二組の洗礼
二組初日の朝。教室棟に向かう石畳の道で、前を塞がれた。
「お前だろう。言霊とかいうハズレは」
金糸がローブの縁に一本、余計に走っている。磨かれた靴。指には家紋つきの指輪。その指先から青白い火花が散っていた。
「ガルド・ヴェルシュタイン」
名乗りが、上から降ってくる。後ろに取り巻きが二人。足を止めた生徒が壁際に寄っていく。ヴェルシュタイン——宮廷魔導師を代々輩出する名家だ。
「一組に入れなかっただけでも屈辱なのに、言霊の平民と同じ組だと? まぐれじゃないと証明してみろ」
レンは鞄の紐を肩にかけ直した。
「いいよ。どこでやる?」
◇
訓練場。石壁に囲まれた広い空間。噂を聞きつけた生徒が集まり始めていた。
ガルドが距離を取って構えた。右手に雷を凝縮させている。思うだけで雷が従う——才能とはそういうものだ。名家の英才教育で磨かれた精度が、余裕の表情に出ていた。
「来いよ、平民。声が出なきゃ何もできないんだろう?」
レンはノートを開いた。ページをめくる。四字の名前が並ぶ欄を通り過ぎて、二字の短い名前に指が止まった。
——これで十分だ。大技を出すまでもない。
ノートを閉じて、ゆっくり顔を上げる。目から日常の温度が消えた。
「『砕刃』」
低く、短く。声が空気を切った。
白い光弾がガルドに向かって走る。ガルドはとっさに雷の防御壁を張った。攻撃特化の才能で練り上げた防御。並の攻撃なら弾き返せる。
防御壁が割れた。衝撃がガルドの体を押し込む。両足が滑り、尻もちをつく音が訓練場に響いた。
静寂。
二字の短い名前——急造の、試し撃ち用だ。それが雷の防御を貫通した。誰も声が出ない。
ガルドが床に手をついたまま、レンを見上げている。言葉が出てこない顔をしていた。
◇
レンはノートを開いた。
『砕刃』の文字に、横線が入っている。手帳が勝手に刻む、使用済みの証。
「うん、いい響きだった」
勝敗ではなく、名前の出来を確かめている。耳に返ってきた音が良い。
指が止まる。
横線の上を見つめたまま、レンは考えていた。短い名前だった。急造の、お気に入りでもない名前のはずだ。なのに手応えがやけに良かった。気合が入っていた——いや、この名前は好きだったかもしれない。
ページの端にペンを走らせた。短い走り書き。
「……燃えるな」
ノートを閉じて、歩き出した。訓練場は静まったままだった。レンだけが平然と出口に向かう。
教室棟への廊下。朝の光が石の床に長い影を落としている。
すれ違った。銀色の髪が、窓からの光を受けて白く光っている。
視線が交差した。逸らされた——静かに、けれどはっきりと。
レンは足を止めなかった。次の名前のことを、もう考え始めていた。
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