名前は細かい事ではない
ピピピッと無機質なめざましの音が部屋にこだまする。その音にびっくりして、望月緋那は飛び起きた。髪から額をつったた汗を腕で拭い、めざましを止める。
そして、デジタル時計の日付を見た。そこには、3月31日ともうしわけなさそうに映し出されていた。
「・・・・・・夢か?」
緋那は小さく呟いた。
やけにリアルな夢だった。
いまだに耳にあの言葉が粘りつくように残っている。
どうしても、現実と区別ができなかった。
それは、わかるが何故か内容は既に曖昧になっている。
そこまで考えて、首を軽く振る。
このままじゃダメだと思い寝巻きのジャージ姿のまま部屋を出て、洗面所へと向かった。洗面所につくと、蛇口を捻り、冷たい水で顔を洗う。タオルで適当に顔を拭っていると、玄関から呼び鈴と共に誰かが叫んでいる声がするその頃には、先程見た夢の内容を忘れていた。
その声を聞き、緋那はギクリと肩を震わせた。
しかし、外からの叫び声はそんな緋那の気持ちなど知る由もなく、近所迷惑も考えずに声を張り上げ続けている。
今、家族が自分以外出かけている事を思い出して、緋那は小さくため息をつくと、タオルを右肩にかけて玄関へと向かった。
玄関の扉を開けると、予想通りの人物がそこに仁王立ちをして立っていた。
はぁ・・・・・・と小さくため息をつくと、サンダルを適当に履いて外に出た。外に出ると3月の冷たい風が肌を撫でてぶるりと体が震えた。
寒い。寒すぎる。ジャージで外に出るんじゃなかったと軽く後悔した。
そんな中、来訪者である少女は緋那を見るとピースサインをしながら笑った。
「おっはよー。今日もいい朝だよっ」
「お前は朝から元気だな。とりあえず家に入れ、寒いだろ?」
「んー? 家から走ってここまで来たからだいじょーぶ。それよりもひなたもしや今起きたのか!?」
そう言いながら少女―――文月優は眉をひそめながら、緋那をびしっと指差す。
「・・・・・・優。俺の名前は緋那だ、ひな。ひなたじゃない。ったく、何度言わせるんだよお前は」
呆れたように言う緋那を押しのけ、優はマイペースに家の中に入った。
「別にいいじゃん。細かい事は気にしなーいの。男でしょ?」
いい笑顔でそんなことを言う幼馴染に頭を抱える。細かい事って・・・・・・
「名前は細かくないだろう!?」
靴を脱ぎながらリビングへ歩いてい行く優の背中に玄関のドアを閉めながら言う。
しかし、優はどこ吹く風のように笑いながら、振り返り楽しそうに口を開いた。
「えー、なに。ひなちゃーんって呼ばれたいの?別にいいじゃん、あだ名ってことでさ」
あまりにも楽しそうに笑っている優を見て、無防備な頭を無性に叩きたくなる衝動を堪えながら、緋那はリビングに入った。両親は、先日抽選で当たった1週間の温泉旅行に行っており、兄と姉は部活に行っているため、今家には2人しかいない。我がもの顔でソファーに座って、テレビのチャンネルを弄りはじめる優に、とりあえず緋那はココアを入れて優の前の机に置くと、服を着替えるために部屋へと戻った。
その後ろ姿を少し寂しそうな瞳で眺めている優に気づかずに・・・・・・。




