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【言霊】ハズレスキルと笑われたけど技名を叫ぶたびに規格外の威力が出るんだが  作者: お寿司


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17/40

焚書の痕跡

 図書室の扉は、開くたびに微かに軋む。


 何日も通えば、音の癖まで覚える。右の蝶番が鳴る。左は黙っている。レンは扉を肩で押し開けて、いつもの奥の書架に向かった。


 窓から差し込む光が、棚と棚の隙間に細い線を引いている。埃が光の中で舞っていた。


 今日もここから。


 背表紙を指でなぞりながら、一冊ずつ引き出す。目次を開き、「声」「名」「詠唱」——引っかかる単語を探す。見つけたら該当ページを開いた。


 黒く塗りつぶされていた。インクで、一文字も読めないほど丁寧に潰されている。前に見つけたのは刃物で切り取る手口だった。今度はインクだ。やり方は違うが、消されているのは同じ——言霊に関する記述だけ。


 棚に戻して、次の一冊を引く。目次から該当ページを開くと、そこも同じだった。


 破られている。


 次も同じ。該当する章そのものが丸ごとない。背表紙と表紙の間に挟まるべき厚みが、物理的に足りなかった。


 ——一人じゃないな、これ。


 切り取り、塗りつぶし、章ごとの除去。手口がバラバラだ。一人が気まぐれでやった仕事じゃない。複数の人間が、たぶん別々の時期に、同じ目的で動いている。


 組織的だ。


 レンは本を戻して、息をついた。苛立ちよりも好奇心が勝っている。ここまで徹底して消すということは——消す価値があったということだ。


    ◇


 棚の端まで来た。残りの本を機械的にチェックしていく。破壊、塗りつぶし、欠落——同じパターンが続いた。


 最後の一冊を開いた時、手が止まった。


 本文は無事だ。言霊の「こ」の字もない——魔法触媒に関する退屈な学術書で、検閲の対象になる内容は見当たらない。


 ただ、欄外に手書きの文字があった。


 薄いインクで崩れた筆跡が走っている。本文とは明らかに別の手が、余白に走り書きを残していた。


「言霊は声の力ではない。名の力である。名が世界に刻まれる時、世界は応答する」


 呼吸が浅くなった。


 レンは本を持ったまま、動けなかった。目が走り書きから離れない。


 ——名の力。


 自分もそうだ。ノートの余白に、思いついたことを書く。本文の隣に走り書きする。誰かが同じことをしていた。ずっと前に、同じように余白に書き残した誰かがいて——この一文だけが、検閲の網をすり抜けた。本文ではなく落書きだったから。


    ◇


 本を閉じた。「名が世界に刻まれる」——意味はまだ分からない。でも、言霊を使っている自分には、「名の力」という言葉が胸に刺さった。名前を叫ぶたびに世界が動く。それを知っているのは、使い手だけだ。


 レンは本を棚に戻した。


 誰が消した。なぜ消した。——言霊って、本当にハズレなのか?


次回「古い文献」

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