格上
『砕光』。
光弾が飛ぶ。相手の正面——薄い膜のようなものが浮かんでいた。光弾が触れた瞬間、砕けて散った。弾かれたのではなく、吸い込まれるように消えた。
角度を変える。『鋼破』。同じだ。障壁に触れた瞬間、光が呑まれていく。密度が違う。こいつの障壁は、厚さではなく質で止めている。
カウンターが来た。重い魔力弾が一発、真っ直ぐ飛んでくる。レンは横に跳んだ。足を動かして避けたのは、ランキング戦で初めてだった。
——こいつは、舐めてない。
◇
立ち位置を変えながら、相手を見る。寡黙な男だった。煽りも、見下しもない。ただ障壁を張って、こちらを見ている。
——C級は通らない。
切り替える。旧基準のB級。腹に力を入れて、叫んだ。
「『蒼炎烈衝』ッ!」
炎を帯びた衝撃が障壁に叩きつけられる。障壁が——揺れた。揺れただけだった。表面に走りかけた亀裂が、すぐに塞がっていく。
硬い。こいつの壁は、旧基準では届かないほど硬い。カウンターが飛んでくる。とっさに口が開いた。
「——壁ッ!」
即興だ。名前にすらなっていない一語。薄い膜がレンの前に浮かんだものの、相手の魔力弾は膜ごとレンの胸を叩いた。体が後ろに押され、片膝をつく。肋骨の奥が軋んだ。
距離を取り直す。足で間合いを切りながら、頭が回り続けている。
新基準のB級なら——割れるかもしれない。
ここで使えば残りが減る。準決勝。決勝。あと何発必要か、計算が追いつかない。ノートの余白が、頭の中でちらつく。
またカウンターが飛んできた。横に動いて躱すが、足が重い。さっきの被弾がじわじわと効いている。
——出し惜しみしてる場合じゃない。
でも、足りなくなったら。
◇
障壁の向こうで、男がこちらを見ていた。待っている。消耗するのを、静かに待っている。
——出し惜しみする名前なんかない。
右手を前に突き出した。足を踏み込む。息を吸って、腹の底に落とす。
「『崩嶽の穿』ッ!」
鋭い光が障壁を貫いた——いや、貫いていない。ヒビが入った。蜘蛛の巣のように亀裂が走っているが、それでもまだ繋がっていた。
男の目が、初めて動いた。
——もう一発。迷わなかった。左足を踏み直して、確信を重ねた。
「『断鋼の果て』ッ!!」
光が障壁を叩く。亀裂が広がる。軋む音が響いて——砕けた。
破片が光になって散る。その向こうにいた男の足が、初めて崩れた。膝をつく音がリングに落ちる。
「勝者、アシュフォード」
息が荒い。胸の奥がまだ軋んでいる。勝った。それなのに、拳を上げる気にはなれなかった。
通路に戻って、ノートを開く。使用済みの技名に、細い線が走っていた。指で残りを数えると、B級五発、C級三発。余白がまた狭くなっている。
——準決勝が、ある。
ノートを閉じた。指先が震えていたのは、疲労のせいだと思うことにした。
次回「空の弾倉 ―シオン―」
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