舐め→圧倒
審判がレンの名前を呼ぶ前に、観客席のざわめきが先に来た。
「言霊に負けるわけないだろ。初戦はたまたまだ」
「いや、見てたけど——」
「相手が油断してただけだって」
声が分かれている。初戦を見た者と、見ていない者で。レンはリングの中央に立ったまま、対戦相手を見た。でかい。がたいのいい男が腕を組んでこちらを睨んでいる。事前に「言霊属性に負けるわけがない」と公言していたらしい。
——ああ、こういうやつか。
気にならない。初戦で吹っ切れた体が、もう勝手に構えを作っている。
「始め」
◇
男が前に出る。踏み込みは悪くない。だが初戦の相手ほどの速さはない。
レンは指先を振った。
「『刃閃』」
「『裂光』」
C級。立て続けに放った光弾が、男の右肩と左脇腹を叩く。威力は低い。だが止まらない。レンは足を止めずに角度を変え、指先を振り続けた。光弾が散る。散る。
「チッ——」
男の舌打ちが聞こえた。防御が間に合わない。腕で弾いても次が来る。足を止めて構えを作ろうとしても、その隙に横から叩かれる。
——小さい魔法が、多すぎる。
男の足が止まった。防御に意識が偏って、攻めに転じるタイミングを失っている。右腕の防壁が雑になった。
——今だ。
レンは息を止め、両手を前に突き出した。腹の芯に、確信を落とす。
「『轟天の崩』ッ!」
衝撃波が空気ごと押し出された。リングの床が軋む。男の防壁が紙のように潰れ、体ごと後方に吹き飛ばされた。リングの縁に背中から叩きつけられ、そのまま動かない。
——手数で崩して、本命を差し込む。
これだ。
審判が手を上げる。
「勝者、アシュフォード」
観客席が騒いだ。だが、初戦のような沈黙はなかった。驚きではなく、困惑に近い。強いのか弱いのか、判断がつかない顔をしている。弱い魔法を連発して、最後だけ強い——何をやっているのか分からないのだろう。
それでいい。分からないほうが、やりやすい。
◇
通路に戻ったレンが、懐からノートを引き抜いた。
細い線。使用済みの技名の上を、刃物で紙を撫でたような跡が走っている。『刃閃』と『裂光』にそれぞれ一本。『轟天の崩』にも線が入っていた。余白が、朝より狭い。
指先で技名を辿りながら、残りを数える。B級が八発。C級は五発。ノートの右半分がもう埋まっている。
——トーナメントは、あと何戦ある?
指先でページをめくる。白い余白と、線の入った文字が交互に並んでいる。勝つたびに弾が減る。補充は、新しい名前を書くしかない。
ノートを閉じかけたとき、通路の壁に貼られたトーナメント表が目に入った。次の枠——準々決勝。対戦相手の名前の横に、小さく肩書きが添えてある。
学年三位。
二回戦までとは格が違う。ノートの余白を見る。白い部分が、もう半分しかない。
——足りるか?
ノートを閉じた。指先が、少しだけ冷たかった。
次回「格上」
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