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【言霊】ハズレスキルと笑われたけど技名を叫ぶたびに規格外の威力が出るんだが  作者: お寿司


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古い文献

 あの男が、また図書室にいる。


 廊下の窓から見えた。奥の書架に張りつくようにして、一冊ずつ棚から引き抜いている。目次を開き、数秒で閉じ、次を引く。手当たり次第。体系も優先順位もない。


 私は足を止めなかった。立ち止まれば気になっていることになる。


 自室に戻り、ノートを開いた。あの男が何を調べているかは聞かない。聞くのは私のやり方ではない。だが——声を使う魔法についての資料が意図的に破壊されていることくらい、私も気づいている。


 気になっただけ。確認したかっただけだ。


 蔵書目録を書架の端から引き出し、手元に広げた。刊行年を拾い、時系列に並べる。声と魔術の関連に触れた文献は、ある年代を境に急激に減る。減るのではない。消えている。150年前を境に、一冊もない。


    ◇


 目録を辿っていくと、消失が始まった年代に一つの法令番号が紐づいていた。あの男が探していたのは魔術書の棚だ。法令の棚には来ない。


 書架の反対側——行政文書の区画に足を運んだ。埃の積もり方が違う。誰も来ていない。


 該当の綴じ込みを引き出すと、一枚の布告の写しがあった。


 『聖黙令』。


 「声を用いたる魔術行使を禁ずる」——文面はそれだけだった。理由の欄には「公共の安寧のため」とだけ記されている。教団が出した布告。施行は300年前。


 300年前に布告が出て、150年前には文献そのものが消えている。布告から実行までに150年かかったのか、それとも段階的に消したのか。どちらにしても——


 これは安全管理ではない。


 ページを繰る。


 安全のために禁じるなら、記録に残して管理すればいい。残せばいい。危険な魔術は他にいくらでもあるが、それらの文献は残っている。声の魔術だけが、記録ごと消されている。


 技術の抹消だ。存在しなかったことにするための。


 ノートにそう書いた。ペンを置く。窓の外が暗くなっていることに、今さら気づいた。指先が冷たい。


    ◇


 翌日。図書室の前であの男を見つけた。


「……少し、いい?」


 あいつが振り向く。ノートを抱えたまま、いつもの間の抜けた顔をしている。


「お、シオン。珍しいな、自分から——」


「聖黙令。300年前に教団が出した布告。声を使った魔術の禁止令よ」


 余計な前置きはいらない。調べたことを淡々と並べた。文献の消失パターン。技術抹消の意図。


「あなたのスキルは、300年前に消された技術の残滓」


 あの男は黙って聞いていた。怒ると思った。あるいは動揺すると。


 だが——笑った。


「じゃあ、俺が最初の復活者ってこと? 最高じゃん」


 ……この男は、本当に。


 言葉が見つからなかった。見つける必要もない。視線を逸らした。


 掲示板に新しい紙が貼られていた。


 『ランキング戦 来月実施——上位入賞者は学院代表候補に推薦』


 あの男の目が、掲示板に向いたのが分かった。


次回「新基準」

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