世話係じゃない
朝。隣の壁が鳴った。どん、どん。
「……遅刻する」
シオンの声だ。飛び起きた。ノートを抱えたまま寝落ちしていたらしい。
昼。座学の教室で教本を開こうとして、鞄の中にないことに気づいた。昨夜、寮の机に広げたままだ。隣からすっと教本が差し出される。シオンは前を向いたまま、こちらを見もしない。
「……どうせ覚えてる」
夜。食堂の端でノートを広げていた。新しい技名の字面を確かめていたら、視界の隅にパンが置かれた。顔を上げる。シオンはもう背を向けていた。
レンはパンをちぎって口に入れた。そういえば晩飯の時間はとっくに過ぎている。
翌日の昼休み。食堂でクラスメイトに囲まれる。
「なあレン、シオン・レイシアがお前の世話してない?」
「世話? してないだろ。たまたまだよ」
「たまたま」
「そう。隣の部屋だし、席も近いし——」
「毎朝壁叩いて起こしてるよな」
「……俺が寝坊するから」
「教本も貸してたぞ、昨日」
「あれは、覚えてるから要らないって——」
「パンも置いてたろ、食堂で」
全員が顔を見合わせた。
「レン」
「ん?」
「それ世話って言うんだよ」
「……いや、たまたま——」
「世話」
反論の余地がない。
廊下でシオンを見つけた。
「シオン、みんなが俺たちのこと——」
「世話係じゃない」
被せるように返ってきた。まだ何も言い切っていない。
「……聞こえてたの」
「言わなくていい」
鞄を机に置く動作が、いつもより少しだけ速い。シオンは振り返った。
「……クラス対抗戦、足を引っ張らないで」
それだけ言って、歩いていった。
掲示板に対戦表が貼り出されていた。二組の初戦は三組。
レンはノートを開いた。書き溜めてきた技名がびっしり並んでいる。新作も増えた。だが——実戦で使うとなると、どれから切るかが問題だ。強そうなやつと弱そうなやつが混ざったまま並んでいる。
一度、整理しないとまずいな。
次回「クラス対抗戦・前哨」
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