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【言霊】ハズレスキルと笑われたけど技名を叫ぶたびに規格外の威力が出るんだが  作者: お寿司


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20/40

ランキング戦開幕

 石畳を踏む足音が、闘技場の通路に吸い込まれていく。


 冷えた空気。奥から観客の歓声がくぐもって届く。レンはノートを懐にしまった。リングへ続く階段を一段ずつ上がる。視界が開けた瞬間、熱気が顔にぶつかった。円形のリングを観客席がぐるりと取り囲んでいて、想像していたより、ずっと人が多い。学院全体の上位を決める個人トーナメントだ。勝ち上がれば学院代表の推薦枠——王家や貴族家の引き抜きにもつながる。王都からわざわざ客が来るのも、そういう事情らしい。


「おい、言霊のやつがランキング戦だとよ」

「場違いだろ。名前叫んでるだけだぞ」

「早々に終わるな」


 不特定多数の声が、上から降ってくる。レンはリングの中央へ歩を進めた。気にならない。むしろ腹の底に火が点く感覚があった。


 観客席の一角に、シオンの姿が見える。いつもの無表情で、こちらをじっと見ていた。その後列に、腕を組んだ教師。見届ける側の目だ。


 対戦相手はすでにリングに立っている。上位クラスの無詠唱使い。名は確認していない。足の構えだけで、もうこちらとは違う重心だと分かった。


 審判の声が響く。


「両者、位置につけ。……始め」


    ◇


 相手が動いた。速い。視界の端から端へ、一拍で詰めてくる。レンは右に足を滑らせ、指先を突き出した。


「『烈破(れっぱ)』」


 C級。二字で軽く置いた光弾が相手の肩口を掠めた。掠めただけだ。相手はすでに角度を変えて回り込んでいる。この速度では、C級は届かない。距離が差を呑み込んでしまう。


 間合いを切るしかなかった。レンは半歩下がり、右手を横に薙ぐ。腹に力を込めた。


「『蒼雷咆哮(そうらいほうこう)』ッ」


 空気が鳴る。青い光が筒状の帯になって走り、相手の踏み込みを正面から叩いた。相手が二歩、後ろに押し戻される。手応えはある。旧基準のB級——効いた。


 だが、決定打にはなっていない。相手は数歩ずれただけで、もうこちらへ笑いを向けていた。


「その程度か」


 ——お前が、その程度か。


 レンの内側で、昨夜ろうそくの前で書いた太い字が、すっと立ち上がった。確信=威力。全部繋がっている。相手の速さを超える刃は、もう自分の中にあった。


    ◇


 息を吸った。薄く、深く。右手を地面と水平に掲げ、指先を相手へ向けた。腹の芯に、確信を、ひとつ残らず集める。


 ——次元が違う。


「『雷牙の閃(らいがのせん)』ッ!」


 空気が割れた。青白い刃が一条、リングを縦に裂いて走る。相手が両腕を胸の前で交差させた——刃は、その腕ごと通り抜けていた。防御の意味が成立していない。相手の体が弾き飛ばされ、リングの端に落ちる。仰向けに伸びたまま、口だけが動いていた。嘘だろ、と形だけが読める。


 会場が静まった。


 ざわめきが遅れて押し寄せた。


「おい、今のなんだ」

「一組の無詠唱が……言霊に、一発?」

「威力、さっきの一発と桁違いだぞ」

「場違いって言ったやつ、誰だっけ」


 蔑視の声を出していた側の観客席が、急に静かになっている。手のひらが一斉に裏返る音がした。


 シオンが立ち上がりかけて、また腰を下ろす。いつもの無表情のはずが、眉の角度が違っていた。教師の腕組みもほどけている。


 レンは懐からノートを取り出して開く。今朝まで白かった『雷牙の閃』の文字の上を、刃物で切ったような細く鋭い線が、紙の繊維をひと撫でして走った。


 ——うん。新しい名前のほうが、ずっといい。


 ノートを閉じた。指先の痺れはまだ残っていたが、息はもう整っている。


 審判が片手を高く上げる。


「勝者、アシュフォード。——次戦、二回戦」


 観客の声は、もう聞こえない。


次回「舐め→圧倒」

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