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【言霊】ハズレスキルと笑われたけど技名を叫ぶたびに規格外の威力が出るんだが  作者: お寿司


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23/40

空の弾倉 ―シオン―

 残弾を数えるのは私の仕事ではない。


 準々決勝が終わった翌朝、研究棟に向かう途中でレンを見つけた。廊下の窓枠に腰掛けて、いつものノートを膝に開いている。ページの余白が目立つ。以前はびっしり埋まっていた。


「残り、いくつ」


 研究データの確認。それ以上でも以下でもない。


 レンは隠す素振りもなく指を折った。


「B級が六つ、C級が三つ」


 足りない。


 準決勝で最低四つ。決勝まで進めば、さらに五つ以上。相手の格が上がれば消費も増える。B級を温存してC級で凌ぐ場面があったとしても、決勝の後半には——空になる。なのにこの男は平気な顔をしている。ノートを閉じて、窓の外を見て、欠伸までした。


「……馬鹿」


「え、なに?」


「何でもない」


 聞こえていたはずだ。聞こえていて、笑っている。

 計算ができないのか、する気がないのか。たぶん、後者だ。


    ◇


 準決勝前夜。


 寮の廊下を通りかかったのは、たまたまだ。レンの部屋の灯りが漏れていたのも、私が足を止めたのも、全部ただの偶然の連鎖にすぎない。


 扉は半開きだった。


 レンがノートに向き合っていた。ペンを持ったまま、動かない。書きかけの文字列がいくつか並んでいて、どれにも線が引かれている。自分で書いて、自分で消した。何度も繰り返した痕跡が、ページを汚していた。


 B級なら作れる。レンの言霊生成能力なら、技として成立するものを並べるだけなら難しくない。でも——名前の響き、構えに入る時の身体の流れ、声に乗せた時の圧。そのすべてが噛み合わなければ「確信」にならないことを、この男はもう知ってしまっている。


「もう少しカッコよくできる気がするんだよな」


 独り言だった。私に向けた言葉ではない。ペンの尻で額を叩きながら、天井を睨んでいる。


「……無理でしょう」


 気づいたら声が出ていた。扉の隙間から、私の影が床に落ちている。


 レンが振り向いた。驚いた顔は一瞬だけ。すぐにいつもの軽い笑みに戻る。


「やる」


 根拠のない返事だった。でもペンを握り直す指には迷いがなかった。


 私は何も言わなかった。ただ部屋に入って、手元の灯りの術式を少しだけ強めた。薄暗い寮室が、ノートの文字がはっきり読める程度に明るくなる。


 それから、隣に座った。


    ◇


 研究対象が潰れたら困る。


 言霊の生成過程を間近で観察できる被験者は貴重で、ここで消耗されては論文にならない。だから灯りを足した。合理的な判断。


 ……指先がまだ温かい。術式を使った残熱。


 隣に座っていた時間は、長かった。レンが書いては消し、消しては唸り、時々こちらを見て「シオン起きてる?」と確認してくる。「起きてる」と返すたび、レンは安心したように視線をノートへ戻した。その繰り返しが、いつまでも続いた。


 考えてはいけない。この観察精度は研究者として当然の——


 朝。


 うたた寝から目を覚ますと、レンはもう起きていた。ノートが開いたまま机にある。昨夜までなかった文字が一行、太いペンで書かれていた。新しい名前が一つ。


「これでいく」


 レンがノートを掲げた。疲労の残る目が、それでも笑っている。妥協の色はない。


 少しだけ、息が楽になった。


 ——参考になるかもしれない。参考。


次回「準決勝 」

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