新基準
ろうそくの火が揺れている。
寮の自室。夜の空気はまだ冷たい。レンはノートを机いっぱいに広げて、過去のページを順にめくっていた。
意味が効果を決める。カッコいいほど威力が上がる。文字数、ポーズ、発声——ひとつひとつ、実験で確かめてきた変数が並んでいる。
指が止まった。ポーズの項目に「体が動くに任せたら、出力が跳ねた」。発声の項目に「叫びたいから叫んだ。加減したら落ちた」。文字数の項目に「長いほど重いが、重さは覚悟の厚みだ」。
——「信じる」って書けばよかっただけか。
レンはペンを置いた。前に「カッコいい」と書いた時は、それでよかった。心で感じる言葉。体で分かる言葉。でも、設計図を引くには足りない。「カッコいい」は自分にしか分からない。
他人に渡せる言葉、次の名前を組み立てるための言葉——。
「自分が、どれだけ深く信じて撃てるか」。それを一言にすれば、確信だ。名前の選び方も、声の出し方も、構えの取り方も、すべて「確信を削らないため」の工夫だった。
「——確信を最大化する。それを設計できれば、名前は伸びる」
声に出した瞬間、腹の底がすとんと落ちた。白紙のページを開いて、太い字で書いた。
——確信=威力。掴んだ。
◇
練習場。朝の空気が砂の匂いを運んでくる。
レンは的の前に立っていた。ノートには、昨夜作った新しい名前が四つ並んでいる。統一理論に基づいて——確信を最大化するように設計した名前だ。
まずC級で肩を温める。二発撃って、感覚を掴んだ。——本番だ。
息を吸った。右手を水平に薙ぐ。
「——『氷獄の零』ッ!」
空気が凍りついた。比喩ではない。的の表面に白い霜が走り、次の瞬間——的が内側から割れた。砕けた破片が地面に散る前に、霧に変わって消えた。温度を根こそぎ奪い尽くしたのだ。的は形を保てなかった。
レンの息が白い。指先が痺れている。だが口もとは笑っていた。
ノートに目を落とし、残り三発の名前をなぞる。ランキング戦の本番用に温存だ。一発撃てば十分わかった——新基準で作った名前は、旧基準とは格が違う。
「……段階3に達したか」
振り向くと、練習場の入口に教師が立っている。腕を組んだまま、的の残骸にちらりと目を落とし——そのまま踵を返して去った。
◇
自室に戻り、ノートを開く。
B級のページを見返して、以前から持っていた名前に「△」をつけていく。語感で作った旧基準。悪くはない。でも、設計された名前とは格が違う。
今朝の三発には「◎」をつけた。
「名前にも世代があるんだな」
呟いて、ページをめくった。△と◎が混在するB級の一覧を眺めながら、C級もウォームアップで減っていることを思い出す。足りるかどうかは、ランキング戦の相手次第だ。
実験記録のページに目を戻す。太い字がろうそくの光を受けて浮かんでいた。
——確信=威力。残りは使い方の問題だ。
寮の廊下を通りかかった時、掲示板に新しい紙が増えていた。トーナメント表だ。名前がずらりと並んでいる。
自分の名前を見つけて、初戦の相手の欄に目を走らせる。
「相手は……誰だ?」
知らない名前だった。だが、隣に書かれた才能名に目が止まった。
次回「ランキング戦開幕」
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