水を少し出し、スポンジを軽く濡らして洗剤をつける。スポンジを軽く揉んで泡立てる。


「買い物って何処に行くんだ?」

「気のむくままに!!」

「......無計画ですか」


 マグカップを洗いながら疲れたように緋那に対して、優は楽しそうに頷いた。


「人生無計画のが楽しいでしょ」

「お前な……もうすぐ高校生になるんだから、少しは大人になれよ」


 泡を水で流して、タオルで拭く。


「えー、子供の方が楽しいのに。それと、ひなたなんかお母さんみたい」


 マグカップを食器棚にいれ終わった緋那の動きが一瞬止まった。

 今、聞き捨てならない単語が聞こえた……気がした。

 それまでは、どこか呆れたように話半分に聞いていた緋那は微かに眉をひそめる。


「俺、お前と同学年」

「うん、知ってる」


 何を当たり前のことをという顔で優は笑顔で応える。その顔を見て、微かに口元を引き攣らせながら緋那は続けて言い聞かせるように自分を指さしながら告げる。


「そもそも俺、男」

「すっごく知ってる」


 サムズアップするようにグッと親指を前に出しながらいい笑顔で応える優。

 我慢だと自分に言い聞かせながら緋那は素直に自分の思いを口にした。


「だから母親扱いはすげぇー嫌」


 それを受けて優は親指を下ろしながらキョトンとする。そして少し考えてから徐に口を開いた。


「なんかひなたってかかあ体質?」

「……優、お前俺の話ちゃんと聞いてる?」

「えっ?ぜんぜん!」


 笑顔でピースサインをする優の頭を緋那はコツンと軽く叩く。


「そーいうのを直せって言ってんだよ」

「んー?逆におとなしい私だと落ち着かなくないかな?ひなたくん?」

「……」


 確かに、と緋那は思ってしまった。敗北感を感じる。

 今までずっと迷惑をかけられ続けて、やめて欲しいと思い続けていたが実際に優が静かに大人になったら、とてつもない違和感を感じる気がする。


(でも、この性格のまま大人になられたらその方がやべぇだろう!!)


 一瞬納得しかけたが、駄目だと頭を抱えた。なんだこいつは、生ける七不思議か!?

 頭が混乱してきて、思考がどんどん現実逃避していく。


「おーい、ひなた?どうしたの百面相なんかして」


 緋那の顔の前を手のひらで「おーい」と振りながら顔を覗き込むようにしている優。


「おわっ!?」


 あまりにも近くに優の顔があった為、緋那は驚いた拍子に体重を後ろにかけてしまった為、重力に逆らえずに体が後ろに傾く。

 そして運悪く、緋那の後ろにはソファの角が。

 ガツンと小気味良い音がリビングに響いた。

 そして遅れてすぐに痛そうな呻き声と愉快そうな笑い声がリビングにこだまする。


「あははっ。だっさ、ひなたださい」


 ひーひーと言いながらお腹を抱えて優は爆笑している。相当面白いのか目元には微かに涙が溜まっている。


「ーーってぇっ。笑うな優。って何携帯片手に持ってんだ!?」


 ぶつけた後頭部を左手でさすりながら目頭を少し潤ませながら、優を見た緋那はギョッとした。腹を抱えて笑ってはいるものの、優の右手にはスマホがきちんと握られていた。


「…なっなにもや…ってないっよ」


 言葉の合間合間に堪えきれずに笑いながら、優は徐にスマホをポケットにしまった。そして数回大きく両腕を広げながら深呼吸をする。


「じゃ、でかけよー」

「何が、じゃっだよ!!」

「でも出掛ける予定だったじゃんか」

「お前が一方的に言ってるだけだけどなっ」 


 優のコートのポケットからスマホを奪う。

そして、取り返そうと手を必死に伸ばしている優の届かない高さへとスマホを持つ手を上げて操作する。付き合いが長いせいか、パスコードはお互いに知っている。


「ちょっ、ひなた。それプライバシーの侵害!!警察呼ぶよ?けーさつ!」

「別に今更お前の個人情報に興味ない。俺は….って」


 突然緋那の手が止まる。その目は驚きで見開かれていた。


「何、動画で撮ってんだ!?」


 しかもあんなに爆笑していたのに一切ブレていないとは何でだ。パシッとスマホを持ってない方の手で優の頭をはたく。


「いや、それは偶然なんだよ、偶然!!私はひなたの百面相を動画に収めようとーーいたっ」


 頭を抑えながら言い訳をするように口を開く優の頭をもう一度緋那ははしっと頭をはたく。


「偶然なら消してもいいよな?」

「えー」


 空気が凍るような冷めた声で言う緋那に対して優は不満そうに声を上げる。


「えーじゃないだろ」


 呆れたように言いながら自分の映っている動画を消す。優が「けち」とか何とか言っているが全部無視だ。

 それからまた一悶着あり、優の目的である買い物に出かける為に家を出たのは30分ぐらい経ってからだった。

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