心の問題
「名前にどれだけ心を込められるかで、威力が変わる」
シオンが瞬きをした。レンは砕けた的の破片を踏みながら歩き回っている。興奮が足に出ていた。
「ポーズも声も文字数も、全部手段なんだ。根っこは——自分がカッコいいと信じられるかどうか」
「……非科学的」
「魔法が科学的だったことある?」
「……」
反論が来ない。勝った。
レンはノートを広げた。「仮説なんだけど。同じ名前でも、テンション低い時に撃ったら弱くなると思う。心の底から信じて撃てば——格が上がる」
「……根拠は」
「さっき試した」指が走り書きをなぞる。「前の記憶にある技名を全力で撃った。急造とは比較にならなかった」
シオンの視線がノートに落ちた。「確信→威力」。矢印の横に殴り書きの感嘆符。
「……つまり、心の問題だと」
「そう。心の問題」
レンは笑った。シオンは表情を変えない。ただ、視線がノートから離れなかった。
◇
ノートの白紙ページを開いた。シオンは入口の壁にもたれたまま、こちらを見ている。気にせず作業に入る。
B級のページをめくった。ストックを見返す。
『蒼穹裂破』——使用済み。横線が走っている。
『天穹雷断』——同じく。
未使用のB級が並んでいる。語感はいい。だが、新しい基準で見ると——
「……悪くない。けど」
信じられるかと聞かれたら、グラつく。カッコいいとは思う。でも、腹の底から「これだ」と叫べるかというと、少し足りない。語感で作った名前と、確信で作った名前は違う。
ペンを取って、白紙に文字を置いていく。
漢字の並び。音の響き。意味の重さ。そして——自分がこの名前を叫ぶ瞬間を想像して、心臓が鳴るかどうか。
書いては消し、消しては書いた。
手が止まった。ノートの上に漢字が並んでいる。声に出さなくても、腹の底が熱い。
——これだ。
◇
的の前に立った。シオンがまだ壁にもたれている。
息を吸う。砂の匂いが肺に落ちる。足を踏み込み、腰を落とし——右の拳を天に突き上げた。指先が天井を突き刺すように伸びる。今まで何度もやった動作とは違う。体の芯から湧き上がるものに従っただけだ。
「——『煌天の刃』ッ!」
光が走った——のではなかった。
空間が歪んだ。放たれた衝撃は光にすらならず、的に触れた瞬間に的そのものが消えた。砂地に円形の窪みだけが残る。音が遅れて轟き、練習場の天井から砂が降った。
レンの手が下がった。
「……今までのB級と、全然違う」
自分で言って、自分で驚いている。同じB級で、同じ四字構成。なのに、出力が別物だった。
◇
教師室。実技記録の数値を追っていた手が止まった。
アシュフォードの欄。入学時の数値と、直近の記録。折れ線グラフにすれば、途中から角度が変わっている。
教師は記録簿を閉じた。
「——成長速度が異常だ。ランキング戦に推薦する」
次回「焚書の痕跡」
ブックマーク・感想いただけると励みになります。




